涙滴る死に顔 フロックの話を聞いていると、どうも死に急ぎ野郎と重なってならなかった。暑苦しい根性論で周りを巻き込んでいた頃の、あいつだ。
お前は無鉄砲なバカではないだろ、と思って聞いた。
「お前は死ぬのが怖くねえのかよ」
フロックは何も答えず俺の顔を少し眺めた。それから、鸚鵡返しに聞いてきた。
「ジャンは死ぬのが怖いのか?」
フロックの目を見れば、思いの外穏やかな色をしていた。咎められているわけではないようだ。俺は素直に答えた。
「怖いだろ、そりゃ」
「そうか」
「当たり前だろ。誰だって怖いだろ」
お前だって怖かっただろ、と言いかけてやめた。フロックの気持ちをわかった風になるのはやめようと、前から気を付けていた。俺とこいつは、見た景色も、味わった地獄も違うのだから。
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