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    mi1pi_bo

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    北3/健全//わちゃわちゃアホやってる北3+通りすがり賢者と魔法使い達・三人称

    #北3

     オーエンの手からぼろぼろと白いかたまりが落ちていく。
     ミスラが大きな口を開き、手元の赤を齧り取った。

    「あ。ちょっと、それ僕のだよ」
    「はあ。もう食べちゃいましたが」
    「ふざけないで。腹を捌けば出てくるかな?」
    「やってみればいいでしょう。俺より弱いあなたにできるわけありませんが」

     は?
     なんです。

     二人ぶんの声が剣呑に響く中、乱闘の気配を察知したブラッドリーが自分の皿を持って横を向いた。さり気なく腰を浮かせて、いざという時にはいつでも抜け出せるように準備する。
     必要とあらばどちらかに手を貸すことも多々あるが、特に興味も意味もない喧嘩で美味な料理を堪能しそびれるのは御免だ。ミスラの気まぐれで殺し合いになることも多い厄介なお茶会とはいえ、本日のお供は自分の知る中でもっとも腕の良い料理人が用意したもの。
     お茶会が台無しになるのは心底どうでもいいが、料理が台無しになるのは許せない。

    「ブラッドリー。まさか、逃げ出そうなんてしてないよね?」
    「ブラッドリー。この人を黙らせるので手を貸してください」
     ああ、遅かった。忘れてくれていいものを、こんな時ばかり記憶力がいい。特にミスラ。
     魔法の応報が始まれば即座に離脱しようと身構えていたブラッドリーだったが、動き出すよりも先に両脇から声を掛けられて完全にタイミングを逃してしまった。首から頭を垂らす男に、白と赤の男ふたりが揃って不思議そうな顔をする。
    「あ」
     きょとんとした拍子。目についたものに、オーエンが短い声を上げた。
     何事かと集まる視線も意に介さず、身を乗り出してミスラに手を伸ばす。オーエンに手を伸べられれば大抵の魔法使いは警戒を顕わに逃げ出すものだが、己の力に自負を持つ男はぼんやりと眺めるだけだった。
     白い指が、少し血色の悪い白肌を掴んで指の節から生クリームのちいさな塊をこそぎ落とす。
    「これで今はゆるしてあげる。今度、この間のお店ミスラのおごりだよ」

     オーエンは盛大に周囲へ散らしながら甘味を口に運ぶが、ミスラもなかなかに豪快な食べ方をする。指に乗っていた欠けらをオーエンに奪われたミスラが、はじめて面倒以上の不満を瞳に滲ませた。
    「俺のものを勝手に食べましたね?」
    「いいでしょ。おまえだって僕のケーキ食べたんだから」
    「あれは元々俺のものです」
     今なら抜け出せそうだ。
     一瞬緩んだ空気が更に張り詰めていくのを眺めて、半ば蚊帳の外になりかけているブラッドリーは考えを巡らせる。わざわざ首を突っ込んでやる義理もない。
     そうと決まれば。再び腰を浮かせかけたブラッドリーの両手を、素早く伸びてきた二本の腕が拘束した。
    「あ?」
    「ブラッドリー。オーエンの所為でお腹が空いてきました。それ、食べていいですか?」
    「ブラッドリーも行くよね? ミスラのおごりだよ」
     眉を上げるブラッドリーに、両脇からそれぞれ二人が話しかける。直前まで会話を交わしていたはずなのに、ミスラはオーエンの些細な強奪を、オーエンはミスラに課したがっている代価を話題にしていた。同じ出来事に関する捉え方すら噛み合わないのはいつものことだ。
    「駄目に決まってんだろ! いや、二人で行って来いよ……」
     守ろうとしていた料理を狙われたブラッドリーが、眉を吊り上げて怒る。続けてオーエンの言葉も断ろうとするが、いやに決まってるだろと内心がありありと滲み出ている視線を返されて頬を歪めた。
    「……そもそもミスラ、奢んのかよ」
    「はあ? いやですけど」
    「だよな」
    「どうして。ミスラのおごりだよ」
     前提が無理だろうと肩を竦めるブラッドリーと眉一つ動かさないミスラに、オーエンが声を尖らせる。ひとつ息を吐き出したブラッドリーが、手を伸ばして白い頬に幾つも付着している生クリームを掬い取った。
    「まだまだあんだろうが。先にこっち食ってから……うおっ」
    「ブラッドリーも僕から盗むつもり?」
     指に乗った白いかたまりを見るなり、オーエンが相手の腕を強く握り締めた。有無を言わさず自分の口元に男の手を引き寄せ、白い指ごとべろりと舐め上げる。
    「っおい……!」
    「なに。不満?」
    「そういう問題じゃねえだろ……!」
     ぞわりと背筋を粟立たせた男が、オーエン以上の速度で振り払って手を引き戻す。その手を逆側から伸びてきた腕が掴み、先程とは別の指を白い歯が齧った。
    「っミスラ!」
    「なんです?」
    「なんですじゃねえよ! 何してんだ!」
    「何って。美味しいのかと思って」
    「んなわけねえだろ!」
     肩を跳ね上げた男が再び自分の腕を取り戻そうとするが、今度はしっかりと掴まれていてどうにも抜け出せない。
     ブラッドリーの手を掴んだまま、眠たげな瞳が白い男へ視線を定めた。
    「あなたの指も美味しいんですか?」
    「そんなわけ……気になるなら試してみなよ」
     嫌そうに否定しかけて、不意に方向転換が為された。不可解を顔いっぱいに広げるブラッドリーに薄く笑って、オーエンがミスラの唇に指を押し付ける。抵抗なく開かれる唇に目を細め、「僕とブラッドリーを食べたんだから、明日おごれよな」と機嫌よく声を弾ませた。

