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    merukosu

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    merukosu

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    セパル章。気が向いたら更新してく。

    【生きる覚悟をもつ】 突如として現れた没落以前のL社の扉の件も落ち着き、ある程度褒美を受け取った後。囚人ファウストは変わらぬ表情でダンテへと問いかけた。

    「ダンテ、この辺りに枝の気配は感じますか」

    《えっ…ううん。 どうかな…》

     予想していなかった問に、ダンテは戸惑う。ゆっくりと窓を見て、じっと気配を手繰る様に感覚を研ぎ澄ます。ほんのり、遠くで…何かが。

    《…すごく小さいけど、枝の気配がする…》

    「えっ、もうあんな化け物は勘弁なんだけど!」

     カチカチと鳴るダンテを押しのけて、ロージャは不満げにファウストに向かって言う。騒がしくなるバス内に、うたた寝していた囚人たちもなんだなんだと起き始めてしまった。

    「なんだぁ…? まだこのやばい海で過ごさなきゃならないのか」

    「うぷ…………ファウスト嬢…後は陸に…あがる辛抱なりと………言ひき………」

    「……えぇ。 "陸"に上がるまでの、ですよ。」

     気だるげに煙を蒸すグレゴールに、いつまでも揺れになれないイサンは恨めしそうにファウストを見た。当の彼女は悪びれもせず、言った通りですが?なんて顔をして窓を眺めている。

    「…やはり、まだ残っているのですね」

    「……ファウ、さん、まさか」

    「…………それが貴方の役目でしょう?」

     彼は震えた声で、そうでは無いことを願うかのように言った。けれど縋った魔女はひたすら無慈悲に、淡々と、目さえも合わせずに吐き捨てる。
     囚人セパルは青い顔をして俯いた。彼はいつもなにを考えているか分からず、やたらアルフォンスと仲がいいこと。ファウストに異常な執着を持っていること。何故か幻想体と意思疎通が取れるということしか知らない。
     そうは言ってもダンテが全ての囚人を知り尽くしているとは言い難いし、仕方の無いことなのだけれど。

    《…君の枝なの?》

    「……」

     ダンテはできるだけ優しく語りかけたつもりだった。これまで沢山の経験を囚人と共にしてきたし、ある程度なら寄り添う術を学んできたと思っているから。でも、こうなった囚人達に余裕はなくて、大抵返事をする思考さえも塗り変わっている。

    「行き先変更です。 この先の支部へと向かいます」

    「…それはまた珍しい。 …あなたの独断ですか?」

    「………。 …我々の役目は枝を集め、幻想体を知り、会社の意向をより良い方法で叶えることです」

    「そうですか。」

    「…カロン、無駄なことしたくない」

     そうは言いつつ、カロンは進路を変え海を跨ぐ。先程までの青く澄んだ区画とは違い、黒く淀んだ海へと進む。

    ◾︎

    「こんな海の上に支部がふたつもあるなんてな」

    「確かにそうだ。 非、効率的に見える」

    「でも変なものばかり集めているんですから、気にならないんでしょうね〜。 僕のおばあさまも土地を気にしたことはなかったですよぉ?」

    「ホンルさんのはまた違うんじゃ…」

    「はは、物好きってのはどこもおかしなヤツらばっかだしな」

     つい先日乗り込んだ、白鯨に呑まれてしまった旧L社支部を思い出す。立地も悪く、常に規則によって人ならざるものが襲いかかってくるというのに、ふたつもあんなに大きな施設があるとは考えにくい。

    「まぁ…普通の企業ならここに作ろうとは思わないでしょうね。 …同時に競合が少ないとも言えるんでしょうけど」

    「ただでさえ得体の知れねぇもんを管理してるんだろ? ならもう慣れっこってことじゃねぇか」

    「そうなのだろうか…?」

    「規則さえ守れば安全みたいだし…案外過ごしやすいのかもね?」

    「くふふ。 最・だ」

     適当な発言をするヒースクリフに、ドンキホーテは首をかしげた。良秀なんかあの惨状を思い出したのかニヒルに笑いだしてしまったし。

    《今度のは何もなってないといいけど…》

     あの白く粘つく感触を思い出して気持ち悪くなった。中に取り残されてしまった人たちも酷いものだったし、できることならばいつも通りの姿であって欲しい。

    「ダンテ、感覚は変わりないですか」

    《うん、段々近づいてる》

     うっすらと霧の奥から建物の影が見え、ジクジクと頭の中が熱くなる。まるで共鳴して、今かとその枝を焦がれてるみたいだ。

    《…なんだかいつもと感覚が違うんだけど、何か知ってる?》

    「違う、とは。」

    《こう………熱くなるっていうか…普段と違うんだよね》

     この枝を感知する不思議な感覚は、どう説明するか未だに分からない。ふわふわと何となく、そこにある気がする…としか言えなくて。とても鋭い勘が働いているとか、そんな感じなのだろうか。
     けれど今回は確実にそこにあると言えるし、なのにとても小さく思える。ほんのり暖かい塊に触れている感触と似ていて、そこにあるのに弱くて…ともかく、すごく変なんだ。

    「…共鳴しているのでしょうか。」

    《そういえば…中に入ってるんだっけ》

    「えぇ。 今からもう半分を取りに行くのです」

    《……はんぶん?》

    「…………どゆこと??」

     いつの間にかそばで話を聞いていたアルフォンスが首をかしげ、同じようによく分からないという顔をした。
     半分。ファウストはダンテの頭に欠片が入っているのだと言った。それがどこから来たのかだとか、少しも考えなかったわけではなかったけれど。

    「…あなたを迎える前のLCBも、黄金の枝を回収して回っていました。 今から向かうのは…1番初めに回収へと向かった旧L支部です」

     疑問符をうかべる囚人たちに、ファウストは珍しく素直に情報を開示した。普段ならば機密だか黙秘だかを理由に何も語らないのに。心做しか、疎ましそうな顔をしている気もした。

    「その、それ…深く聞いてもいい話?」

    「俺も気になる…」

    「俺たち以前の話なんて初めて聞いたよ」

    「………。 …こうなるのであまり語りたくはありませんでしたが…特に規制はされていません。」

    「マジか…! じゃあ!」

    「ですが勤務中というのもお忘れなく。 …着いたようですよ。」

     ゴウンとゆるく船か揺れ、目の前には見慣れたL社のロゴがでかでかと刻まれた建物がそそり立っていた。

    ◾︎


    「まぁ…そうなりますよね」

     はぁ、と大きなため息を吐き、イシュメールは小舟へと移る。それに続き、他の囚人もぞろぞろと乗り上げて、数人が船を漕ぎ始めた。

    「これ疲れんだよな…たまにはあんたらも変わってくれよ」

    「でもアルマが1番腕の力あると思うのよね」

    「あ、わかります…!」

    「おい、そこで同意するなシンクレア」

    「むぅ! 拙者が漕ごうとしたらオールを奪ったのはアルフォンスくむぐっ!」

    「まぁまぁ〜そんな騒いだらひっくり返っちゃうわよ?」

    「…あなた達黙って漕げないんですか」

    「同意」

    「え〜、これ俺が悪いの〜…?」

    「あ、そろそろ入口じゃないですか〜?」

     小さな船の上で騒ぐ中、やはりセパルは俯き空を見ていた。
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