七森ゆりと丹羽沙奈藤紫 異界
藤紫は、夢を見なかった。
ひとりぼっちで、ただただ先程と同じ廊下を眺めている。
「どうして……」
背後から聞こえた声に振り返ると、小学校高学年くらいの女の子が5メートルほど先に立っているのが見える。
彼女はひどく困惑した表情を浮かべて、こちらの様子を窺いながら胸元で自分の手をきゅっと握りしめていた。
藤紫はそれを見てすぐに顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。嗚咽に合わせて体を揺らしながら、決してそちらを見ずに「うう」と唸って、たまにしゃくりあげたりする。
しばらくそうしていると、ざり……という地面と靴の擦れる音が聞こえて彼女が駆け寄ってくるのが伝わる。そして背中に小さな手のひらが乗せられた。
2059