相手を知りたいなら、自分の心をさらけ出すべきだ。
あたしが彼に拾われてから数日、そんな事をぼんやり思う。
キングスロウで彼と出会ったのは、同行していた家庭用オムニックの彼女が壊れてしまったからだ。四肢は砕け、頭部は顔が認識出来ないくらい潰されてしまった。そんな彼女を膝をつき、背を丸め抱きかかえながら、あたしは蔑み罵る人々から、せめて彼女の亡骸を守りたいと思った。背に投げつけられた石は、小石ほどであっただろうに、酷く痛む。助けなんかは来ないし、それが当たり前で、あたしは早く時間が過ぎるのを待っていたはずだった。ふと、人影で視界が暗くなる。あたし達を隔てるように誰かが立ち塞がっているようだった。
「ラ、ラベジャーユニット……!!」
人殺しだとか、なんだとか、あたし達に向けられた罵詈雑言以上に酷い言葉が聞こえた気がした。しかし、その言葉たちは段々と遠のき消え失せた。そして石も飛んでこない。あたしは彼女を抱きかかえたまま、ラベジャーユニットと呼ばれたその人を見上げた。
紫と黒を基調としたボディはすらりと高く、纏う長い外套は風になびいていた。汎用型オムニックとは違うその姿を見るのは初めてではない。だが、他のラベジャーユニットとは少し異なる姿をしていた。頭部のフラットコードなんかは特に象徴的だ。
「助けてくれたの?ありがとう」
黙ったままのラベジャーユニットの視線はあたしの手元にあった。壊れてしまったあたしの家族。
「残念だが、その機体はもう元には戻せないだろう」
彼と呼ぶのがおおよそ相応しいだろう。低く落ち着いたトーンで、あたしにそう告げた。あたしも整備士の端くれだ、元に戻せないことは重々分かっている。
「そうね」
「だが弔う場所くらいは与えてやろう。ついてくるといい」
最悪の場合は廃棄も考えていた。彼女をジャンク扱いしなくて済むことにあたしは心底ほっとした。彼について行こうと、腰をあげる。が、ふらついてしまい上手く立ち上がれない。そんなあたしを彼はため息をつきながら見やると、彼は壊れてしまった彼女ごとあたしを抱きかかえた。
「じ、自分で歩けるよ!」
「貴様が自力で歩き出すのを待つ猶予はない」
彼女を抱えるので精一杯なあたしは抵抗することも出来ず、大人しく抱えられるしか無かった。ゆったりと歩くそのリズムはどこか懐かしく、記憶の隅ではもう朧気な子守唄が頭の中に流れてくる。疲れ切っていた身体に、壊されてしまった家族。あたしを包み込む手は決して温かくは無いが、心地がよかった。彼の手の中であたしは意識を手放してしまった。