願いは明星①(一)
風に、燃えるような赤い髪がそよいでいる。
「人は深い悲しみに出会った時、『時が一番の薬』と言います。無理に何かしようとせず、じっと時が過ぎるのを待てと、そうすれば心の傷もいつか自然に癒えていくと……しかし、」
紳士は視線を地に落とす。
「この世に唯一と思った人、他の何に代えても守りたかった人……彼らを失った痛みは、本当に癒えさせるべきなのでしょうか。彼らの喪失によってできた傷を、時の経過で風化させ、傷痕にするしかないのでしょうか……」
端正な顔立ちが、耐え難い痛みに歪む。風の中に嘆きをのせた吐息がとけていく。
「かつては、疑問に思うこともありませんでした。ですが、唯一の肉親である父を失ってからこの国は……いえ、この世界はどこも……僕にとって、非常に生きづらい場所になってしまった」
そこまで吐き出して、紳士は力なく項垂れる。いくらその身を包む装束が、歴史ある家名にふさわしい気高さと品位に満ちたものであったとしても、胸中に蟠っていた言葉をすべて外へ出してしまえば、そこには行き場をなくして立ちすくむ、ただの年若い青年しか残らない。
「……お気持ち、お察しします。慰めではなく、心から」
神父は投げ出された腕にそっと手を添える。その顔は言葉の通り、青年と同じ深い悲しみと痛みに歪んでいた。その手の感触に促されるように、青年はうっそりと顔を上げる。
同時に、青年の髪を撫でていた風が止まった。
「ようこそ、ディルック・ラグヴィンド様。ここは貴方と同じ、喪失とともに生きることを選んだ人々が、身を寄せ合って暮らしている場所です」
かくして、青年――ディルックは、その集落に足を踏み入れた。