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    tobiranomuko

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    tobiranomuko

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    吉デンR18本新刊冒頭。こちらに性描写は含まれていません。後に推敲します。タイトル未定。セフレな吉デンがお題に沿ってデートする話です。

    2
     フミコ、クァンシ、クギとの麻雀で最下位となったヒロフミは罰ゲームをすることになった。罰ゲームの内容は決まったら教えるらしいが一週間が経過している。みんな酔っ払っていて覚えていない。好都合だ。
     そんな期待は任務後のクァンシの言葉によって崩れ去った。
     事務所で事務仕事をしていたときのこと。クァンシが傍にやってきて耳打ちをする。
    「昼休み第二会議室に集合だ。すっぽかしたらヘッドロックかますからな。すぐに気絶しないようにゆっくり締めてやるよ」
     言われなくても用件はわかっていた。
     罰ゲームである。
     一週間も寝かせた罰ゲームの内容。考えたくないので考えることをやめた。受け入れよう。きっと命に関わるようなことはしない。高級焼肉店や高級寿司割烹全額負担でも、裸踊りでも熱湯風呂でもなんでもしてやる。ヒロフミは覚悟を決めた。
    ***
      昼休み。
     ヒロフミは仕事を終えて第二会議室へやってきた。会議室へ入るとフミコ、クァンシ、クギの三人が椅子に座って談笑している。
     ヒロフミが来たことを確認するとフミコが椅子から立ち上がってヒロフミの目の前にやってきた。
    「どうぞ。受け取ってください」
    三つの封筒を差し出してヒロフミに渡す。ヒロフミはそれを受け取った。可愛い花柄の便箋である。宛名にはそれぞれ番号が割り振られていた。
    「中身はまだ見るなよ。当日数字の順に開けるんだ」
     目的が見えない。三人は一体なにを企んでいるのか皆目見当もつかなかった。
    「来週の土曜日。貴方公休でしょ?」
    「誰も死ななきゃね」
    「罰ゲームはねチェーンソーの子とデートをすること」
     クギから罰ゲームを言い渡される。
    「発案者は誰?」
     ヒロフミが聞くと全員自分では無い誰かを指さした。全員黒だと思うことにする。
    「だってアンタたち付き合ってるのにろくにデートも出来てないんでしょ? 私たちがひと肌脱いでアンタたちのデートプランを考えてあげたのよ」
     クギは得意気に言う。
    「デンノコにはもう伝えてある。面倒くさそうな顔をしていたが‪✕‬‪✕‬屋のラーメンと餃子を奢るって言ったら快くOKしてくれたぞ」
     それは本当に「快く」なのだろうか。ヒロフミは苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
    「私たち隊長と先輩のために一生懸命考えたのでデート楽しんでくださいね!」
     フミコは心底楽しそうだった。もうなにも言い返す気力もない。
     訂正したいことがあったが話し出すと面倒なことが起きる可能性が高まるので黙っておくことにする。
     デンジと付き合ってることだ。
     付き合ってはいない。
     突き合ってはいるが。
     セックスフレンド。世間一般的にはそれを略してセフレと呼んでいる。
     きっかけはなにか。ヒロフミは思い出そうとするが脳が強制的にシャットダウンしているので考えることをやめた。 
    「君たち休憩終わったらちゃんと仕事しなよ。ただでさえうちの課は上から目つけられてるんだから」
     ヒロフミがそう指摘すると三人は心底訳がわからないと言いたそうな顔をした。
    「こんなに仕事してるのに意味がわからないッス」
    「あらぁ、ちょっと上とやらに挨拶しに行こうかしら」
    「一発ヤッてくるか」
     フミコはともかく、クギとクァンシの好戦的な態度をどうにかしたい。抑えつけても無駄だからやらないが。
     会議室を出る間際にクァンシと目が合う。彼女は片眼しか見えていない。なのに全て見透かされている気がするのは気のせいだろうか。気のせいであってほしい。
    ***
     今日は定時で上がることができた。公安を出て歩きながら私用の携帯電話を取り出す。履歴から電話をかけた。
     ワンコール、ツーコール、スリー――
    「んだよ」
     今日はすぐに出た方だ。いつもは留守番電話サービスが入る直前まで出ないから。わざとなのか気づかないだけなのかは検討がつかない。それを考えたところで無駄である。デンジ相手には。
