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    PYC_1205

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    R18小説はここであげます

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    PYC_1205

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    太陽の杯【カルヨダ】
    鯖×マスターパロ ※6月新刊予定
    大企業のCEOヨダナが敵対勢力に対抗するため半信半疑で召喚の儀を行い、カノレナさんを召喚する話

    #カルヨダ

    太陽の杯【カルヨダ】 誰のどんな望みでも叶える魔法の杯。何かと当国の政治に干渉してくる目障りな隣国の王子はそんなお伽話にご執心らしい。
     ある筋から半信半疑で取り寄せた古い学術書に書いてあったのは、今時のドラマはおろか、子ども向けのアニメーションでも耳にしないような呪文である。聖遺物を添え、魔法陣を描いて呪文を唱えると、偉人をしもべとしてこの世に呼び出せるという。
     そうして英雄同士を戦わせ、勝者のみ願望を達せられるとして、たかが人間一人が現代の武器や兵力に敵うとは到底思えない。半信半疑で取り寄せた聖遺物である黄金の耳輪を眺めながら、怪しげな術師に書かせた魔法陣の中央に座る。
    「馬鹿げた話だ。こんなものを本気で信じている奴に、わし様の国が掻き乱されていると思うと虫唾が走る」
     ドゥリーヨダナ自らが所有する高層ビルの最上階にそれらを集め、安全を確認した上で密室にした。部屋の外には警護が入っているが、室内は人払いをしてある。
     A3サイズの学術書は表紙が半分破れており、古文書の扱いに長けた者に掃除させたとはいえ、埃臭い。近くに添えられていた手袋を着けたドゥリーヨダナがページを捲るたび、手袋に白い煤のようなものがこびりつく。
    「……何だ?」
     1ページずつ進めている途中で、ドゥリーヨダナの手が止まった。次のページがくっついていており、捲ることができない。
     このまま職務に戻ろうかと思ったが、手袋の先に茶色の染みがついていることに気づく。本の片側を押さえながらそっと開くと、赤茶色の粘着質な何かで引っ付いていたページが開いた。
    「……」
     液体を溢したような染みはさながら血糊のようで、いよいよ気持ち悪い。見たところ、古代の言語で件の呪文が書かれている。
     ドゥリーヨダナは母国語のほか3カ国語に堪能なマルチリンガルであるが、古語は子どもの頃に勉強した程度だ。ろくに触れていないにも関わらず、昔取った杵柄というべきか、指でなぞった言葉は自然と口から声として発せられた。
    「素に銀、と……鉄。礎に石と契約の大公……」
     初めて読むはずの本だ。こんな呪文、目にしたことも耳にしたこともないはずなのに――口から息を吐くように言葉が声となる。
    「……抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
     最後まできっちり読み終えたところで、いよいよ馬鹿馬鹿しくなっていたドゥリーヨダナは大きく息を吐いて本を閉じた。肌で触れないように手袋を屑入れに放り投げると、魔法陣の上から離れようとした、その瞬間。

    「――――⁉︎」
     強い重力が全身にかかり、肉体が光に包まれる。立つことができずにドゥリーヨダナはしゃがみ込んで片手を地面についた。
     光源から爆発したような轟音がしたかと思えば、炎が燃え盛るような激しい音に変化していく。音に離れた場所に置いてある机や椅子はこの光の影響を受けずに置かれたままだが、ドゥリーヨダナだけが地面に吸い寄せられているようだった。
     手をついた場所はオフィスの床だが、炎のように真っ赤な色に光っている。焼けるような熱さを感じるが、不思議なことに服も皮膚も燃えてはいない。
    「……ぐ、う、……!」
     こんな非科学的なことが起こってたまるかという気持ちと、未知の何かに触れてしまった恐怖でドゥリーヨダナは動くことができなかった。正常心を保とうと、口から大きく吸った息を鼻からゆっくり吐き出す。
     これほどの光と音が出ているのに、外の見張りは何をしておるのだ。そう思って声を出そうにも、口から漏れるのは呻き声だけだった。
     手だけを包んでいた赤い光はやがて、ドゥリーヨダナの体を覆うように包み、地面から出た光は部屋全体を照らし出す。

