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    聖龍@どや乳

    曰く、どや乳、飯テロリスト、顔面美人、よく見かける乳、コミュ力凸、書痴、TLのオカン、金の亡者、民事裁判二回勝訴、刑事事件を示談解決、創作系雑食腐女子(一次実体験エッセイ、二次🥷🥚雑伊固定他CP雑多)でアイコンは自乳な現在41歳な垢!RT注意🔪AI学習禁止。支部、note、各種SNS→ 
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    聖龍@どや乳

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    RKRN怪談webオンリー「忍夜百物語」の掲載作品
    ホラー作品のため、9月忍FESの新刊書下ろしから一部抜粋しました。
    先行公開です。

    百物語は室町から始まった文化だそうで、一ろのみんなはきっと好きそうだなと思って考えました。
    付き合っている雑伊の話。

    #雑伊
    #腐向け
    Rot
    #RKRN怪談webオンリー
    #忍夜百物語
    #微ホラー
    micro-horror

    医務室にいる夏の暑さがようやく和らぎ始めた黄昏時、忍術学園の医務室は夕暮れのオレンジ色の光に染まっていた。
    窓の外ではひぐらしの声が響き、時折裏山から吹き下ろす風が髪を揺らした。
    今日、保健委員会の当番だった僕は、医務室内の薬の整理をしながら、同じく当番の伏木蔵と話をしていた。

    「伊作先輩、実は今度ろ組のみんなと百物語をするんですよぉ? もし良かったら何かゾクッとするようなスリル〜なお話を教えてくれませんかぁ?」

    煎じた薬や乾燥させた薬草を挟んだ油紙を丁寧に片付けながら、伏木蔵が目をキラキラさせて言う。
    伏木蔵の言う「ろ組」とは、一年ろ組の日陰ぼっこが好きな生徒達だ。
    確かに百物語にはぴったりの面子だなと思いながら、僕は少し考え込んだ。

    「うーん、怖い話か…実は僕、不運体質だから、怖い目に遭うのは日常茶飯事なんだけど、伏木蔵が好きそうなスリルたっぷりの話はあんまり知らないんだ…」

    「ええ〜そうなんですかぁ? 伊作先輩の不運なお話もスリルがあって面白そうですけど、せっかくの百物語なので怪談っぽいのが聞きたかったんです。夜の学園で幽霊が出る、みたいなお話はないでしょうか? 六年生の伊作先輩なら、そういうお話ご存知かなと思ったのですが……」

    伏木蔵がおずおずと聞いてくる。
    確かに、忍術学園は古い建物も多く、夜になると不気味な雰囲気がある。
    せっかく頼ってきてくれたのだから、何かいい話はないかと記憶を辿った。

    「そう言えば昔、医務室の裏にある古い井戸から、夜中に変な声が聞こえたって噂があったとか…」

    僕が話し始めた瞬間、天井裏からガタッと音がした。

    「ひっ! スリル〜?!」

    伏木蔵が飛び上がって僕の後ろに隠れた。僕も心臓がドキッとしたが、すぐにその気配に気づいた。この気配は…。

    「やあ、曲者だよ?」

    天井の板がスッと開き、そこからスルリと降りてきたのは雑渡さんだった。
    さすがタソガレドキ忍軍の組頭、気配も音もなく現れるその動きに感心しつつ、医務室を預かる身として注意した。

    「雑渡さん! 急に現れないで下さいよ、僕も伏木蔵もびっくりしたじゃないですか?」

    「嗚呼、びっくりしましたー! こなもんさんだ! こなもんさんこんにちは」

    僕が注意する横で、伏木蔵が目を丸くしながらも丁寧に挨拶した。
    雑渡さんはいたずらっぽくニヤリと笑いながら話し始めた。

    「フフ、驚かせてごめんね? 実は伊作くんと伏木蔵くんが怖い話をしているのが聞こえたから、ちょっと驚かせてみたくなってね。ほら伏木蔵も、暑い日にはこういうスリルが似合うだろ?」
    「確かにあのタイミングはスリルたっぷりでした〜」

