ザリガニ見習
DONE【雑伊】雑渡さんに投げキッスをかます六年生たちと、直接キスする伊作さんの話。20240402『千両万両あの赤をみよ』 今日は唐の書風をまねた。
学園の門番は入門票に名が記されたことに満足した。手蹟のちがいには目くじらを立てず。本人を証立てる筆の運びでなく、出入りの数ばかり重視する姿勢は、警固のつとめの半分も果たせていない。しかしそれでも忍術学園は陥落を知らぬのだから、無断で出入りすることの多い曲者にとやかく指摘する筋合いはなかった。
己が守る門の内に客を入れた小松田は首をひねった。
「伝言があるんです」
「なにかな」
「それがですねえ、今日のおあげがおいしかったなあと思い出していたら、隠れちゃって」
待っててください見つけますからと真剣な顔つきが空を睨む。鳥来る冬だった。鴨って食べたことありますかと忍者を志す若者が訊く。あれはね雁だよとタソガレドキ忍組頭は穏やかに答えた。「どちらも食べたことがある」
5049学園の門番は入門票に名が記されたことに満足した。手蹟のちがいには目くじらを立てず。本人を証立てる筆の運びでなく、出入りの数ばかり重視する姿勢は、警固のつとめの半分も果たせていない。しかしそれでも忍術学園は陥落を知らぬのだから、無断で出入りすることの多い曲者にとやかく指摘する筋合いはなかった。
己が守る門の内に客を入れた小松田は首をひねった。
「伝言があるんです」
「なにかな」
「それがですねえ、今日のおあげがおいしかったなあと思い出していたら、隠れちゃって」
待っててください見つけますからと真剣な顔つきが空を睨む。鳥来る冬だった。鴨って食べたことありますかと忍者を志す若者が訊く。あれはね雁だよとタソガレドキ忍組頭は穏やかに答えた。「どちらも食べたことがある」
ザリガニ見習
DONE【雑伊】現パロ。ヘアドネするために伸ばしている伊作さんの髪が雑渡さんのボタンに絡んでしまった話。曲者ではない雑渡さんです。20240308『交差』「骨折だってありえますよ!」
学生の心配は大きかった。
自転車に当て逃げされたのは雑渡である。転倒し、打ちつけた掌と前腕の擦過傷に、ゆるやかに水をそそぐ細やかさを発揮しながら、目撃者の想像は実に大胆だった。
骨折か。経験したことはなく、現在洗浄真っ最中の傷も過去を凌駕する痛みではない。そんなに酷くはないよと空になったペットボトルの蓋を閉める学生に告げた。彼(たぶん)は次にティッシュを差し出しながら、きっぱりとこちらを見上げた。後頭部の中ほどで結わえた髪がシャツの肩からずり落ちる。僕がそうでした。若き経験者の切実さに雑渡は肚をくくった。
腕の水滴を拭き、警察へ通報。一方、学生もスマホを手に取り、証言します自転車の色も覚えていますと奮然と、しかし冷静に周囲の整形外科を検索した。通信容量を割いてもらった上、この辺りは通学に使うだけだから評判のいい病院も知らなくてすみませんと謝られ、雑渡はこれがジェネレーションギャップかと感じた。高校生ってこんなんだったっけ? 二十年前の己の姿などおぼろげだ。明瞭なのは逃げた自転車。衝突によりスポークが外れたのか、カカカッと喚き去った。消えるなら一生消えてしまえ。当て逃げするような奴と金輪際関わりたくはない。ないが、寸暇を置かず大丈夫ですかと駆け寄ってきた振動が、いまも隣で響いている。
3669学生の心配は大きかった。
自転車に当て逃げされたのは雑渡である。転倒し、打ちつけた掌と前腕の擦過傷に、ゆるやかに水をそそぐ細やかさを発揮しながら、目撃者の想像は実に大胆だった。