    「っ……んぐ、ぁ……ごほっ、ハァ……」
     鼓膜が破裂するかと感じるほどのけたたましい音も、視界を一色に染めた光も、次第に収束していく。両手足を床につき、うつ伏せのような大勢でしゃがみ込んだドゥリーヨダナは、声を出そうとして激しく噎せた。
     パンツのポケットからハンカチを取り出し、口元を抑える。そっと誰かがドゥリーヨダナの背を優しく摩ると、次第に苦しさは収まり、呼吸が整えられてくる。
     ふと、ドゥリーヨダナは顔を上げた。この部屋には自分以外は誰もいないはずだが、誰が背を撫でてくれたのだろうか。
     警備の者が異変に気づいて部屋へ入ってくれたのだろうか。遠隔監視で中の様子を伺っていた弟たちが駆けつけてくれたのか。
     ――いや、そんなはずはない。たとえ血の繋がりがあろうと、この身に易々と触れることはしないだろう。
     では一体誰か。ドゥリーヨダナが振り返った先には、黒い衣類の上に金色の鎧をつけた美しい青年がしゃがみ込んでいた。
     真っ白な髪と肌に、青い瞳を持つ人間はこの国でも珍しい。肩から胸にかけて派手に露出した服といい、上半身を炎が覆うような衣類のようなものも、現代人とは思えないような様相だ。
    「う、ぁああ⁉︎ 誰だ、おまえは!」
    「サーヴァント、ランサー」
     SERVENTだと、と言いかけたところでドゥリーヨダナは気づいた。SERVENTの意味はしもべだ。
     過去に偉業を為した戦士や英雄を意のままにするなど、夢物語だと思っていた。こんな眉唾物の儀式で呼び出してしまった英雄だとでもいうのか。
     尻餅をつきそうになったドゥリーヨダナの腕を掴むと、ランサーと名乗った青年は軽々と自分の方に引き寄せる。一回りほどランサーの方が小柄だが、膂力では人間のドゥリーヨダナを上回っていた。
    「……ランサー、それがおまえの名であるのか?」
    「真名、カルナ」
     思考が現実に追いついていないが、目の前にいる青年が人ではない何かであるというのは間違いないだろう。ドゥリーヨダナの緊張と興奮を見透かすよう、カルナがドゥリーヨダナの瞳を覗き込む。
     会ったこともない人間、それも同性の若造にみっともない姿を晒してしまった。恥をかかされている――普段のドゥリーヨダナならそう思い、敵意を抱いただろう。
     不思議なことに、このカルナに対しては、ドゥリーヨダナが恥ずかしさを感じることも、怒りの感情を抱くこともなかった。
     はっきりと耳に残る芯の通った声だが、そこに人間の感情らしいものは感じられない。しかし、ドゥリーヨダナの耳にはカルナの声がどこか懐かしく聞こえた。
    「では問おう、カルナよ。おまえはどこから来たのだ?」
    「……マスター、おまえがオレを呼んだのだろう」
     次の問いに対しては、一呼吸置いてからカルナは返事をした。視線はドゥリーヨダナの瞳から外れなかったが、何かを言おうとして躊躇ったように思えた。
     カルナはドゥリーヨダナの手をとり、立ち上がる。思ったとおり、カルナの方が一回り小柄であるため、ドゥリーヨダナを見上げるような格好となる。

     CEO、代表、主。上に立つ者として、これらの名称で言われることに慣れてはいるものの、見ず知らずの英霊に「マスター」と呼ばれて悪い気はしない。そんなはずなのに、違和感が拭いきれない。
     この男と出会ってほんの数分しか経っていないが、ドゥリーヨダナには自らを客観視する心の余裕が生まれてきた。初対面の胡乱な男を碌に警戒もせず、懐かしいだの、腹が立たないだの、普段の自分ではあり得ないことだ。
    (まるで、昔の友人に出会ったような――)

     思案するドゥリーヨダナの様子を伺いながら、カルナは表情ひとつ変えることをしなかった。心を見透かす眼のことも、ドゥリーヨダナが抱く違和感の正体も語ることなく、英霊としての役目を全うする言葉を選んだ。

