Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    aiwothx

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    aiwothx

    ☆quiet follow

    ルシファーとメリーベルがバザールの夜にめちゃくちゃに踊る話。

    星屑と踊るバザールの夜は、星が綺麗だった。

    街の中央広場は、色とりどりの布で飾られていた。提灯が風に揺れるたび、オレンジ色の光が石畳に踊る影を作り出す。空気には香辛料と焼き菓子、花の香りが混じり合い、どこか異国の匂いを漂わせていた。

    「今年も来られて良かった」

    メリーベルは人混みの中を慣れた様子で歩いていく。白いエプロンの薄紫の刺繍が、提灯の明かりに小さく光った。

    ルシファーは灰色のマントの中に身を縮めるように歩いていた。確かに何度かは来たことがあったが、いつも兄たちに連れられてのことで、楽しんだ記憶がない。今夜は違った。メリーベルがいる。

    「メリーちゃん、去年も来たの?」

    「毎年よ。お父さんが生きてた頃から、ずっと」

    彼女の声には懐かしさが込められていた。

    広場の中央では、楽師たちが軽やかな旋律を奏でていた。太鼓の音が胸の奥で響き、笛の音が夜空に舞い上がる。人々は手を取り合い、円を描いて踊っていた。

    「踊りましょう」

    メリーベルが突然、ルシファーの手を取った。彼の手は冷たく、細く、でも今夜は震えていなかった。

    「でも、ボクは...」

    「大丈夫よ。わたしのダンス、めちゃくちゃだから」

    彼女の屈託のない笑顔に、ルシファーは小さく頷いた。

    踊りの輪に加わった瞬間、メリーベルは変貌した。音楽が始まると、彼女は型にはまらない自由な動きで踊り始める。右手を空に向けて大きく振り上げ、左足でステップを踏む。それは伝統的なダンスの形からは程遠い、完全に自己流の踊りだった。

    ルシファーは最初、戸惑った。彼の体に染み付いているのは、貴族の館で習った格式高いダンスの所作だった。背筋を伸ばし、腕の角度を正確に保ち、足の運びは優雅で無駄がない。

    「ルーシー、もっと自由に!」

    メリーベルが彼の手を引いて、くるりと回る。彼女の長い髪が舞い上がり、顔は喜びに輝いていた。その瞬間、ルシファーの心の中で何かが弾けた。

    彼は自分の知っているステップを忘れようとした。メリーベルの無秩序な動きに合わせて、手を自由に振る。彼女が跳ねれば、彼も小さく跳ねる。彼女が笑えば、彼も笑う。

    周りの人々は、この奇妙な2人に目を奪われていた。美しく整った動きの少年と、型破りだが生き生きとした少女。対照的でありながら、なぜか完璧な調和を生み出している。

    メリーベルは時に後ろ向きに歩き、時に片足でバランスを取りながら踊った。彼女の動きに規則性はなかったが、そこには純粋な喜びがあった。その喜びは伝染し、ルシファーの固い動きを徐々に柔らかくしていく。

    「えへへ...楽しい」

    ルシファーが控えめに笑うと、メリーベルは手を握り直した。二人の周りの世界が、次第に遠ざかっていく。人々の声も、他の踊り手たちの動きも、だんだんと背景に溶けていく。

    今、ここには二人だけの宇宙があった。

    メリーベルが大きく回転すると、ルシファーは自然と彼女の軸になった。彼の貴族的な優雅さが、彼女の自由奔放さを支え、包み込む。彼女が空に向かって腕を伸ばすと、彼も同じように手を上げる。二人の影が石畳の上で重なり合い、分かれ、また重なる。

    音楽が一段と高まると、メリーベルは思いきり跳躍した。ルシファーは咄嗟に彼女の腰を支え、彼女を宙に浮かせる。その瞬間、時間が止まったような感覚に包まれた。

    メリーベルの赤い髪が提灯の光に照らされ、ルシファーの黄色い瞳が星の光を反射する。二人は互いの瞳を見つめ合い、言葉にならない何かを共有していた。

    ゆっくりと足を地面に下ろしたメリーベルは、息を切らしながらも笑顔を浮かべていた。ルシファーの手は今も彼女の腰に添えられ、彼女の手は彼の肩に置かれたままだった。

    「ありがとう、ルーシー」

    彼女の囁きは、周りの喧騒の中でも彼の心に確かに届いた。この瞬間の静寂は、二人だけのものだった。

    曲が終わりに近づくと、二人は自然と抱き合うような形になっていた。メリーベルの頬は薔薇色に染まり、ルシファーの顔にも珍しく高揚の色が浮かんでいる。

    拍手が広場に響く中、二人はまだ動かずにいた。世界が再び音を取り戻し、色を取り戻し、動きを取り戻す。でも二人の心の中には、あの静寂の瞬間が永遠に刻まれていた。

    「また、踊りたいな」

    ルシファーの提案は、今夜初めて自分から発した言葉だった。メリーベルは大きく頷き、次の曲の始まりを待った。星空の下、二人だけの世界はまだ続いていた。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭💖🙏💞💒💕💘💴💴
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works