灯の標仕事を終え、食事を摂り、身支度を済ませた後の穏やかな暇。ソファにだらしなく腰掛けながら本を捲り、時折珈琲を啜ってみたりする。ゆったりとしたひと時を大いに満喫するなど、大罪人には過ぎた幸福と言えるだろう。糾弾は甘んじて受け入れる。しかしこのなんてことのない時間は、私たちが私たちである為に欠かすことのできない暇だった。
「よっこら、せ」
のんびりと脱力していると、不意に親父臭い掛け声が降ってくる。誰と疑うまでもない、金糸の親友殿だ。実を言うと、我が家としてくつろいでいるこの家はアルベールの住処である。私の住処は騒動の最中に暴徒たちによって壊されてしまい、到底住める状態ではなくなってしまったのだ。医務室を退院した後どこに住むか、というのはそれなりの難題であったはずなのだが、親友殿があっけらかんと「俺の家でいいじゃないか」と言い放ったものだから議論はすぐさま終結し今に至る。唐突に始まった二人暮らしは思ったよりずっと快適だ。何より、傍に心から信頼できる男がいるというのはほっとする。
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