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    shitahaguki

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    典鬼

    性癖 母性鬼丸国綱の幼児化











    鬼丸国綱が小さくなってしまった。

    審神者の甥っ子が3歳になるのだが、だいたい、それくらいの背丈だ。
    顔立ちも、それに見合った子供だ。
    目はたっぷりとした大粒で、唇はふっくらと柔らかい。
    ほっぺなんぞ吸い付きたくなるほど、もっちりと膨らんでいる。
    元々この男は童顔の気配があったが、本当に子供になると、彼の顔というのはこの年頃からそう変わっていなかったようだ。
    問題は外見に加えて、中身まで、鬼丸国綱は子供になってしまったのだ。
    周りは、自分よりもずっと大きな大人の男ばかり。
    怖いのか、子供だからなのか、角がうんと小さい。微かに判る程度だ。
    それに加えて眉は下がり、口元はきゅっとして、瞳はうるうる。今にも泣きそうだ。


    「人見知り、なのか」

    「多分ね」


    審神者と長谷部に事情を説明しにやってきたのは、そんな鬼丸国綱を連れた大典太光世。
    朝起きたら、隣で寝ていた鬼丸国綱がこんなに縮んでいたのだ。
    どうしたどうしたと執務室に集まってくる男士達や、審神者や長谷部には、鬼丸国綱は顔を隠してしまう。
    しかし、矢張りというか、大典太光世だけは大丈夫なようだ。
    執務室まで大典太光世の抱っこでやってきたのだ。
    説き伏せた訳ではない。
    行こうと腕を伸ばしたら、するすると抱っこさせてくれたのだ。
    なので大典太光世だけは、ふんわりとした髪を撫でる事が出来たし、ほっぺに頬擦りする事も出来た。
    当然、こんな身体では何もさせられないし、一人にもさせられない。
    戻るまで、大典太光世が鬼丸国綱の面倒を見る事になった。
    街で暮らす審神者の姉が、もう使わなくなった子供用の家具や道具を譲ってくれたので、不便らしい不便は無い。
    当然ながらこの本丸は、刀剣男士が暮らす為に改装されたものだ。
    テーブルや椅子、食器や歯ブラシは勿論。初めて見る補助便座というものに、刀剣達は眼から鱗であった。
    彼女の助けがなければ、もっと大変な事になっていただろう。
    洋服も何着かお下がりを貰い受けたので、刀剣達は早速ファッションショーにとりかかりたがったが、ずっと大典太光世の傍から離れない。
    大典太光世がいたら何でも出来るが、大典太光世がいなければ、この小さな鬼丸国綱は何も出来ないようだ。

    そんな彼がこれからどうやって生活するのか気になって堪らない刀剣達は、業務の合間にちらちらと様子を伺いにやってきた。
    お着替えは、大典太光世の手を借りなくとも一人で出来た。トイレは、大典太光世についてきてもらわないと一人で出来なかった。
    ご飯は、大典太光世にあーんをしてもらわなくても、一人で食べられた。
    食堂の飯炊き達に伝えて、急遽子供用のメニューを作ってもらったが、好き嫌いは一切無かった。小さなハンバーグや、ケチャップライス等、お子様ランチのようなメニューを小さなフォークで食べる様は、本当に小さな子供が本丸にやってきたようにしか見えない。
    刀剣達の中には、身体は小さいが、中身は元の鬼丸国綱のままではないかと疑っているものもいた。しかしフォークの持ち方や食べ方。ケチャップで汚れる口元を見て、考えを改めたようだ。


    「凄いね、あんたニンジン食べられるんだ」


    大典太光世も、これは昨日まで一緒にいた鬼丸国綱ではなく、3歳の頃の鬼丸国綱と思って接した。
    みじん切りにされたピーマンや玉ねぎ、ニンジンのグラッセも、嫌がらずに綺麗に食べた。
    極度の偏食な大典太光世よりもお利口だ。
    お残しも無く綺麗に完食出来た鬼丸国綱の頭を撫でてやると、嬉しかったのだろう。にゅっと、笑った。
    その笑みの柔らかい事、可愛らしい事。
    この刀はこんな笑い方が出来たのか。
    嬉しいような、悲しいような。
    苦しい程胸を締め付けられながら、大典太光世も笑みを返した。


    食事が終わったら、談話室の片隅で遊ぶ事にした。
    おもちゃも幾らか譲ってもらったが、ボールや積み木、ミニカーには一切興味を示さない。


    「だったら絵本はどうだお前が気に入るのはあるかな」


    ソファーに腰掛けて、膝の上に鬼丸国綱を乗せると、譲ってもらった絵本の中から好きそうなものを探す。
    鬼丸国綱は絵本を読む男ではなかった。しかし子供の頃なら、どうだろうか。
    矢張りこれかと開いたのは、桃太郎であった。
    鬼を切る話だ。これなら食いつくかもしれない。
    昔々あるところにと読み始めると、どうやら予感は当たったか、興味を示してくれたようだ。
    読んでいるというより、絵を見ているのか、挿絵の方に視線がとまっている。
    しかしだ。
    桃から桃太郎がうまれ、さあこの桃太郎はこれからどうするのかという時だ。