    「「た、食べ……!?」」
    「食べたんですか!?」

    「ん?」
     ガシャン!! と背後でけたたましい音がした。
     三人が振り返れば、驚愕の声を合わせた賢者とネロが立っている。その横で、ルチルが目を見開いていた。ミチルは顔を赤らめている。その更に後ろで思い思いの反応を示している魔法使いたちも気にせず、片手の指をミスラの口に飲み込まれかけたままブラッドリーが「ネロ! 賢者!」とカラリとした笑みを浮かべた。同じ唇に指を押し込もうとしているオーエンが「騎士様、その顔面白い」と呟き、ミスラが「どうしたんですか、ルチル、ミチル」と首を傾げる。
    「ブラッド!!!! てめえ襲われたのか!?!?!?」
    「は?」
     聞いたこともない大声を上げてブラッドリーにネロが詰め寄る。
     ミスラは目を白黒させているルチルに「どういうことですか!? 食べちゃったんですか!?」と叫ばれ、カインがオーエンに「どこ食われたんだ!?」と全身を確認し始めた。

     さっきまでは面白がったり驚いていた六つの瞳が、一気に澱んだ。あ、これ面倒くさいやつだ。
     視線を合わせる三人に、出そびれた賢者だけがバイオレンスなやつではなかったらしいと察して胸を撫で下ろす。察しはしたが、口は出さずに見守ることにした。
     三人で騒ぎを起こしたのだから、三人で解決してください。仲良くお茶会していたようだから、たぶん、大丈夫だろう。
     面倒を隠さない北の魔法使いたちを見て、安堵に肩から力を抜いた賢者は笑った。
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    mi1pi_bo

    DONE北3/健全//わちゃわちゃアホやってる北3+通りすがり賢者と魔法使い達・三人称 オーエンの手からぼろぼろと白いかたまりが落ちていく。
     ミスラが大きな口を開き、手元の赤を齧り取った。

    「あ。ちょっと、それ僕のだよ」
    「はあ。もう食べちゃいましたが」
    「ふざけないで。腹を捌けば出てくるかな?」
    「やってみればいいでしょう。俺より弱いあなたにできるわけありませんが」

     は?
     なんです。

     二人ぶんの声が剣呑に響く中、乱闘の気配を察知したブラッドリーが自分の皿を持って横を向いた。さり気なく腰を浮かせて、いざという時にはいつでも抜け出せるように準備する。
     必要とあらばどちらかに手を貸すことも多々あるが、特に興味も意味もない喧嘩で美味な料理を堪能しそびれるのは御免だ。ミスラの気まぐれで殺し合いになることも多い厄介なお茶会とはいえ、本日のお供は自分の知る中でもっとも腕の良い料理人が用意したもの。
     お茶会が台無しになるのは心底どうでもいいが、料理が台無しになるのは許せない。

    「ブラッドリー。まさか、逃げ出そうなんてしてないよね?」
    「ブラッドリー。この人を黙らせるので手を貸してください」
     ああ、遅かった。忘れてくれていいものを、こんな時ばかり記憶力がいい。特に 2756

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    DONE北3/健全//わちゃわちゃアホやってる北3+通りすがり賢者と魔法使い達・三人称 オーエンの手からぼろぼろと白いかたまりが落ちていく。
     ミスラが大きな口を開き、手元の赤を齧り取った。

    「あ。ちょっと、それ僕のだよ」
    「はあ。もう食べちゃいましたが」
    「ふざけないで。腹を捌けば出てくるかな?」
    「やってみればいいでしょう。俺より弱いあなたにできるわけありませんが」

     は?
     なんです。

     二人ぶんの声が剣呑に響く中、乱闘の気配を察知したブラッドリーが自分の皿を持って横を向いた。さり気なく腰を浮かせて、いざという時にはいつでも抜け出せるように準備する。
     必要とあらばどちらかに手を貸すことも多々あるが、特に興味も意味もない喧嘩で美味な料理を堪能しそびれるのは御免だ。ミスラの気まぐれで殺し合いになることも多い厄介なお茶会とはいえ、本日のお供は自分の知る中でもっとも腕の良い料理人が用意したもの。
     お茶会が台無しになるのは心底どうでもいいが、料理が台無しになるのは許せない。

    「ブラッドリー。まさか、逃げ出そうなんてしてないよね?」
    「ブラッドリー。この人を黙らせるので手を貸してください」
     ああ、遅かった。忘れてくれていいものを、こんな時ばかり記憶力がいい。特に 2756