    雑渡さんの言葉に、伏木蔵が楽しそうに相槌を打つ。
    そのやり取りにほっこりしたが、わざと驚かせてくるなんて、雑渡さんもなかなか意地悪だ。

    「もう、雑渡さん! いくらなんでも心臓に悪いですよ? 雑渡さんが本気を出すと冗談じゃ済まないんですから」

    「ハハ、伊作くん達の驚く顔が見たくてつい、ね。ところでさっき伊作くんがしていた怖い話、続きはどうしたんだい?」

    雑渡さんは当たり前のように僕達の前に座り、話の続きを促してきた。

    「いや、あれはそんな大した話じゃなくて…」

    さっき話そうとした古井戸の件は、何代か前の六年生が塹壕を掘っていて勢い余って井戸を壊し、土中で水に煽られながら騒いでいた所を幽霊と間違われた、という忍術学園ではよくあるような話だった。
    幽霊でも怪奇現象でもない、拍子抜けなエピソードだ。
    そうやって掻い摘んで話すと、伏木蔵は「七松先輩みたいな方が昔もいらしたんですねぇ」と言い、雑渡さんは「今も昔も良い子達は元気が有り余っていたんだねぇ」と頬に手を当てながら妙に感心していた。
    いずれにせよ、僕の話は伏木蔵が求めるような怖い話ではなかった。
    僕の話が終わると、伏木蔵が「そうだ!」と目を輝かせて言った。

    「こなもんさん!こなもんさんも何か怖いお話をして下さいませんか?タコヤキドキ領のスリルたっぷりな怖い話がいいです」

    「伏木蔵、うちはタソガレドキ領で私は雑渡昆奈門だよ?お前それ絶対わざと間違えているよね?しかしそうか怖い話ねぇ…怖い話自体はたくさんあるけど、伏木蔵に話してもいいような話はあるかなあ…?」

    そう言うと雑渡さんは、周囲を見渡しながら思案された。

    「伏木蔵、あんまり雑渡さんを困らせてはいけないよ? 雑渡さんも、どうかご無理はなさらず…」

    それを見て僕が慌てて止めようとすると、雑渡さんは「いいよいいよ伊作くん。ここで話せないような話はしないし、せっかくの機会だ。伊作くんも聞いていいよ?」と悪戯っぽく目を細めた。
    そうして、雑渡さんは静かに話し始めた。

    「昔々…と言っても数年くらい前の話なんだけど、タソガレドキ領の奥深く、誰も近付かない森があった。当時私は、任務で敵の動きを探るために、その森に潜んだんだよ。その森は普段誰も近付かないってだけで、別に立入禁止ではなかったしね。立ち入ってみても危険なものは見当たらず、鬱蒼とした森が広がるだけで、任務で隠れるには申し分なかった。ただじっとしているのも退屈だったから、辺りを少し探索してみたんだ。すると、森の奥に、いつ建てられたのかわからない古い祠があってね。この森に誰も立ち入らない原因と関係があるのかと見てみたけど、ぱっと見ではわからなかったから、探索はそこまでにして任務に集中したんだ。夜が更けて、月も隠れた真っ暗な森の中で潜んでいると、ふと、さっきの祠の辺りからすすり泣くような声が聞こえてきたんだよ?」

    雑渡さんの低い声と淡々とした語り口が、医務室の空気をひんやりと変えた。
    隣の伏木蔵がゴクリと唾を飲み込み、僕も手に汗を握りながら聞き入った。

    「その声は、最初は遠く…まるで風が葉を揺らすような音だったんだ。でもだんだん大きく、はっきり聞こえてくるようになって。『ココよ…私はココにイるの…』って、悲痛な声だったんだよ。タソガレドキ忍軍で訓練を積んだ私でも、一瞬背筋がゾクッとした。思わず声がする祠に目をやると、そこにぼんやりと白い影が浮かんで、手招きしているように見えてね…」

    「ひええ〜……雑渡さん、それってひょっとして、幽霊ですか?」

    堪らず伏木蔵が小さく悲鳴を上げ、僕の腕を掴みながら尋ねた。僕も雑渡さんの返事をドキドキしながら待った。

    「フフフ、どうだろうねぇ? 今思い返しても、あれが幽霊かどうかはわからなかったなあ。だって、当時の私も何事だと思って必死に気配を探ってみたけど、結局何も感じなかったんだ。でもその白い影は確かにそこにあってね。私の気のせいでなければ、じっと私を見て、手招きしていたんだよ?」

