危険な落し物 なんでもない日のパーティーの準備中、同級生からハリネズミを逃がしてしまったと知らされたエースは、ハーツラビュル寮の森へ来ていた。本当は知らん顔したかったが、寮長に首をはねられたくないと泣きつかれ、今度昼食を奢ることを条件に探すのを手伝うことにしたのだった。
以前、エースもケージの鍵を閉め忘れてハリネズミを逃がしてしまった事があった。その時と同じ様に餌でおびき寄せようと皿を地面に置こうとした時、何かが落ちているのに気付いた。
「何だこれ?仮面か?」
エースが拾ったのは深緑色の仮面だった。蝶のような形で額と目元にひし形のマークが付いている。
「そういやデュースが交流会で仮面付けて踊ったって言ってたな」
先日ノーブルベルカレッジとの交流会があり、参加する生徒はくじ引きで決められた。ハーツラビュル寮からはリドルとデュースが行くことになり、その時は悔しがっていたエースだが帰ってきたデュースから大変な目に遭ったと聞かされてくじに当たらなくて良かったと思った。
「デュースの踊りなんて不格好だっただろうな。そういうのはオレのほうが上手いと思うなー」
エースは拾った仮面を付け、その場で舞ってみせる。観客はいないが、ポーズを決めたエースは気分が高まった。
だがそれも束の間でそろそろハリネズミ探しを再開しようと仮面に手をかける。
ところがいくら外そうとしても仮面は外れず、まるで接着剤でくっついているかのように全く動かなかった。
エースは焦り始めた。思い切り力を入れて仮面を引っ張ってみるが、痛いだけで外れる気配はなかった。
(マジかよ······どうすりゃいいんだ······)とエースが落胆したその時、鼻と口の辺りに痛みが走った。すると鼻と口が徐々に出っ張り始めた。
エースは驚いて口元に手をやったが、その手は人間のものではなく、ピンクの肉球が可愛らしい獣の手になっていた。
テラコッタ色の髪は薄い緑色に変わっていき、肌に薄い緑色の毛が生え始めた。
首元からピンク色の首輪のようなものが生え、そこから深緑色の葉が生え、二股に分かれたマントの形になった。
太ももから足先にかけて深緑色に変色し、足先も手と同様、獣の形になっていた。
腰の辺りには短い尾が生えていた。
エースは人間から猫の魔獣の姿へ変貌してしまった。
自分の身に何か起きたのは間違いないが、鏡がないので姿を確認しようがなかった。スマホを使えば······と思ったが、指が三本の獣でスマホを操作するのは困難であった。
助けを呼ぶにも言葉が話せなくなっており、仮に助けが来ても今のエースの姿を見てそれがエース出あると認識出来る者はいないだろう。
恐怖で泣きそうになっているエースにどこからかボールが飛んできてエースの体に当たった。ボールがパカッと開き、エースは光に包まれボールの中へと吸い込まれてしまった。ボールが閉まり地面に落下し、少し動いたのちにカチッと音がしてやがて動かなくなった。
木の陰から黒いローブを来た者が現れ、ボールを拾い上げるとその場から立ち去っていった。