    「クァンシから連絡いってると思うけど」
    「あー……風邪引く予定だから行けねぇ」
     案の定乗り気ではなかった。それは想定内である。デンジ自身はクァンシとの約束を覚えているのだろうか。振るいをかけてみた。
    「行けなくなったら‪✕‬‪✕‬屋のラーメンと餃子食べれなくなるよ」
    「えっ、あっ、そうだった……! それはやだ!」
     忘れていたらしい。とんだ鳥頭である。わざと忘れていたのかもしれないが。 
     お互いに行くしか選択肢がない。
    「お前はいいのかよ」
    「なにが?」
    「デート」
    「どうして?」
    「だってお前好きなヤツいるんだろ」
    「うん」
     君だよ。
     言いたいけど言えない。
     ヒロフミは口を紡いだ。
    「予行練習ってことで。お金払うから付き合ってよ」
    「あー……しょうがねぇなぁ」
     デンジのめんどくさそうな声が耳に響く。
     部屋かホテルでセックスしかしない関係なのに。デートだなんて夢のまた夢かと思っていた。欲をいえば自分から誘ってデートプランを考えたかった。水族館とか映画とか。暗闇に紛れて手を繋いだりキスをしたり。愛の言葉を紡いだり。デートというのはそういうものだろう。ヒロフミはそんな普通のデートをしたことがないので全て想像でしかない。
     フミコたちがどんなプランを立てたか開けてみてからのお楽しみである。正直楽しみよりも不安の方が強い。ペアルックで手を繋いで街を歩け、と手紙に書いてあったら固まってしまうかもしれない。
    「じゃあ土曜日に」
    「ん」
     電話を切る。
     デート。
     ふと、髪に触れる。また携帯電話を開けて電話帳から行きつけの美容室に電話をする。
    「土曜日までに髪切りたいんだけどできる? うん。え、今から? わかった」
     今からならすぐに出来るが、今を逃すともう今月は無理だと言われた。ならば今行くしかない。ヒロフミはタクシーを拾って美容室へ向かう。
    ***
     美容室を出た。
     デートだからといって髪を整えるなんて乙女か、とヒロフミは今更ながら羞恥心を感じてしまう。担当からも「デートか」と聞かれてしまう始末だ。見透かされている。そんなに自分はわかりやすいかと、どんどん恥ずかしくなってきた。
     服。いつも制服で会っているから気にしていなかったがデートである。
     デンジの前で少しでも格好つけたい。
     あんまり気合いを入れすぎても引かれてしまう。
     自分のなかの天使と悪魔が両方の耳から囁いている。
     その例え方がメルヘンチックで乾いた笑いが出てきてしまう。こんな部分があるなんて知りたくなかった。
     ヒロフミは決めた。
     服は普段着ている服にしよう。自分の中の悪魔を殺した。
     カッコつけず普段通りデンジと過ごす。
     服を新調する必要は無い。
     自然体が一番だ。
    ***
    「ありがとうございましたぁ」
     紙袋を持って店を出た。
     顔から火が出るほど自分の行動を恥じる。
     結局デート用の服を一式新調してしまった。
     言い訳をするとしたら給料日だから気持ちが大きくなってしまった。
     違う。給料日は一週間前である。
     デンジとのデートに胸が膨らんでしまった。
     デンジはきっと普段着ているチェンソーマンTシャツとハーフパンツとサンダルで来るに違いない。自分だけ気合いが入ってバカみたいではないか。
     ヒロフミは火照りを冷ますために自宅まで歩いた。余計に熱くなって自宅へ戻ると風呂場で冷水シャワーを頭からかけ続ける。翌日風邪を引いて仕事を休んだ。一日休んだあとで出勤したらフミコに笑われた。腹が立ったので頬をつねればやり返される。仮にも隊長なのに威厳がなさすぎではないか、とヒロフミは少し悲しくなる。
    ***
     約束の土曜日である。
     待ち合わせ場所である喫茶店の前へ来ていた。公安御用達の店である。
     ヒロフミは待ち合わせ時間の一時間早く着いてしまう。
     グレージュカラーのスプリングコート、白のシャツ、黒のスラックス、黒のスニーカーという格好をしてきた。
     全部この日のために用意したものである。腕時計も服に合わせたカジュアルな見た目のものをつけた。髪は寝癖を直しただけ。
     黒のボディーバッグの中にはハンディカメラが入っている。デートの前日にクァンシたちから渡されたものだ。証拠を残せ、ということ。ハンディカメラを持ちながらデートをせねばならない。監視されているようで不快だ。
     デンジは毎日監視されていた。
     こんな気持ちだったのか。これを毎日。少しだけ罪悪感が芽生えた。