    「手招きって…それは雑渡さんを招こうとしていたんですか?」と、思わず僕が確認してしまった。

    「さあどうだろうねぇ? その時の私には任務があったし、誘われたからって怪しげなものに近付く愚は犯さなかったから、その後も声が聞こえても無視する事にしたのさ」

    「ええ…そんな、無視して大丈夫だったんですか?」と伏木蔵が聞けば、「大丈夫だったよ?」と雑渡さんは事もなげに答えた。

    「結局はそのまま朝になって、いつの間にか声も途絶えてそれっきりさ。そこから私も本来の任務があったから、祠の事は一旦忘れて森を後にしたんだけど、任務が終わってもその祠の事がなぜか引っかかっていてね。わざわざ確認しには行かなかったけど、夜になるとまたあの声が聞こえてくるんじゃないかと、しばらくは気を張って過ごしたよ。でも結局、あの森で過ごした夜だけの体験で、今日まで何も起きなかったんだけどね?」

    雑渡さんが話し終えると、医務室はしんと静まり返った。窓の格子から差し込む夕暮れの光が薄れ、ひぐらしの声すら遠くに感じる程だった。 
    僕にしがみついていた伏木蔵は「ひええ…雑渡さん、そのお話すごいスリル〜! 流石タコヤキドキ領、きっと何か謂れがある祠なんですかね〜? ミステリアスー」と、怖がりながらも嬉しそうだった。

    「伏木蔵、落ち着いてよ? 雑渡さんもその、怖いお話がお上手ですね? 僕も聞いていて、思わず怖くなりましたよ?」

    「ハハ、伊作くんにそう言ってもらえて嬉しいよ。それに保健委員会のみんなの怖がっている顔が見られたし、私も話した甲斐があったよ」

    雑渡さんがカラカラと笑う。何だか子ども扱いされているようで、ちょっとムッとした。

    「もう雑渡さん!」

    僕が「怒っています」とわかるようにわざと頬を膨らませると、雑渡さんが「ハハハ、ごめんごめん」と悪びれずに謝った。
    すると追い打ちをかけるように伏木蔵が「あれ? 伊作先輩、顔が真っ赤ですよぉ?」とニヤニヤしながら言ってきた。
    後輩に迄揶揄われてしまって、僕はますます恥ずかしくなった。
    「おやおや伏木蔵、いい観察力だね? ほら伊作くん、そろそろ医務室の片付け終わらせないと、夜になっちゃうよ? まだ薬草の片付けが残っているんじゃないか?」

    雑渡さんは立ち上がり、散らかった油紙を丁寧にまとめると、そっと僕に渡してきた。「あ、ありがとうございます」と受け取りつつ、確かに薬草の片付けが途中だった事を思い出した。

    「伏木蔵、あと少しだから早く片付けてしまおうか?」

    「はい、伊作先輩」

    「それじゃあ私はそろそろ帰るよ?」

    雑渡さんの言葉に、僕は思わず驚いた。

    「え? 雑渡さん、もう帰られるんですか? その、何かご用事があったのでは?」

    「いや、まだ前に貰った薬もあるし、今日はこれから任務もあるから、本当にただ寄っただけなんだよ? ほら…少しでも伊作くんの顔が見たくてね?」と、雑渡さんが含みのある笑みで言った。

    その言葉に頬が熱くなる。
    そう、僕がイケイケドンドンで告白をし続けたせいで学園内どころか学外に迄周知の事実だったが、僕と雑渡さんは恋仲で、つい先日付き合い始めたばかりなのだ。
    恋人として「顔が見たかった」と言われると、嬉しいやら恥ずかしいやらで胸がざわめいてしまう。
    そしてどうやら雑渡さんは、僕のこう言う反応を楽しんでいるようで、事ある毎にこう言う言葉を出してくるのだ。

