【フィ+ファ】師弟時代のメモワール師弟時代のメモワール
あれは確か、近くの街で大きな朝市が開かれる日だったはずだ。弟子入りしてふた月ほどで、ようやくフィガロとふたりきりの北での生活にも修行にもなれてきた彼を、街に連れて行こうと思っていた日。前日の夜にそのことを伝えたら、ひどく嬉しそうに楽しみですとほころんだ笑顔が眩しかったことを覚えている。
揺れた鈍いブロンドの髪、細められた菫の目と紅潮した頬、引き上げられた口角の記憶と、弟子っていいものかもしれない期待と感慨を肴に少しばかり酒飲んで、飲みすぎて、朝を寝過ごしたのであった。
普段ならば返事がなければ開けぬドアを開き、許可なく部屋に踏み込んだ弟子が、体調不良か、不慮の何かがあったのかと心配してフィガロの様子を確かめたのちに、足元に転がる酒瓶を見つけたのであろう。
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