     今はもう監視をする必要はない。
     出会った頃と状況が変わったからだ。
     もうデンジは不幸になる必要がない。自分の幸せを追求すればいい。
     幸せ。
     今、その幸せを壊しているのは誰だろう。
     足音。
     この足音に聞き覚えがある。沢山の足音が聞こえてくるのにすぐにわかった。
     ヒロフミは足音がある方向をみる。
     待ち合わせ時間まで一時間もあるのに。
     デンジがこちらに向かってきた。
     青系のTシャツに黒系のデニムパンツにオレンジのラインが入っている白のスニーカーでやってくる。デンジもボディーバッグをつけている。デザインが似ていることに対して気分が高揚とした。
    「可愛い」
    「は?」
    「えっ、あっ、何も無いよ?」
     思っていたことが口に出てしまったので誤魔化す。
     着古したチェンソーマンTシャツとハーフパンツ姿でやってくると思っていたので想定外だった。デンジの身なりがちゃんとしているという事実がヒロフミは口角が上がりそうになるのを耐える。
    「デンジ君早いね。時間間違えた?」
    「オメェも早いじゃん」
    「俺は朝から公安に呼ばれちゃったんだけど早めに切り上げられたから早く来ただけだよ」
    「ふぅん……俺は……まぁ、時間間違えたんだよ」
    「馬鹿だなぁ」
    「はぁ!?」
     つい癖で悪態をついてしまう。デンジがいつもと変わりがないことに安心してつい口が出てしまった。
    「デンジ君、デートまでまだ時間があるからちょっとお茶していこうか」
    「奢り?」
    「奢り」
    「じゃあ行く」
     二人で喫茶店のドアを開けて中に入る。
    ***
     案内されて席につく。デンジはクリームソーダ、ヒロフミはアイスコーヒーを頼んだ。
     頼むと五分くらいで注文したものがくる。
    「朝からアイスなんてお腹冷えるよ」
    「お前も冷たいヤツじゃん」
    「そうだけど……」
     会話が終わってしまった。
     ヒロフミなりのアイスブレーキングだったが不発に終わる。デンジは水色のソーダの上に乗っているアイスの更に上に乗っているサクランボの茎を摘んだ。持ち上げて果実を口に含む。すぐに茎と離れて咀嚼した。
    「んだよ、ジロジロ見て」
    「いや別に」
    「もしかしてサクランボ欲しかった? 種しかねぇけどやろうか?」
    「いらないよ」
     口移しでちょうだい。
     なんてことは口が裂けても言えない。
     埒が明かないのでヒロフミはボディーバッグのファスナーを開けて渡された手紙を取り出してテーブルの上に置く。
    「これなに?」
    「お題ってヤツだよ。数字が書いてあるだろ? 数字の順に開けて俺たちはそれをこなしていく。その証拠を撮るためにこんなのもあるよ」
     ハンディカメラを取り出してデンジに見せる。心底面倒くさそうな表情を見せてきた。気持ちがわかってしまうから逆に何も言えない。デンジと違う点は面倒くさいと思いつつもデンジとのデートが出来る口実が出来て嬉しく思う点だ。
     デンジは手紙から目を離してスプーンを持ってアイスをジュースに混ぜている。
    「なぁんかラーメンと餃子じゃ割に合わねぇなぁ」
    「そう思うよ」
    「ラーメン三杯と餃子三皿だな」
    「量の問題かぁ」
     ラーメンと餃子は食べるつもりだった。
     デンジはスプーンを回すだけでソーダを飲もうとしない。ヒロフミはストローに口をつけてアイスコーヒーを飲む。
    「なぁ、一枚目開けてみろよ」
    「まだ時間まで少しあるけど」
    「早く終わらせて帰ろうぜ」
     デンジの言葉に胸が痛んだ。デンジにとってこのデートは早く終わらせたい案件であることがわかってしまう。ヒロフミは一分でも長くデンジと一緒にいたいのに。
     平静を装う。
    「まぁ、はじまりの時間は指定されているからそれまではゆっくりしていようよ」
     アイスコーヒーを一気に飲み干す。ヒロフミは店員を呼んでもう一杯追加で注文をした。
    「トイレ近くなるんじゃね?」
    「そうだね」
     グラスに入っている水を飲む。
     デンジが早く来たのは早く終わらせたいから。それがわかってしまったのが嫌だった。知らないことが幸せだったのに。知ってしまうと途端に色々と考えては落ちてしまう。嫌だった。こんなにも好きな人のことで気持ちが揺れ動いてしまうことが。
    「お待たせしました」
     追加のアイスコーヒーが置かれた。ヒロフミはグラスを持ってまたすぐに飲んでしまう。来たばかりなのに半分は減った。
    「ほら、甘いの食べろよ」
     アイスクリームとソーダが混じったものを差し出された。
