【フィ+ファ】それが錯覚だとしてもそれが錯覚だとしても
地下水路で意識が闇に包まれた後、夢とうつつをいったりきたりしていた。無意識に完全に意識を失うわけにはいかない、死の淵までは覗くまい、と思っていたのかもしれない。深く沈むときもあれば、光のほうへ浮上し、そしてまた沈んではまた浮き上がるを繰り返している。
あるときは吹雪く雪原のなか、間近に見える黒い衣服と気配はレノックスのもの。だからこれは、地下水路からの続き。だというのに痛みは鈍く、寒さもまた遠かった。
獣の姿となったヒースクリフがついているとはいえ、ひとりきりにしてしまったシノは大丈夫だろうかとそればかりが頭をめぐる。いま彼がどこに向かっているのかまでは分からないけれど、シノのことはすでにレノックスには伝えているから、きっといいように動いてくれる。大丈夫だ、そう思うとまた、意識は闇へと沈んでいった。
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