    「やあ」


    急に、鬼丸国綱が大きな声を上げた。
    大典太光世の手から絵本を叩き落としたかと思えば、ぎゅっと、大典太光世の首にしがみついた。


    「ど、どうしたんだよ」

    「やあ」


    やあ、やあ。
    恐らくこの言葉は、いや、という事なのだろう。
    声がだんだん、湿っぽくなっている。
    大典太光世が開いたのは、鬼のページだ。
    鬼が村で悪さをしているという挿絵が載っていたのだ。
    これが、嫌だったのかもしれない。
    何が嫌だったのかは判らない。しかしこの子にとっては、それほど、嫌だったのかもしれない。
    ぎゅっとしがみついて離れない鬼丸国綱を、大典太光世はそっと抱き締めて、優しくあやす。


    「ごめんね、もうやなのないよ。別の絵本にしようね」


    うさぎさんは好きかなと、片手で鬼丸国綱をあやしつつ、もう一冊手にとった。
    白いうさぎと黒いうさぎの物語だ。
    きっと興味はないだろうと真っ先に除けた一冊だが、ちらりと絵本を見た鬼丸国綱は、これならば大丈夫と思ってくれたのだろう。もう一度、大典太光世の膝上に座ってくれた。
    うさぎの物語。
    白いうさぎと黒いうさぎが仲良く遊んでいると、黒いうさぎが悲しそうに考え込んでしまう。
    何をして遊んでいても、そうして悲しそうにしてしまうので、白いうさぎが訳を尋ねた。
    黒いうさぎは、白いうさぎとずっと一緒にいたいが為に悩んでいたのだそうだ。
    その告白に、白いうさぎは自分も黒いうさぎと一緒にいたいと告げ、二匹ははれて結ばれた。という物語だ。
    この絵本は気に入ってくれたのか、鬼丸国綱は最後までおとなしくしていた。
    おしまいと絵本を閉じようとした時、にゅっと、鬼丸国綱が絵本を指差した。絵本の表紙、というより表紙に描かれた白いうさぎだ。


    「みつよ」

    「なに」

    「みつよ」

    「俺」


    この白いうさぎは自分の事なのか。
    そう尋ねると、鬼丸国綱はにゅうっと笑った。
    そして今度は黒いうさぎを指差す。


    「おれ」


    なにやら自慢げに言うので、大典太光世は嬉しくなって、鬼丸国綱の頭を撫でた。


    「そうだね。俺達も、うさぎさん達みたいに仲良しだからね」


    言うと、鬼丸国綱も嬉しそうに笑った。
    笑った顔が、本当に可愛い。
    どれだけ自分は今、嬉しくて、幸せなのかが溢れ出ているようだ。
    可愛くて、嬉しくて、切なくて、堪らなくなって、大典太光世はめいいっぱい鬼丸国綱を抱き締めた。抱き締めて、頬擦りをした。
    くすぐったいのか、鬼丸国綱はきゃっきゃと笑った。
    この子は、この刀は、こんなふうに笑えるのか。
    大典太光世は、初めて知った。



    その後庭に出て花や鳥を見て回っていたら、疲れてきたのだろう。
    鬼丸国綱は時折目をこすり、うとうととし始めた。
    抱っこをして、背中を擦ってやると、すぐに眠ってしまった。
    安らかな寝息をたてる鬼丸国綱を起こさないよう、大典太光世はゆっくり静かに歩いた。
    軽い。軽いが、子供の重さだ。大典太光世に身体の全てを任せきっているので、ずっしりとくる。
    その重さが嬉しくて、味わうようにあやしながら部屋へと戻った。
    ベッドに寝かせ、ぽんぽんと撫でた後、大典太光世もベッドに腰掛けた。
    あどけない寝顔をゆったり見ていたら、鬼丸国綱の頭から、何かが生えてきた。
    角だ。
    髪の毛かと思ったら、ぬっ、と角が伸びてきた。
    ゆっくりと長さが増すにつれて、鬼丸国綱も、でかくなっていった。
    幼児から、思春期頃、そして、昨日までの鬼丸国綱。
    硬さのある肉と、高さのある身体。
    鬼を射殺す為に、常に鋭い目元。
    元に戻ったようだ。
    先程の面影は、微塵もない。
    大典太光世としては、元に戻って喜ぶべきか、どうなのか、複雑であった。
    何故、素直に喜べないのか。
    その理由を知りたくなくて、大典太光世は自身の心を上書きするように、変わらず眠る鬼丸国綱をぽんぽんと撫でた。
    まだ、眠っている。起きない。
    以前より鬼丸国綱は、大典太光世の傍にいると深く眠れる。
    きっとこの子の性質は、何も変わっていない。寝付きが良くなるのも、それ以外も。
    そう、大典太光世は信じた。
    信じたいという、願望なのかもしれない。


