高校生おさぶ 三郎が大学への進路を悩んでいた時期に目の前の男、天谷奴零は姿を表した。
眉根を寄せる一郎とこの男が信頼に値するのか見極めようとする三郎に零は苦笑を漏らし、数冊のパンフレットを机へと置き本題に入る。
「三郎、アメリカの大学に興味はねえか?」
その一言で三郎の人生は変わった。
教師との三者面談で勧められて以来、一郎がそれとなくアメリカ行きを勧めてきていた。はっきりと三郎が拒否すれば一郎だって納得するが、一掴みの興味が三郎にもあったのだ。
一掴みの興味に一抹の不安。なにより、国内を旅するのとは萬屋ヤマダとの距離が違いすぎた。二郎はイケブクロから離れてしまったが、数時間もあれば帰ってこれる距離だ。二郎もいないのに僕が離れてしまったら、と三郎は一郎の顔を見上げた。
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