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    44_mhyk

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    #そういうブラネロ11
    #うつさたプチ
    営業1課課長ブラッドリー×設計課ネロ(元営業1課)のリーマンパロです。
    晶とファウスト登場します。

    ##ブラネロ
    ##現パロ
    ##リーマンパロ

    彼と彼のヒミツゴト「ブラッド!なんだあの無茶で雑な依頼書!」
     晶は思わずびく、と肩を震わせた。
     営業の部署が集中しているエリアの一角のスタンディングミーティング用のスペースから漏れたものらしい。
    「ネロ……? の、声ですよね」
     晶の疑問符は無理もない。新しい制度に対応するために導入する経理システムについての打ち合わせで共に会議室へ向かう途中だったファウストがそうだな、と晶とは対照的に至って冷静に頷いた。
    「取引先から依頼があった新製品の打ち合わせだろう。……君、なんでそんな驚いた顔をしているんだ」
    「あっ、すいません。ネロ、いつも緩いというか、のんびりっていうか……あまり怒っているイメージがなかったので、驚いちゃって」
     晶が知っているネロは、穏やかに笑っている事が多くて、ほんの少しだけちゃっかりしていてあまり負の感情を強く表に出さない印象だ。良くも悪くも皆平等に接するから、慕われるけれど、あまり彼に踏み込める人間は多くない。
     毎年バレンタインとか、飲み会とか、社内の交流行事とかの度に失恋する女性が多いのも知っている。
     ファウストは渋い顔で嘆息して、ミーティングスペースを覗いた。
    「廊下まで響き渡っているよ、ネロ。……またブラッドリー相手に声を荒げているのか」
    「ファウスト。だってこいつさ」
     木目調のスタンディングデスクを挟んで、ネロと向かい合っているのはブラッドリー。営業一課の課長だ。毎週金曜のカジュアルデーだというのに、客先への用事があったのかスーツ姿だ。とはいえ、ジャケットはボタンを掛けず、首元はネクタイもない。晶の位置からは、ブラッドリーのデスクの上に綺麗に丸めて置かれたネクタイが見えた。
     一方のネロは、ビッグシルエットのデニムシャツ姿だ。基本、設計課は客先との打ち合わせに同席する以外はカジュアルスタイルが許可されている。
     まるでけんかの仲裁をされた子供のような表情でファウストを振り返ったネロを見て、ブラッドリーの眉間の皺が僅かに深くなる。
    「ひでえ予算で新規製作取ってきやがって。この機構に使うパーツは手作業で組むから原価が高いっつったろうが。絶対にあちらさんの希望額は無理だっつうの!しかも仕様の詳細も書かねえ設計依頼書出しやがって!」
     なるほど、ネロの怒りもごもっともだ。晶は苦笑いを浮かべた。
     営業が取引先からの要望で新製品を受ける時は、基本的にはまずは設計見積を受けてから先方の予算とすり合わせ、契約額を決める。
     初回の金額決定は非常に重要だ。採算が取れない、それどころかマイナスになる価格設定をされるとその後、量産に入った際に売れれば売れるほどマイナスが積算するからだ。
     どうやらブラッドリーは先に金額の約束をあらかたつけてしまってから設計依頼を寄越したらしい。
     ファウストが、またか君、とブラッドリーを半眼で見る。
     だがブラッドリーは不本意そうに頭がかてえんだよそもそもが、と顔をしかめた。
    「今回は、あちらさんが希望する性能と見た目をクリアすれば使う材料や材質はある程度自由にする約束だ。そりゃ、この性能を実現するのに今のうちの既存のパーツ採用すりゃあ予算オーバーだがよ、お前は製造棟にみっちり通って製造のノウハウも人脈も押さえてきたんだろうが」
    「!」
    「ここの客は何度か同行させたし癖や好みは知ってるだろ。強度をキープしたまま安価な材料の選定から工数を押さえたパーツの設計、てめえならできるだろ。拘りてえから、って納期はしっかり貰う約束だ」
     ブラッドリーのノートパソコンに表示されている打ち合わせデータの社名は、一流企業のものだ。
     ブラッドリーの言葉は信頼だ。ネロの実力を、信じて疑わない、というのがわかる。
     その証拠に、ネロの表情が変わった。
    「全く別にパーツから……、ブラッド、もっとしっかり打ち合わせさせろ。ここじゃだめだ。会議室に移動してしっかり」
    「待て、この後1件予定がある。午後からなら客先回りも入れてねえ。会議室押さえてスケジュール入れておく」
    「わかった」
     ネロの表情はまだ厳しいままだが、僅かに目が輝きだしたような。
     そう思って見ていると、晶、急がないと会議に遅れる、とファウストに促された。
     先に歩き始めていたファウストに大股で追いつくと、あの二人はいつもああらしい、と彼は肩をすくめた。
    「不仲の噂もあれば、親密という噂もある。まあ他人の噂なんて根も葉もないものだろうし、どうでもいいけど」
    「なんだか、バディって感じですよね。ネロが見たことないくらい最後らへん、きらきらしてたように見えました」
    「ふふ、きらきら、か。それ、本人に言ってあげたら? きっと照れ隠しに顔をしかめて、言い訳を重ねるだろうけど」
    「あはは、想像できます」
     会議室のスライドドアに手をかけながら、ファウストが柔らかく笑った。
    「彼の趣味を知っている?」
    「趣味? 料理ですか」
     以前に聞いたことがある。仕事が詰まっていて残業を重ねる時以外は、自作弁当を持参している、という話も聞いた。不思議と、食べているところは見たことがないのだが。
    「そう。冷蔵庫にあるものを組み合わせて店のメニューを手抜きで再現するのが好きなんだ」
    「ああ、なるほど」
     店の料理が既存のパーツで、と考えて晶は思わず笑った。
     きっと、ネロは工数のかからない、似た機構を持つパーツを作りあげるんだろうな、と思った。