    鬼丸国綱は幼児化している間の記憶が一切無かった。
    まさか自身が幼児化していたなど知りたくはないだろうと審神者が哀れんでくれたので、箝口令が敷かれる事となった。
    大典太光世と酒を飲み、飲み過ぎた挙げ句に泥酔し、丸一日寝込んでいたのだ。
    そこまで飲んだかと鬼丸国綱は疑問を抱いたようだが、現に丸一日記憶が無い。
    無理矢理にでも納得したようだ。

    そうして寝込んでいた間に、本丸によく判らないものが増えている事に気付いたようだ。
    どんなに小さくとも短刀程度の年頃しかいない本丸に、明らかに乳幼児が使うような椅子やテーブル。子供用の便座まである。
     

    「こんな年頃の刀剣男士を顕現するつもりなのか」


    いたって使い物にならないだろうと言う鬼丸国綱に、それは昨日お前が使ったものだとは口が裂けても言えなかった。


    持っていても仕方がないが、万が一また誰かが幼児化してしまった時の為に残しておく事になった品々。
    まだ片付けるのが惜しい大典太光世は、談話室のソファで絵本を捲っていた。
    白いうさぎと黒いうさぎの絵本。
    鬼丸国綱は白いうさぎを、みつよだと指差した。
    昨日は一日中、ジャージを着ていた。深い紺のジャージに、中は黒のTシャツ。
    昨日の出で立ちならば、どちらかといえば黒いうさぎが大典太光世ではなかったろうか。修行を明けて白の装いに変わったが、小さな鬼丸国綱にはその記憶があったという事なのか。或いは、また別の意図があるのか。
    そう考えていた時、鬼丸国綱がやってきた。審神者の診察が終わったようだ。
    何処にも異常はないという。二日酔いだというのに念入りに調べられて、とんだ赤っ恥だと言う鬼丸国綱に、大典太光世は少しだけ笑った。


    「何を見ていたんだ」

    「絵本さ。昨日、審神者のお姉ちゃんが来てね。みんなで読んでって置いていってくれたのさ」

    「子供向けを」

    「でも、良い話だ」


    何も覚えていない鬼丸国綱を隣に呼び、昨日そうしてあげたように、大典太光世は絵本を開いた。
    読み聞かせを始めると、てっきり嫌がるかと思ったが、鬼丸国綱はすんなり受け入れ、絵本を眺めてくれた。

    仲の良いうさぎ達は、いつも一緒に遊んでいる。
    しかし今日は何故だか、物思いに耽る黒いうさぎ。
    ずっとずっと、白いうさぎと一緒にいたいからだ。
    こんなに楽しい日々がずっと続けばいいのに。
    楽しい筈なのに、不安で、悲しい。白いうさぎがいなくなった日々を考えてしまったのかもしれない。
    しかしそんな不安を打ち消すように、白いうさぎが黒いうさぎに言うのだ。
    一緒にいたい。その願いを、もっと強く願ってごらんなさい。
    そうしたら、願いが叶ったように、白いうさぎも同じように、黒いうさぎと一緒にいたいと言った。
    黒いうさぎと同じくらい、ずっと、ずっと一緒にいたい。
    同じ願いを持ち、そしてその願いが叶った時、どれ程黒いうさぎは嬉しかったろうか。
    どれ程、幸せだったろうか。
    二匹の幸せを想うだけで、胸が満たされるようだ。


    「この白いうさぎ」


    本を閉じた時、鬼丸国綱が言った。


    「お前に似ているな」


    昨日と似たような事を言われ、大典太光世は思わず唖然とした。


    「なんで」

    「たらふく食った花を頭に飾りだすんだ。きっと、腹が減った時に食う為だろう。お前も、何時だってポケットに酒を忍ばせてる」

    「色気無い事を言うなよ」

    「あと色も白い」

    「そんな、ついでみたいに」


    じゃあお前はこの黒いうさきだよ。
    大典太光世がそう言うと、鬼丸国綱は少し、きょとんとした。
    妙な沈黙があった。
    そう言い返されるのが予想外だったのか、或いは別の何かがあるのか。
    大典太光世には知る由もないが、暫しの沈黙の後、鬼丸国綱は少しだけ口角を上げた。


    「まあいいか。黒い方が、夜行性の獣に見つかりにくい」

    「昼間は目立つよ」

    「昼間はお前を囮にして逃げる」

    「こんな絵本読んだ後に言うなよ」


    鬼丸国綱が少しだけ笑ったので、大典太光世も笑った。


    その後も、鬼丸国綱はこの絵本を気に入ったようだ。
    絵本は本丸の書庫に移されたのだが、時々、絵本を捲っているのを見かける。
    桃太郎の絵本もあるのだが、そっちは、一切手を付けていないようだった。








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