おやつの時間に怖い話でもオカシな森の人形館…って知ってますか?
不気味で、人気の少ない森に、どこからか甘い匂いがするんです。その匂いを辿ると、
……屋敷があるんだそうです。甘い匂いはただ単に、家主が好きな匂いで、部屋中に撒いてる甘い匂いのオイルが外へ出ていってしまっただけみたいで。お菓子の家ではなかったみたいです。
…でも、まだ続きはあるんです。屋敷は森の奥の中、森に迷って匂いにつられて、屋敷を訪ねた人が何人も居たそうです。しかし、扉を叩くと、出てくるのは「子ども」みたいなんです。
それも、二人。同じような服を着て、横並びで挨拶をくれたみたいです。双子なのでしょう。ですが、森の奥にある屋敷と言うだけでも不気味なのに、中から双子の子どもが出て来たのも不気味でした。笑わず、双子はまるで訪ねてきた人が来ることを知っているように話しかけに来るらしいです。双子に関する目撃情報はたくさんあります。
ぎこちない動きをしていた、スーーッと浮いてるかのように移動していた、手足が人間では到底ありえない方向に曲がっていた………
驚くべきことはこれだけじゃありません。双子の案内の通りついていくと、屋敷のそこら中に人形やぬいぐるみが置いてて不気味なんです。「双子の持ち物だろう」、そう思っても、薄暗かった屋敷の中で見る人形はなんとも不気味でした。
双子が最初に案内してくれたのは食堂でした。既に人はいっぱいで、でもテーブルの端に一席空いていました。食事は既に用意されてます。されるがまま、席に座り、お腹も空いてたし双子の合図で食べ始めました。
…しかし、気づいてしまった。他の人達は喋るどころか、カトラリーを当てる音すらも聞こえない。試しに、近くのピクリとも動かない人のヴェールの下を覗いてみました。
その人は人形でした。
人形が食事を食べるなんてありえません。でもそれはそれで、人形に食事を提供してることが不気味だったのです。そして、何も音を立てない他の人たちのことも考えると、人形達が、食べるはずもない食事を並べられいる光景に、やっと、この屋敷も、双子も異常なことに気づきました。
慌てて立ち上がっても、食堂に居る人達も、席の中に混じっていた双子たちも見向きはしませんでした。双子も席に座っていましたが、食事に手を付けている様子はありませんでした。食堂に居た人形たちは全員、黒いヴェールを顔全体に被っていました。全員の食事は肉類で、命を奪うような食事を食べる際、神様に顔を見られないようにヴェールで顔を隠して食す風習があるらしいです。
双子は、屋敷を訪問し、出会った当初から二人とも薄いヴェールを被っていました。
…もしかしたら、この双子は、訪問者の命を奪うためにそこに居て、神様に顔を見られないようにヴェールを被っているのだとか……
…まぁ、ここまでが、「オカシな森の人形館」を説明するにはピッタリで、ホラーチックな語りが似合うよね。
ネタバラシをすると、元々は子どもに恵まれない夫婦が迎え入れた双子人形と、過ごすうちに双子に仲間が欲しいとねだられ、たくさん買ってしまった人形とぬいぐるみ達のお屋敷。
本当は双子も御夫婦、今は旦那さんが館長を務めていて、その人達は本当の家族みたいに仲睦まじく、ほんわかと暮らしていたみたいだよ。…それで、そんなとき森に迷って泊めてあげた訪問者が、たくさんの人形に怯えて、噂を流しちゃったみたい。
なんとか森の外に居た人たちに誤解を解いて、ああ言ったお化け屋敷みたいなコンセプトでレジャー施設みたいになってたよ。招いた人形の中に伝統的なものもあるから、奥の方は博物館みたいになってて。
演技を解いた双子人形も愉快な子たちだよ。賢くて頼りになるお兄さんのヘンゼルと、元気で、奥様方のお菓子作りは毎回手伝っているという妹のグレーテル。
ちょっと前に、研究員K、研究員E、Eの研究対象だった人形ちゃんも連れてって行ったことあるんだけど、同じ人形だからなのか、人形ちゃんとヘンゼルとグレーテルが意気投合してたな。…特にヘンゼルくん。何か特別な感情を持ってたようにも見えたな。
…え?今?今のあの屋敷は確か……御夫婦も御老体だからさ。もう長くはないみたいで、ずっと前から長らく休館してるよ。あの双子人形はドール型・マリオネットタイプだからね。身体が機械で、自立するメカニックタイプとは違って、糸だけで動く単純なもの。操る人が居なければ、もう人形も動けない。…まぁ、持ち主に置いていかれるよりかは、マシな方の結末なんじゃないかな。
本当に話が怖いのはここから。この前旦那さんが亡くなって、奥様も身体が弱くて、今は屋敷に人形を残したまま手放して家族の居る所へ移動したんだけど、未だ森の甘い匂いは途切れないんだって。甘いオイルを毎日でも焚き上げない限り、甘い匂いなんてしないはずなんだけど。
…。あの人形は、誰に動かされて居るのかな。それともひとりでに?…どちらにしても、あの人形は…人形達は、あの甘い匂いで、誰を誘っているんだろう。