マイスイートラバー午後21時、夕飯には遅い時間だが、一週間の仕事を終えて風呂に入って寝るには少しだけ早い時間。
藤堂は、スーツ姿なのを気にせず、値引きシールの貼られたコロッケと酎ハイをかごにいれると、いそいそとレジに向かう。
地元密着型スーパーだった店が、ペンギンマークのディスカウントストアにジャックされてから数年経つが、独特の騒がしい放送曲には慣れないままだ。
あっと、冬物のパジャマをクローゼットの奥に仕舞っていたのを藤堂は思い出した。
近頃、寒さが増してきて寝付きが悪い、パジャマだけが問題でないのは分かっている。
あるはずの体温がそこにないからだ。連絡を取れば駆けつけてくるだろうか。
だが、自分から喧嘩した手前、 バツが悪い。
原因はなんだったか、確か晩御飯のあとの酎ハイを飲むか飲まないかだったような気がする。勃起云々を言われたが、使うのは後ろなのだからと言えば、恋人はいたく不機嫌になってその日は二人して大人しく寝た、早朝、地方の機械がエラーを起こしたとメンテナンスの出張のために恋人は家を出た。
職場のボードには今日で終わると書いてあったが、なにも連絡がない。休日も向こうにいるつもりだろうか。
関係ないと適当に手を取ったパジャマをかごにいれると、大きな手がかごを物色した。
「よう、平助、」
「なんだよ、左之帰っていたのか」
何事もなかったかのように振る舞うが、藤堂の煩い放送曲に負けないほど、心臓は跳ね上がっていた。
「珍しいなお前がここで買い物なんて、」
現場から直接帰ってきたのが分かるように、ナイロンジャケットに動きやすいパンツとショートブーツと、藤堂のスーツ姿よりもざわざわした店に溶け込んでいた
「……いつものスーパーに間に合わなかったんだよ、そっちこそ、帰ってきたなら連絡しろよ」
不機嫌さを隠せずに、つんけんした態度を取っても原田は気にする素振りはない。
「したさ、家に帰ってもいねぇから、ぶらついていこうとしたら、お前に会った」
そう、とぶっきらぼうに言葉を返せば、原田が藤堂の耳にヘッドフォンを当てる。
しかめっ面を放送曲の騒音と勘違いしたのだろうか、特注のヘッドフォンは素材がいいのか耳によくフィットし、余分な音を遮っていく。
「それにこれもいるだろう」
かごの中の酎ハイと入れ替えられた、箱に藤堂は顔を赤らめた。
『うすぴたローション入り極薄極大サイズ』と何かをはっきりとは表記していないが、用途についてぴっちり裏面に記載されている。
「いる、」
不貞腐れているのが、バカらしくなり藤堂は小声で答えた
「これ戻してくるから、買っておいてくれ、なんだよ、コロッケしかないのか食パン買ってコロッケパンにしようぜ、」
高校時代に喰っていただろと原田がにかりと笑う
「そんなにいらねェよそれよりもサ、早く帰って、喰う準備しておけよ、」
バンと原田の尻を叩くと藤堂はレジに向かった
花の金曜日周りは休日に浮き足立っている、こんなやり取りみてもジョークで済むだろう
早くと帰りたいとせき立てるのは、心臓か別の箇所か
パジャマはいらなかったかと思いながら、会計を済ませ家に帰れば、獣じみた口づけが降り注いできた。
翌朝、脱ぎっぱなしのスーツを拾い、意味もなくパジャマに着替えれば、サイズ違いでぶかぶかだった。
どこまでも原田を求めていたのだと実感し、また身体が熱くなった藤堂と、サイズ違いのパジャマに彼シャツを連想し、すらりと伸びた脚に欲情した原田が朝からしけこんだのはまた別の話