    「問おう。おまえはオレに何を望む?」







     ドゥリーヨダナからすればこの程度は当たり前の範疇だったが、一般の目にはさぞ豪勢な部屋に見えただろう。せいぜい百平米程度しかない空間であったとしても、フロアのカーペットから壁紙に至るまで、単なるオフィスビルでは考えられないほど上等な素材を使用している。
     それが、ものの数分で異様な空間へと一変してしまった。真っ暗だった部屋の明かりが自動で点灯すると、足元にあったはずの魔法陣が焼けていることが確認できた。
     どこからも煙は立っておらず、部屋の消防設備も作動していないが、焦げた臭いが鼻につく。カルナと名乗った青年が取った手を強く握ると、ドゥリーヨダナはスーツの袖で口元を押さえて立ち上がった。
     目の前にいる青年にとって、この景色などどうでもいいらしい。たった今この世界に呼ばれたばかりだというのに、カルナは辺りを見渡すことなく、ただドゥリーヨダナのみをその青い瞳で捉えていた。
     窓は閉め切っているというのに、彼の背から腰までを包む衣類が炎のように揺らめいている。部屋の戸を開けようものなら、外で待機しているボディガードが見るからに怪しい彼を処理しにかかるのが目に見えている。
    「もう一度問おう。マスター、おまえは何を望み、希う」
     カルナが鋭い目を細める。紅を引いたようなアイラインと透き通った碧眼の対照に、ドゥリーヨダナは目を奪われた。
     まるで心の奥を見透かしているような眼だが、果たしてカルナは気づいているだろうか。今まさに見ているドゥリーヨダナの瞳には、この男自身が映っていることを。
    「……わし様の、望みだと?」
     過去に栄華を極めた者、武勇を誇った者。かつて人として偉業を為し、一定の地位を築いておきながら、再びこの世に生を受けて望むもの。
     それが、自分自身の欲ではないと言うのか。ただこの世に引き戻すことしかしていない、ドゥリーヨダナの望みを叶えることが、この男の願いだというのか。
    「富か、地位か、名誉か――」
     ドゥリーヨダナの猜疑心を擽るように、カルナは言葉を続けた。カルナが言葉で提示したカードは、どれもドゥリーヨダナが有しているものだ。
    「……笑わせてくれる!」
     カルナの両肩を掴んだドゥリーヨダナは、詰め寄ってにいと歯を出して笑った。至近距離まで迫られようが、カルナは表情ひとつ崩さず、抵抗する仕草も見せない。
    「そんなもの、すべてに決まっておる! この世のすべて、わし様が望むすべてを所望する!」
     一息に言い切ると、ドゥリーヨダナは顎を引いて満足げに目を細めた。抽象的で傲慢な願いだが、カルナはそれを肯定することも、否定することもせずに呟く。
    「貪欲なことだ」
     人に聞くだけ聞いておいて、この言い草である。ドゥリーヨダナの両手を肩に置いたまま、カルナは右手を前に差し出した。
     黒い生地で覆われた右掌をぱっと広げると、金色の巨大な武器が何もない空間から現れ、手に収まる。槍のようなそれを伸ばし、カーテンを手前に引いた。
     窓の外にはまず雲が見える。この地域で最も高いビルの最上階では、目線と同じ高さに並ぶ建築物などない。 
    「地を見下ろすほどの城に、大勢の配下と潤沢な物資。これらは全ておまえのものだろう」
     カルナはドゥリーヨダナに問う。これを為し得ているのは、おまえの出自によるものか。それとも、潤沢な財によって支えられているのか。
     元来与えられていた、もしくは、自ら掴み取った地位、名誉。そのいずれも、他が容易に及ぶものではない。
    「……それでもなお、満たされないということだな」
     カルナの視線が建物の外から再びドゥリーヨダナへと戻った。要するに、客観的に見れば多くの人間がたどり着けないほど恵まれているが、その程度では満足できないだろう――カルナはドゥリーヨダナにそう問うているのだ。
     媚び諂う者どもや、羨み妬む周囲の連中とは違い、この男は物事の本質を理解しているではないか。先ほどまでの恐怖はどこへやら、ドゥリーヨダナは上機嫌で返事をした。 
    「当たり前だ! こんなもの、わし様にとっては全然足り〜ん!」
     カルナが城と評したこの規模のビルであれば、世界中にいくつも持っている。ドゥリーヨダナの下で仕える者も、国の99%以上の人間が一生をかけたくらいでは到底足りないほどの財産も。
     マスターの意思を確認するやいなや、カルナの右手にあったはずの槍がゆっくり姿を消していった。周囲が光の粒子となり、あっという間に空間へ溶け込んでしまった。
     ドゥリーヨダナはもはや驚きはしなかった。科学で説明し難い現象であれ、一度体験してしまえば、自分が見たものこそが真実だ。
     未知の存在であるサーヴァントに対する身の危険より、このカルナという青年に対する興味の方が勝っていた。いや、リスクを顧みないほどに、この青年に惹きつけられたいっても過言ではない。
     ドゥリーヨダナの返事にカルナは何も返さなかったが、それは願望の肯定だった。カルナの沈黙を承諾と受け取ったドゥリーヨダナは、カルナの右手を大きな手のひらで包み込んで強く握った。
     血が通っているのか疑いたくなるほど真っ白な肌だが、見た目に反して体温は高い。あくまで友愛の気持ちから握ったドゥリーヨダナの掌に、カルナの指が絡んだ。


