明星死期が近い。見積もられた余命を淡々と闇医者に告げられた時より、今のほうがよほど実感と納得がある。起き上がるのも億劫な気怠さが常に付きまとい、眠気はいつまでも遠のいていかない。気を抜けば視界も判然とせず、最も厄介なのは予兆なく喉を遡ってくる多量の血液だった。どこから漏れているのか知らないが、軽咳が一つ零れたと思うと次から次へ赤が流れ出てくるからタチが悪い。辛うじて若者二人の前では失態を見せずに済んでいるが、最も見せたくなかった男は何度か驚かせてしまっている。
弱らずいきなり逝ければよいのに、なんて無駄なことを考えてしまうのは死への恐怖からではなかった。終わることに恐れはない。むしろ、安堵すらある。もしも怖いことがあるとすれば、この手で守り続けてきた友のこと。隠し事の何もかもを見透かす聡明な親友。彼に、夢も希望もなかった子供の頃のような、昏い顔をさせてしまうのだけが後悔だった。彼のために捨てた命である。しかし、この命が消えればカインは深く傷を負うだろう。それこそ消えない傷だ。凶弾などより深く、重く、それはカインを傷つける。それが、それだけが、俺の後悔だ。
6673