     その夜。
    「ああ……遅くなっちゃった……」
     新しいシステムを実際に使ってみて運用の仕方や問題点を洗いだす、という宿題が月初の業務と重なり、思いがけず遅くなってしまった。
     十七時半が定時なのに、もう二十時だ。
     経理部ブースにはもう誰もいない。晶はノートパソコンをロッカーに仕舞って鞄を取り出した。
    「ん、ひょっとして俺最後かな」
     フロアに最後だったら、セキュリティのセットをしていかなくては。
     営業フロアはきっとまだ人がいるだろうけれど、晶がいるのは設計やデザイン、経理や総務といった部署が集まっている。もうこの時間になると残っている部署はほぼない。
    「あれ、光が……設計だ」
     設計課の部屋から光が漏れていた。誰かいるのかな、と覗いた晶は、大きなディスプレイの影から顔を出した人物に目を丸くした。
    「え、ブラッドリー? 何してるんですか設計で」
    「おう、なんだてめえかよ」
     ブラッドリーだ。座っているのはネロの席だろうか。大きなディスプレイが邪魔をして顔から下は見えないが、彼はひらりと手を振ってみせた。
    「さっき見てたろ、打ち合わせ。あの続きをしてたんだよ」
    「あ、てことはネロも残っているんですね」
    「おう。あー、便所行った」
    「そうなんですね。すいません、俺お先に失礼します。多分、ここのフロア、あとネロだけなんで、伝えておいていただけますか?」
     本当に、バディって感じだな。
     ブラッドリーは大手や一流と言われる客先を抱える多忙な営業。
     ネロも、企業から営業を通して指名されることが多く何件も抱えていると同じ部署のヒースクリフからも聞いた。
     打ち合わせの時間が時間外にずれ込んで、今に至るのかもしれない。
    「あの、遅くまで打ち合わせ、本当にお疲れ様です。じゃあ」
    「おう、伝えとく。お疲れ」
     ブラッドリーに頭を下げて踵を返しながら、きっと成功させるんだろうな、あの二人なら、なんて思いつつ、晶はエレベーターへ向かった。




    「……だってよ、ネロ」
     気配が完全に消えたのを確認してから、ブラッドリーは半笑いで椅子を引いた。
     地震の訓練よろしくデスクの下で体を丸め込んでいた男が、耳までじわりと赤く染めながら、うるせえよ、と小さく呻いた。
    「さすがに萎えちまった。さっさと帰ろうぜ」
     ブラッドリーは、晶が顔を出す寸前までネロの好きにさせていた部分をインナーにしまい込み、スラックスのジッパーを上げる。
    「うち泊まればいいだろ、そうすりゃ続きはできる」
     珍しいおねだりは無駄にしない、とばかりに提案をされ、ネロが上目遣いで口をへの字に曲げる。照れ隠しだ。ブラッドリーにはわかる。
    「今日も?」
    「今日も。つうか、いい加減越してくりゃいいのによ」
     デスク下から這い出てきたネロがもそもそとパソコンの電源を落とすのを見守りながら、ブラッドリーが傍らに落としてあった鞄を掴み上げる。
     営業一課から異動希望で出て行った数年前、激しい言い合いの末一度別れたこの男と復縁をしたのは去年のことだ。
     数年のブランクがなかったことのように、いや、以前よりも増して互いに求めあうようになった。ここしばらく互いに忙しくてまともに触ることもできていなかったからと言って、こんな場所でこんな警戒心の強く恥ずかしがりの男がブラッドリーの欲を咥えたがるくらいには。
     ネロはいや、だって、と引き出しからトートバッグを引っ張り出しながら唇を尖らせた。
    「住所変更届、総務に出すことになるだろ」
    「まあな。前に懲戒処分で名前出てたやつ、住所詐称してて通勤費がどうのって聞いたぜ」
    「……はずかしいだろ。一緒に住むって、バレるじゃん……」
    「……」
     別にかまやしねえだろ。
     言いかけた言葉を飲み込むことに成功したのは、ブラッドリーのここ数年の進化だ。
     めんどくさいが、ネロにはネロなりのあれこれがあるのだ。
    「まあいいけどよ。ほら、さっさと帰ろうぜ」
     今日は久しぶりに一回くらいなら、繋がれるかもしれない。
     自分のデニムシャツを着込んだ恋人の背をそっと押しながら、ブラッドリーは頬を緩めた。   
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