    「やっぱりお二人は仲良しですねぇ…フフフ」

    僕が一人でアワアワとしていると、隣りにいた伏木蔵が僕達を交互に見ながら笑うのだ。
    顔を上げるとニコニ事楽しそうに笑う雑渡さんと目があった。
    僕だけが慣れていない感じで、なんだか居たたまれなくなり「伏木蔵! 時間がないから早く作業するよ!雑渡さんも!その…お顔が見れて僕も嬉しかったです!お忙しい中ありがとうございます!」と大きな声で言って、二人から目を逸らしつつ作業を再開した。

    「はーい、わかりました」

    「フフフ、それじゃあまたね伊作くん、伏木蔵も」

    「こなもんさん、又ですぅ〜」

    「雑渡さん、又お待ちしていますね」

    雑渡さんは来た時と同じく、音もなく去っていった。 
    さっき迄そこにいたとは思えない見事な気配の消し方に感心しつつ、これ以上作業を遅らせる訳にはいかない。
    僕と伏木蔵は黙々と片付けに取りかかった。
    そうして暫く作業に没頭していると、思ったより早く作業が早く終わった。

    「やったね伏木蔵」

    「はい〜伊作先輩もお疲れ様でした〜」

    「やっぱり一人より二人で作業した方が捗るね?」

    「そうですね〜」
    伏木蔵とそんな会話を交わしながら、まとめ終えた薬草を、棚にしまおうと手に持った所で、ふと耳元で声が聞こえた。

    『ココです…ココにイます…』

    その声は、まるで雑渡さんが話していた祠のすすり泣く声のようで、医務室の静寂を切り裂いた。
    夕暮れの薄暗い光が部屋の隅々をぼんやり照らす中、僕と伏木蔵は思わず顔を見合わせた。心臓がドクドクと脈打つ。
    ひぐらしの声すら遠く、医務室は不気味な静けさに包まれていた。

    「伊作先輩…ココです…」

    今度ははっきりと、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
    伏木蔵が「ひぃ〜っ!スリルー!!」と悲鳴を上げ、手に持っていた薬草を放り出し、僕の腕をぎゅっと掴んだ。
    辺りを見回したが、医務室には僕と伏木蔵以外誰もいない。
    薬草の匂いが漂う部屋で、窓の外から吹く風が前髪を揺らすだけだ。

    「伏木蔵、ボクはココだよ…」
    今度は伏木蔵を呼ぶ声が、すぐそばで響いた。
    伏木蔵の顔が真っ青になり、僕の手を握る力がさらに強くなった。

    「伊作先輩〜! コレ、やっぱり幽霊ですか〜? 雑渡さんの話、ほんとだったんですか!?」

    伏木蔵が震えながら叫んだ。僕も背筋が冷えとして、思わずその手を握り返した。

    「落ち着け伏木蔵! 何か…何か錯覚かも知れないから…」

    そう僕は伏木蔵だけでなく、自分を落ち着かせる為にも言ったが、正直心の中はパニックだった。
    雑渡さんの話が頭を過ぎる。
    白い影に手招きするような声…まさか、タソガレドキでの現象が、この医務室で起こるなんて、そんな事が…!?
    その時、医務室の隅、薬棚の影からかすかにナニかが動く気配を感じた。
    僕と伏木蔵は同時にそちらを振り向いた。
    目を凝らしてしっかりと観察する。
    すると、ゆっくりと、本当にゆっくりと…影の中から人影が現れた。

    「ひえええ〜! これはスリル〜!!」

    伏木蔵が叫び、僕も思わず一歩後ずさった。

    「…あの、僕です。その、ここにいますよ?」

    その声は、さっき迄の不気味な囁きとは打って変わって、どこか気弱で申し訳なさそうな調子だった。
    その声に気が解れたので、改めてよく見れば、影から出てきたのは保健委員会の三反田数馬だった。
    そうだった。
    数馬は忍術学園でも「影の薄さ」で有名な二年生の忍たまで、今日も保健委員会の当番で、最初から僕達と一緒に医務室にいた筈なのに…僕も伏木蔵も、完全にその存在を忘れていた。

