理由「何を観ているんだ、啓悟」
声をかけられて鷹見啓悟は顔を上げた。百九十センチメートルを超える体躯の同級生が机の前に立っていることに気付きもせず、スマートフォンの小さな画面に釘付けになっていたらしい。声をかけた同級生は若干、機嫌が悪そうに見える。
「炎司くん。一緒に観る?」
啓悟はワイヤレスのイヤホンを片方外して炎司の手のひらに握らせ、隣の椅子を自分の方に寄せた。
「何だ、それは?」
小さな画面を覗き込む炎司の前髪が啓悟の額を掠りくすぐったくて身動ぎする。
「フレイムヒーロー・エンデヴァーとウィングヒーロー・ホークスのファンミの特集動画。今日限定の特別編集版!」
「ファンミ?」
「ファンミーティングの略だよ。この二人がナンバーワンとツーになってから定期的に開かれてたってヤツ」
エンデヴァーとホークスは、二人が生まれる前に活躍したプロヒーローだ。今でも根強い人気で同級生の間でもファンは多く、啓悟もその一人だった。
「はぁ〜、エンデヴァーさん〜……、かっこよか」
左のイヤホンから流れてくる、エンデヴァーの低い声にうっとりとしたため息を吐く啓悟に、炎司は眉をひそめる。
「フン、ミーハー男が」
ハッ、と小馬鹿にするような炎司の言い方に、啓悟の剛翼がバサリ、と羽ばたいた。
「何、炎司くん、その言い方。君だって、ホ・ー・ク・ス!のファンじゃん!俺が知ってんだからね。君がホークスの復刻グッズ買いに先週、列に並んでたの。どっちがミーハーだっての!」
フンッと啓悟は負けじと鼻を鳴らした。
「なっっっ⁉︎貴様、何で知って……っ、クソっ、……まぁいい。ホークスは凄いヒーローだ。二十一という若さでナンバーツーまで上り詰め、実力もさることながらプロヒーローのPR活動もこなす……バランスの取れた、理想的なヒーローだと思う」
コホン、と炎司が咳払いをする。その少し赤くなった頬を横目で見ながら啓悟が口を開く。
「ふ〜〜〜ん?炎司くんってあーゆーチャラい感じが、好きなんだァ〜?」
「ホークスはチャラくない!貴様だって何が『エンデヴァーさ〜ん』だ!デレデレデレデレ鼻の下を伸ばしてみっともない!」
「鼻の下伸ばしてんのはどっちですかぁ〜⁉︎」
「何だとっ、そもそも俺がホークスを好きなのはっ」
言いかけて、ぐ、と炎司は口を噤んだ。
「好きなのはぁ〜?」
じと、と下から見上げる蜂蜜色の瞳が眩しくて思わず炎司は目を細める。
「……ふん、次の授業が始まる。行くぞ」
右のイヤホンから聞こえるホークスの声を惜しみながらも外して、啓悟へ手渡した。黙って受け取る啓悟の瞳がゆっくりと細められる。ケースへワイヤレスイヤホンを仕舞って立ち上がった啓悟が、炎司くん、と笑いながら呟いた。
「教えてよ、君がどうしてホークスのことを好きになったのか」
終