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    それは、彼のような鮮やかな色

    ワンライ『にらめっこ』『衣装合わせ』(第93回お題拝借) ショッピングモールの一角にあるアパレルショップ内男性服のコーナーにて、気になった服を見かけては類に合わせ、見かけては合わせ、司は頭を悩ませていた。

    「うむむ……」
    「司くん?別に明日が最後では無いのだから、そこまで悩まなくても…」
    「何を言っている!初デートは明日しかないだろう!」

     類の私服姿は、素直に似合った装いである時と、奇抜過ぎて不安になる装いである時がある。
     そんな類を見て、密かな願いが生まれていた。
     自分が選んだ服を、恋人に着てもらいたい…と。
     最初は押し付けがましいと思ったが、素直に話したところ快諾してくれた。
    「僕だから、そう思ってくれたのだろう?」と照れくさそうにしていた笑顔は、しばらく頭から離れなかった。

    「…そんなに、考えてくれていたなんて…」
    「……これはオレの願いでもあるからな…感謝、しているんだ」

     最初で最後の機会、せっかく快諾して貰えたのだから絶対に後悔のないものにしたい…と服を探していると、鮮やかな色が視界に飛び込んできた。
     鮮やかなクリーム色の服を魔法がかかったように手に取り、類に合わせる。
     正直、類は何を着ても似合ってしまうし、着こなしてしまう。今合わせている服よりも、もっと彼を引き立たせる服は沢山あるだろう。

    (でも何故だ、何故オレはこの服を類に着て欲しい…?)

     服を合わせたまま自分の中に湧いた感情に頭を悩ませていると、フッと類が笑った。

    「司くんの、色だね?」
    「あ、……」

     オレの、色。
     言われて、自分の感情の意味に気がつく。

    「オレは…お前に、この色を……纏って欲しい」
    「うん。司くんが選んでくれたものであれば、喜んで」

     念の為とサイズの確認のための試着をしてもらう。
     流石に二人で入る訳には行かなかったので近くで待っていると、試着室のカーテンが開く音がしたので見に行く。

    「どう、かな…?」
    「…っ……!」

     ピシャーンと雷が落ちたかのような衝撃が身体中を走り抜けた。
     類が、自分の選んだ服を着ている。その色が司の色である、と認識している上でだ。改めて、心を許されていると実感した。元々素材がいいため似合わない筈は無いと思っていた為不安視はしていなかったが……とにかく………

    「凄い、な……」
    「その様子だと、お気に召して頂けたようだね」

     その後の記憶は少し朧気で。
     何とか自分が払うと財布を開き、「また明日」と別れを告げる時、改めて服を渡した。
     その時の「また明日」と笑う類の笑顔が、新しく脳裏に焼き付き離れなかった。

    ―――

    (司くん、明日大丈夫かなぁ)

     自分が司に選んでもらった服を試着して以降、彼は心ここに在らずと言った雰囲気だった。
     きっかけは自分にある、と思うとむず痒くて思わず笑みがこぼれてしまう。

    (あんなに本能的な司くんは、初めて見たかもしれないね)

     この服を初めて視界に入れたと思わしき時から、まるで別人のような言動をするようになった彼のことを思い出す。
     目は常に見開かれており、人前に出ていい顔ではなかったように思う。
     そんな顔でレジに立つのは色々と申し訳なかったので支払いをしようと申し出たのだが……あの時の店員の困った顔を思い出し苦笑いする。

    (楽しみ、だなぁ)

     明日またあの不思議な姿を見せてくれるだろうか。
     もしかしたら、ずっとあのままで家族に心配されてしまっているかもしれない。
     どんな姿が見れるのか、楽しみで楽しみで仕方ない。
     明日への期待を膨らませながら、ソファの上で目を閉じた。
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