ジャケットヴェール進捗②「虎徹さん」
「なんだい」
「今日も素敵」
「今更口説いてもとっくに惚れてるよ」
「もっと惚れればいいじゃないですか」
「口がお達者で」
「あなたに鍛えられましたからね」
「きす、する？」
「最初からそのつもりでしたが」
「ほんと、そーいうとこだぞ、ばに」
「いくらでも言ってください」

くるりとチェアを回されて、上からキスが落ちてくる。湿った鼻息。閉じたまつ毛の長いこと。温度の違う唾液が流れ込んできて、俺の口内を塗り替えていく。

ジャケットヴェール兎虎進捗　それが、「これからしばらくの間、寝起きは虎徹さんの部屋でいいですか」ときた。もちろん断る理由はない。バニーの部屋は物が少なくて、手隙になった時にやることといえば映画を見るかひたすら話すかなんやかんやすることくらいな訳だが、それに比べて俺の部屋は娯楽のレパートリーが多い。まぁ、飽きが来にくいってことだ。バニー、チェスもオセロも強えんだよ。俺一回も勝ててない！ あ、でも将棋はまだ俺の方が強い。あと三戦もすればコツを掴まれて負けそうだけど。

彼女が読んでいた本は「自分を信用させるには、どうしたら良い？」
　ずいぶんと尊大な態度で仲間が問いかけてきた。初対面時を思い出させる珍しい姿勢に懐かしさを覚え、手元の本を閉じて、向かい合う。
「……君の得意分野に思えますが」
「そーゆーのいらねって」
「では、どのような意味で？」
「もちろんエロス。それしか無いっしょ」
「なるほど……」
　ストレートな物言いに小首をかしげる。ひどく難しい質問だ。
「そうですね……。古今東西、様々な哲学者から市井の人々まで、その伝達方法について頭を悩ませてきましたが」
「リーダーの答えだけが知りたい」
「……まずは、そう、言葉にすること」
「そいつは毎日やってる。でも伝わってる様子がねーの」
　そんな不思議なことがあるのだろうか。彼の言葉は森の大地を潤す雨のように、心地よくしみ込んでいくというのに。