♯キスの日 2執務室の扉が閉じられた。
足音が遠ざかり、やがて何も聞こえなくなってから、ようやくリュミエールは安堵した。
立っていき鍵を閉め、そのまま扉に背中をもたせ掛け細くため息をつく。
指先の震えを気付かれなかっただろうか。
好きだ、そう彼は言った。簡潔だが間違いようもない愛の告白だ。
彼から愛を打ち明けられるとは想像もしていなかった。
自分に引け目など何一つ感じる事がないのだろう。オスカーの態度は自信に満ち溢れていた。恒星のように人を惹きつけずにはおかない人だ。思い切り撥ね付ければ良かったのにそれが出来なかった。
真っ直ぐな言葉が胸を焦がしていく。強い眼差しに逢って眩暈がしそうだった。
──本当は嬉しかったのだ。だが、素直に心を返せる程に自分も幼くはない。
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