    「――して、カルナよ。おまえの望みはなんだ?」

     使役される側が無報酬ということはあるまい。雇用主のためではなく、自らの生活のために労働者が働くのと同じである。
     名を馳せた英雄や戦士であれば、尚更のことだ。聖杯とかいう願望器に何らかの制約があるとしても、ただ施しを受けるだけではアンフェアだ。
     何もない空間から背丈を超えるほどの大槍を出し、ドゥリーヨダナよりも一回り小さな引き締まった体で軽々持ち上げるほどの男だ。ドゥリーヨダナなど簡単に殺すことができるだろうに、大人しく従う理由に興味があった。
    「オレに望みなどない」
     大企業の長子として生を受け、幼い時分より生々しい権力争いの場に身を置いていたドゥリーヨダナはある程度人の嘘を見抜く力があった。カルナのその言葉に偽りは感じられない。
    「……どういうことだ」
     ドゥリーヨダナは疑問を抱かずにはいられなかった。人よりも恵まれた環境で生まれ育ったとはいえ、何もなしにドゥリーヨダナへ施しを与える人間など、生まれてこの方一人もいなかったからだ。
     訝しげな表情をしたドゥリーヨダナへ畳み掛けるよう、カルナは続ける。見た目と体温は人そのものだが、カルナはドゥリーヨダナが知る人間という生き物とは根本的に違っている気がした。
    「オレは、おまえの願いを叶えるだけだ」
     ドゥリーヨダナを見つめながらはっきりそう言うと、カルナは頷く。繋いだ手の温かさは決して悪いものではない。
    「……なぜ、わし様に肩入れするのだ。初対面のおまえがこうもわし様を守る理由が知りたい」
     ドゥリーヨダナはカルナの出自を知らないが、カルナはドゥリーヨダナの豊かさを知っている。その上、さらなる豊かさを望むことについて、理解もしている。
     一方で、カルナ自身はそれを望まない。この男の目的は、俗物的な欲とはかけ離れたところにあるように思えてならない。
    「オレを召喚したのは他でもないおまえだ、マスター」
     ドゥリーヨダナの推論を、カルナが言葉でなぞる。何にせよ、ドゥリーヨダナの敵ではないらしい。
    「何も答えになっておらんが……要するに、わし様の味方ということで良いのだな?」
    「妙なことを聞く」
     カルナからは手を離さないので、ドゥリーヨダナが右手の力を抜き、ようやく手を離した。部屋の中央に置いていた聖遺物は無くなっていたが、カルナが左耳に装着している黄金色の耳輪は消えたそれによく似ている。
     年季の入った古い学術書とそこから出た埃が机の一角を汚している。この儀式の意味もほとんど解さないまま、素性のわからない青年を呼び寄せてしまった――それが、今のドゥリーヨダナが理解した全てだった。
    「……まあ、良い。時期にわかる、そういうことであろう?」
    「……」
     ドゥリーヨダナは傲慢で貪欲、そのうえ嫉妬深い人間だが、従う者、味方する者に対しては、十二分に恩恵を与える。部屋に儀式的な雰囲気を感じさせる異様な物品を残したまま、ドゥリーヨダナはカルナの手首を掴んで部屋の扉を開けた。

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