骨折か。経験したことはなく、現在洗浄真っ最中の傷も過去を凌駕する痛みではない。そんなに酷くはないよと空になったペットボトルの蓋を閉める学生に告げた。彼(たぶん)は次にティッシュを差し出しながら、きっぱりとこちらを見上げた。後頭部の中ほどで結わえた髪がシャツの肩からずり落ちる。僕がそうでした。若き経験者の切実さに雑渡は肚をくくった。
腕の水滴を拭き、警察へ通報。一方、学生もスマホを手に取り、証言します自転車の色も覚えていますと奮然と、しかし冷静に周囲の整形外科を検索した。通信容量を割いてもらった上、この辺りは通学に使うだけだから評判のいい病院も知らなくてすみませんと謝られ、雑渡はこれがジェネレーションギャップかと感じた。高校生ってこんなんだったっけ? 二十年前の己の姿などおぼろげだ。明瞭なのは逃げた自転車。衝突によりスポークが外れたのか、カカカッと喚き去った。消えるなら一生消えてしまえ。当て逃げするような奴と金輪際関わりたくはない。ないが、寸暇を置かず大丈夫ですかと駆け寄ってきた振動が、いまも隣で響いている。
ザリガニ見習
DONE【雑伊】さわって分かるにこげのような関係の二人。お互いへの大事を育んでいる頃の日常話。20240228『蓬の裏の柔らかな』 保健委員会とは不運委員会である。
以前来訪の折に、一年生が教えた内輪の綽名を覚えていたのだろう。伊作の額を指さす雑渡が確信をもって問うた。
「これも」
「石がぶつかって」
苦笑で肯定と諦めを語る。日々歳々怪我をするため、己の体の修復力を伊作は把握していた。十分に冷やして赤みも残らなかったと思うのだが、客人の目は誤魔化せなかったらしい。学園の誰も招いておらず、正式に門を通過してさえいない彼を客人と呼べるかは永遠の謎だ。けれど門番に引き渡せば(引き渡すために捕まえられる気はさらさらしない)、タソガレドキ忍軍組頭たる凄腕を打ち倒さんと集まってくる友人達がいる。つまり負傷者が増えるということで、保健委員長を任じる者として黙っておくのが吉だった。
2473以前来訪の折に、一年生が教えた内輪の綽名を覚えていたのだろう。伊作の額を指さす雑渡が確信をもって問うた。
「これも」
「石がぶつかって」
苦笑で肯定と諦めを語る。日々歳々怪我をするため、己の体の修復力を伊作は把握していた。十分に冷やして赤みも残らなかったと思うのだが、客人の目は誤魔化せなかったらしい。学園の誰も招いておらず、正式に門を通過してさえいない彼を客人と呼べるかは永遠の謎だ。けれど門番に引き渡せば(引き渡すために捕まえられる気はさらさらしない)、タソガレドキ忍軍組頭たる凄腕を打ち倒さんと集まってくる友人達がいる。つまり負傷者が増えるということで、保健委員長を任じる者として黙っておくのが吉だった。
ヘヴェンディーモ
DONE「雑渡さんのこと、欲望、気持ち...全てをもうちょっと、知りたいのです...」しばらく考えた後、雑渡はそう答えた。「いいよ、少しだけ」
※服を着たまま ※青姦寸前 ※ぺティング 2
ヘヴェンディーモ
DOODLE先々週の話が頭から離れない。それで、忘れられないから描きましたw 今も全然離れない... 怒ったな組頭が最高...! _:(´ཀ`」読みやすいように分けましたをどうぞ。 7
さかえ
MAIKINGお付き合い後の雑伊の話 続きは書けたらいいなくらいでざつい書きかけ「やあ、伊作くん」
これ、お土産だよ。
そう言って、あんまりにもなんでもない顔をして風呂敷包みを渡してくるものだから、伊作もつられてなんでもないふうを繕って「ありがとうございます」と応えざるを得なかった。途端、にっと目元をほころばせる長身の男を見上げる。その目は黒檀より黒々として、伊作に必要以上の感情を読ませない。
「どうぞ、何もおもてなしできませんが」
とりあえず中へと通し、急ぎ茶の用意をする。今日は左近もいないので、伊作が全てをこなすしかないのだ。
