こうして穏やかに酒を酌み交わすようになったのはいつからだったろうか。もはや数百年は前になる波乱の日々を思い起こし、ふと郷愁に駆られたように目を細める。
「叔父様……? どうされましたか?」
「ん? ああいや、懐かしいと思ってな」
手にした杯をくるりと回し、葡萄色をした液体にそっと口をつける。
瞼の裏に広がるのは贖罪の記憶。これ以上ないほどの幸せな時を根こそぎ摘み取られ、この身体を形作る砂のひとつひとつまでもを憎悪と悲愴で満たしていた哀れな過去のことだ。
「あの頃はこうやってお前と晩酌するだなんて思わなかったからな」
「そうですね。俺も……まだ夢を見ているようです」
「大袈裟」
からからと笑い、上機嫌のまま飲み干す。するとすかさず甥の手が次を勧めてくるので、遠慮なく差し出し杯が満たされるのを待った。とろとろと注がれる液体に視線を落とし、争うことなく流れる時間にただただ身を委ねる。
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