秋の夜長夏の暑さも抜けた夜、開け放たれた窓から入る風は秋の調べを伴い室内を吹き抜けていく。
「まだ、みんな帰ってこないの?」
近所の和菓子屋に発注した団子はナギと二人で折敷に積み上げ、乾燥しないように巻いたラップの端が寂しげに揺れている。夕陽は先程、地平線の彼方に落ちていくのを二人で見送ったばかりだ。仕事がある他のメンバーが帰ってくるには些か早すぎる。
「まだ十八時にもなってないで~」
今日は、お月見にしようとHE★VENSのみんなで決め、オフであるナギとヴァンの二人で朝から準備をしていた。といっても、掃除に洗濯、和菓子屋と花屋へお団子とススキ、玄関に飾る花束を取りに行き、晩御飯は瑛二のレシピ通りに二人で仕込んだだけだ。十七時過ぎには全ての予定も終わらせ、慌ただしい日中とは反対にその余韻は消え、二人で窓枠の向こうの夜空を眺めている。夏よりも暗い夜空に、冬よりも重い空。
「みんなが帰ってくるまで、ナインボールでもせぇへん?」
何度もスマートフォンを確認するナギに、リビングに置かれたビリヤード台でのゲームを提案するも首が横に振られる。
「こうやって、長い夜を過ごすのもいいでしょ」
そういって横に置いてあったクッションを抱えるナギは瞼が落ちかけていた。
「ナギちゃん、眠いだけやん」
ナギに迫る睡魔に気づいてしまえば、ヴァンも大きなあくびを噛みしめる。少し目を離してしまったからか、ナギは既に小さな寝息を立てていた。
こうなってしまえば、一人で夜を待つのも寂しいだけ。
クローゼットからブランケット取り出しナギにかければ、その横でヴァンも寝転びグループメッセージを開く。
「寝てたら起こしてな」
最後に笑顔のスタンプを押して送れば、さっそく綺羅から笑顔のスタンプが帰ってきた。
秋の夜は、二人で過ごすには長すぎた。