    「数馬…その、ごめん! 気付かなかったよ」

    僕は驚きと申し訳なさのあまり、声を上げた。

    「えっと、僕は最初からずっと、ここで伊作先輩達と薬の整理をしていましたけど…」

    数馬は気まずそうに頭をかき、申し訳なさそうに言った。

    「伊作先輩も伏木蔵も、僕に気付かなくなってきて…話しかけようとしたら、雑渡さんが怖い話をされたので、ちょっと、その、無視されて腹が立ったのもあって、『ココです』って言ってみたんです…」

    「ええ!? じゃあさっきのは全部、先輩の声だったんですかぁ〜!?」

    伏木蔵が目を丸くして数馬を見つめた。

    「う、うん…伏木蔵ごめんね? 怖がらせちゃって…」

    数馬はますます縮こまり、俯きながら謝った。その瞬間、僕は全てを悟った。
    雑渡さんのあの話、絶対に数馬の存在に気付いていたんだ。
    僕と伏木蔵が数馬をうっかり無視しているのを見て、即興で怖い話をでっち上げ、僕達を揶揄ったに違いない。
    だいたい、雑渡さん程の人が、あんな怪奇現象を原因も確かめず放置する筈がない。
    わざと曖昧な話にして、今の状況を仕掛けたんだ。
    あの去り際のニヤリとした笑顔、絶対わざとだ!

    「雑渡さん、なんて事を…!」

    僕は思わず頬を膨らませ、拳を握りしめた。
    反対に、隣の伏木蔵は目をキラキラさせ、「え〜! 三反田先輩の声、とってもスリルでした〜! 雑渡さんの話の後だったので、最高のホラーでしたよ〜!スリルとサスペンス〜〜!」と、さっき迄の恐怖が嘘のように大興奮していた。

    「伏木蔵、喜んでる場合じゃないよ! 僕達雑渡さんに騙されたんだから!」

    「えーそうなんですか〜?」

    「そうだよ! あんな都合のいい怪談なんて、ある筈ないんだから!」

    文句を言いながらも、どこかホッとした気持ちが広がっていた。
    確かに怖かったけど…こうやって後から笑いものになるなら、まあ、悪くないかも知れないと、忘れないように数馬にも声をかけた。

    「数馬、ごめんね? その、気づかなくて…」

    改めて謝ると、数馬は「いえ、僕の影が薄いのが悪いので、慣れていますから…」と、しょんぼりした苦笑いで答えた。
    そして、僕達が騒いだせいで散らかった部屋の整理を再開した。
    その控えめな態度に、申し訳なさが募る。

    「でもでも~三反田先輩! あの『ココです』って声、とってもスリルでしたよ~? もし宜しければ、僕達ろ組の百物語でやって下さいませんか?」

    伏木蔵が無邪気に言うと、数馬は「え、嘘? あれを又やるの?」と困惑した顔で固まった。
    その後、僕達三人は医務室の片付けを終えた。
    窓の外はすっかり夜になり、ひぐらしの声も静かになっていた。
    作業を終えて医務室を後にしながら、僕は心の中で雑渡さんに一言文句を言う事を決めた。
    次会ったら、絶対「意地悪!」と言ってやる! でも、そう言っても動じずに「ごめんね伊作くん」とニコニコ笑う雑渡さんが想像できて、なんだか敵わないなと苦笑いした。

    「伊作先輩、帰る前に百物語の練習、ちょっとやりませんか〜?」

    伏木蔵が無邪気に提案してきた。

    「え、伏木蔵、まだ怖い話したいの? もう十分スリル味わっただろ?」

    「だって、今日のこれ、ろ組のみんなに話したら絶対盛り上がりますよ〜! 三反田先輩ともタイミングを図らないといけませんし…」

    「え、僕!? いや、僕、まだやるとは言ってないんだけど…」

    数馬が慌てて手を振る。
    そんなやり取りをしながら、僕達は夜の忍術学園の廊下を歩いた。
    ふと、どこかで雑渡さんがニヤニヤしながらこの話を聞いているんじゃないかと想像してしまった。

    いや、まさかね。

    そんな事を考えながら、僕は騒ぐ二人を促して忍たま長屋に帰った。

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