    「イライラしてんだろ。甘いの食えよ」
     デンジの目にはイライラしているように見えたのだろうか。
     恥ずかしいがデンジが心配してくれたと考えると嬉しかった。
     ヒロフミは無言で差し出されたスプーンを咥える。冷たくて甘い。美味しい。今まで食べたアイスのなかで一番美味しい。
    「やろうか?」
     クリームソーダをヒロフミの前に差し出す。
    「いいよ。君が頼んだものだろ」
    「お前の金じゃん」
    「そうだけど」
    「じゃあ飲めよ」
     デンジは引かなかった。かき混ぜただけでクリームソーダには一切口をつけていない。食べたものといえばサクランボだけである。
    「あ、でも一口だけ食べさせて」
     デンジがアイスとソーダ水が混ざったものをスプーンで掬って口に入れた。
     間接キスである。
     デンジはきっと気づいていない。
     指摘すればデンジは吐き気を催すに違いない。それを目の前でされたら立ち直れなくなる。
     黙ったままでいよう。そう決めた。
    「じゃあお言葉に甘えてもらおうかな」
    「おう」
     デンジが口をつけたスプーンでアイスを食べる。
     アイスを食べているだけなのにデンジが口をつけたスプーンで食べているのだと考えるとデンジとキスをしているように感じてしまう。勃起しそうになるのをなんとか耐え。
    「そのアイスコーヒーもらってやるよ」
    「えっ」
    「俺のクリームソーダやったじゃん」
    「ブラックだよ?」
    「砂糖とミルクいっぱいいれる」
     デンジはアイスコーヒーのグラスを掴む。自わ分の方に持ち出してガムシロップとスキムミルクをいれてストローで吸って飲んだ。ヒロフミが口をつけたストローで、だ。
    「デンジ君、一枚目のお題開けようか」
    「へ? 開けんの」
    「うん。開ける」
     気が動転していた。
     冷静になる為にクリームソーダを直接グラスに口をつけて飲んでしまう。グラスから口を離すとデンジがヒロフミの顔を見て吹き出した。
    「なに?」
    「え、お前さぁ、アイスが髭みてぇになってるぜ……おかし……」
     すぐにペーパーを一枚取って口元を拭く。調子が狂いすぎて穴があったら入りたいくらいだ。
     一枚目の手紙はフミコからである。
     お題は「〇‪✕‬水族館で手を繋ぎながらイルカショーを見ること」だった。
     水族館の入場チケットが二枚入っている。
     二人で内容を読んだ後で顔を合わせてまた手紙の内容を見る。
     手紙には続きがあった。
     「イルカショーだけじゃなくて水族館のなかを全部二人で離れないでみること。あとお土産よろしくお願いします。チンアナゴのぬいぐるみとラッコ饅頭がいいです」
     土産のリクエストもされた。
     チケット代を返せということか。
    「少し早いけど行こうか」
    「時間いいのかよ」
    「うん。遅いよりかいいでしょ。それに早く終わらせて帰りたいしね」
     デンジも同じ気持ちに違いない。
     これ以上傷つかないように先手を打った。デンジのリアクションを待つが反応が返ってこない。顔を見る。特に怒ることもなく憎まれ口を叩くこともなくただヒロフミの顔を見つめるだけだった。泣きそうな顔をしている、ように見える。気のせいだ。きっと、気のせいだ。
     テーブルの上に置いてあった伝票を手に取り会計へ向かう。デンジは無言で席を立ちヒロフミの後ろをついていく。
     喫茶店を出てタクシーを拾い目的の水族館へ向かう。
    「俺、イルカショーも見てぇけどペンギンも見てぇなぁ」
    「うん。見よう」
    「お前はなんか見てぇのねぇの? 蛸とか」
    「蛸は毎日見てるからなぁ」
    「たこ焼きは食えねぇの?」
    「うーん……食べれなくはないけど食べにくいかなぁ。たこ料理全般は……」
    「テメェも人の心があるんだなぁ」
    「俺のことなんだと思ってるの?」
     デンジの顔を見る。笑っていた。ヒロフミの緊張が和らぐ。
     嘘偽りのない柔らかい笑みだった。
     可愛い。
    「水族館、好きな人と行けるといいな。事前リサーチってヤツじゃん」
    「うん」
     過去の自分を殴りつけてやりたかった。
     好きな人に「好きな人がいる」と言ってしまったこと。悔いても悔いきれない。
     蓋を開けそうになったが楽しいデートが台無しになるので無理矢理閉めた。




     
      
     
     

     
      

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