「なんだか静かだね」
何かを探すように視線を巡らせながら言う雑渡に、伊作はそのわけを話して聞かせた。すなわち、今日は一、二年生たちが合同実習として校外に出かけているということだ。三年生と四年生はその補助役として配置されているという。教員の多くがそちらの引率に回ったおかげで、伊作たち上級生組の本日の午後授業は自習となっていた。合同実習に付いていった者もいれば自己研鑽に励む者もいる。伊作はそのどちらでもなく、実習に付き添って行った校医の新野に代わってこの部屋を預かっているというわけだ。
3362これ、お土産だよ。
そう言って、あんまりにもなんでもない顔をして風呂敷包みを渡してくるものだから、伊作もつられてなんでもないふうを繕って「ありがとうございます」と応えざるを得なかった。途端、にっと目元をほころばせる長身の男を見上げる。その目は黒檀より黒々として、伊作に必要以上の感情を読ませない。
「どうぞ、何もおもてなしできませんが」
とりあえず中へと通し、急ぎ茶の用意をする。今日は左近もいないので、伊作が全てをこなすしかないのだ。
「なんだか静かだね」
何かを探すように視線を巡らせながら言う雑渡に、伊作はそのわけを話して聞かせた。すなわち、今日は一、二年生たちが合同実習として校外に出かけているということだ。三年生と四年生はその補助役として配置されているという。教員の多くがそちらの引率に回ったおかげで、伊作たち上級生組の本日の午後授業は自習となっていた。合同実習に付いていった者もいれば自己研鑽に励む者もいる。伊作はそのどちらでもなく、実習に付き添って行った校医の新野に代わってこの部屋を預かっているというわけだ。
さかえ
MAIKINGようやく伊くん編 冒頭のみです。いずれ雑伊になる話 その3四 善法寺伊作と私
その少年が、かの大川平次渦正が創設した忍術学園の生徒であると知った時、雑渡の中に生まれたのは奇妙な落胆であった。以前から忍術学園の存在とその評判自体は耳にしており、その在り方に疑問を抱いていたからだ。城付き忍者の息子として生まれ育った雑渡からすると、忍術とは秘匿の術であり、決してもののように金品で購うものではない。それを学校という、ある種おおやけのものとして門戸を開くというのがどうにも理解ができなかった。忍術を――人を欺き命を奪うためのすべを、なかよしこよしの道具にするなどと、正直に言って舐めているとしか思えない。
理解できないといえば、いくさ場で出会ったあの少年であった。部下によれば名を善法寺伊作というらしい。忍術学園の生徒がいくさ場にいること自体は、授業の一環であろうと察することができる。だが、そこでの彼の行動はまったくもって不可解であった。本当に偶然のこととして、雑渡は善法寺がいくさ場に入る様子を見ていたが、彼はまずざっと状況を観察してひとまずの安全地帯を確保すると、そこにひとりのけが人を引っ張り込んだ。何をやっているのかという疑問は浮かんできたが、その行動が戦況に影響を与えるわけでもなし、雑渡はとりあえず彼を放っておくことにしたのだ。別段、こどもがいくさ場に入ってくること自体はさほど珍しくもない。おおかた見物か、どさくさに紛れて物取りでもするのだろうと思って、雑渡は一度忍軍への指示のためにその場を離れた。
2727その少年が、かの大川平次渦正が創設した忍術学園の生徒であると知った時、雑渡の中に生まれたのは奇妙な落胆であった。以前から忍術学園の存在とその評判自体は耳にしており、その在り方に疑問を抱いていたからだ。城付き忍者の息子として生まれ育った雑渡からすると、忍術とは秘匿の術であり、決してもののように金品で購うものではない。それを学校という、ある種おおやけのものとして門戸を開くというのがどうにも理解ができなかった。忍術を――人を欺き命を奪うためのすべを、なかよしこよしの道具にするなどと、正直に言って舐めているとしか思えない。
理解できないといえば、いくさ場で出会ったあの少年であった。部下によれば名を善法寺伊作というらしい。忍術学園の生徒がいくさ場にいること自体は、授業の一環であろうと察することができる。だが、そこでの彼の行動はまったくもって不可解であった。本当に偶然のこととして、雑渡は善法寺がいくさ場に入る様子を見ていたが、彼はまずざっと状況を観察してひとまずの安全地帯を確保すると、そこにひとりのけが人を引っ張り込んだ。何をやっているのかという疑問は浮かんできたが、その行動が戦況に影響を与えるわけでもなし、雑渡はとりあえず彼を放っておくことにしたのだ。別段、こどもがいくさ場に入ってくること自体はさほど珍しくもない。おおかた見物か、どさくさに紛れて物取りでもするのだろうと思って、雑渡は一度忍軍への指示のためにその場を離れた。
さかえ
TRAININGめっちゃ暗い上にこれだけ長くなってしまった・・・。山さんと雑さん、もしくは殿と雑さん、雑父と雑さんの話。
雑父と山さんの関係をねつぞうしていますのでご注意ください。
次からようやく伊くんが出てきます。
いずれ雑伊になる話 その2三 陣内と私
「山本陣内、入ります」
諾と返すと襖がすっと開かれた。途端に目を見張る陣内を、雑渡はにやりと笑って迎える。生来、人をからかうのが好きな質の雑渡の餌食になるのは、昔からだいたいこの男だ。父の側近で、幼いころから何かと顔を合わすことが多かった陣内は、その面倒見のよさから雑渡の冗談によく付き合ってくれた。だから今もまた陣内は慣れた様子で溜息だけを一つつくと、苦虫を噛み潰したような顔で応ずる。
「寝たままでよろしいとお達しをいただいておりますのに」
「そうもいかないだろうよ」
何せ、この城の殿さまがこちらへおわすのだからね。
雑渡の言葉に陣内も思うところがあったか、それ以上追求されることはなかった。ただ、すっかりと片付き、畳が一枚用意された室内を見て小さく溜息を繰り返すばかりだ。雑渡も陣内も長い付き合いだから、お互いの考えはよく分かっている。陣内からすればもう少しこの部屋に雑渡を縛り付けておきたかったのだろう。この男はどうにも心配性で、雑渡が小さなけがを負うことすら内心嫌がっている節がある。だからこそ、そうも言ってはいられないという雑渡の考えを、きっと陣内もよく理解しているはずだ。
6674「山本陣内、入ります」
諾と返すと襖がすっと開かれた。途端に目を見張る陣内を、雑渡はにやりと笑って迎える。生来、人をからかうのが好きな質の雑渡の餌食になるのは、昔からだいたいこの男だ。父の側近で、幼いころから何かと顔を合わすことが多かった陣内は、その面倒見のよさから雑渡の冗談によく付き合ってくれた。だから今もまた陣内は慣れた様子で溜息だけを一つつくと、苦虫を噛み潰したような顔で応ずる。
「寝たままでよろしいとお達しをいただいておりますのに」
「そうもいかないだろうよ」
何せ、この城の殿さまがこちらへおわすのだからね。
雑渡の言葉に陣内も思うところがあったか、それ以上追求されることはなかった。ただ、すっかりと片付き、畳が一枚用意された室内を見て小さく溜息を繰り返すばかりだ。雑渡も陣内も長い付き合いだから、お互いの考えはよく分かっている。陣内からすればもう少しこの部屋に雑渡を縛り付けておきたかったのだろう。この男はどうにも心配性で、雑渡が小さなけがを負うことすら内心嫌がっている節がある。だからこそ、そうも言ってはいられないという雑渡の考えを、きっと陣内もよく理解しているはずだ。