Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    rvxiang(フラン)

    😈💀中心

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 43

    rvxiang(フラン)

    ☆quiet follow

    おにでんの日!!!!!!!

    愛は瞠目(鬼典)「鬼丸、あんた寝癖がついているぞ」
    「あんた、卵焼きが好きだったよな」
    「少し隣りに座ってもいいか」

     どうにも、大典太の様子がおかしい。



     その日はいつも通りの朝で、いつもとは少し違う起床であった。
     定刻より早く目覚めた鬼丸は布団から起き上がると、早朝の内番に向かうために支度を始める。一ヶ月に数度の頻度でまわってくる朝の内番は様々な種類があり、今日の当番は馬の世話であった。汚れるので、馬の世話は顕現当初からあまり好きではない。しかしながら、戦場で多くの時間を共にすることを思えば、その体調の管理はとても重要な仕事であった。前の出陣で小雲雀の脚の調子が少々芳しくなかったことを思い出しながらも、鬼丸は枕元の傍に用意しておいた内番服に着替え、眼帯を付ける。そして、昇りかけの陽の光が透ける障子戸を開けると、そのまま朝冷えの縁側を歩き出した。

     先ず鬼丸が最初に向かったのは、廊下の端にある共同の洗面台であった。まだ電球が灯る、薄暗い洗面台のまわりには既に、早朝の当番やこれから朝稽古をするのであろう刀たちがおり、それぞれが各自の支度をしている。それらの刀たちの朝の挨拶に応えながら、鬼丸自身も洗面台の列に並び、自分の番を待った。朝飯前の時間帯の大行列に比べれば、早朝の順番待ちなどかわいいものだった。前にいる打刀が顔を洗い終えて洗面台から離れるのを見届けると、人の目には触れぬように鬼丸は左目の眼帯を外した。そのまま蛇口をひねり、手のひらを近づけた顔面に水を浴びせる。冬の冷たい水の触感に、一気に目が醒めた気分になった。人の身になった当初はこの感覚に慣れず、ただただ驚きでしかなかったが、今では気持ち良いと思うことができる。この感覚の差異は、己の練度が上がった証拠ともいえるのか否か。
     そんなことを考えつつ、鬼丸は腰元に垂らしている手拭いで顔を拭き、再び眼帯を付けなおす。心身ともにスッキリとした気持ちにはなったが、洗面台のまわりにたむろう刀たちの面子を見て、気になる点が一つだけあった。まぁ、まだ時間はあると思いながら、鬼丸は馬たちの待つ厩に赴くことした。

     案の定である。厩の前で待つこと十数分。朝日は昇りきったが、馬の世話が始まる時刻に当番にあたっていた刀が来ることは無かった。
     早朝の洗面台まわりにその姿が現れなかった時点で察するべきだったと、頭を抱える他なかった。
     朝に弱い、あの刀のことだ。この調子だと、まだ夢の中に違いない。そう思い、厩の前で待つことをやめた鬼丸は仕方なく、朝寝坊の部屋へと歩みを進める。その刀の部屋には厩から歩いて、二分も経たずに着いた。

    「入るぞ」

     そう宣言して該当の部屋の障子を開ければ、部屋の真ん中にはこんもりと盛り上がった布団があった。そして、部屋の隅にもう一組の畳まれた布団がある光景に、鬼丸は全てを察する。
     恐らくは、だ。いつも朝番に当たれば起こしてくれるはずの同室の同派は、昨日から長期の遠征に出かけているのだろう。目覚まし時計代わりの存在の居ない刀はただ一振、部屋の中央で悠々と惰眠をむさぼっていた。

    「おい、起きろ」

     部屋の敷居を跨ぎ、真ん中まで入ってきた鬼丸は、布団の上から朝寝坊の体を揺する。外気に触れまいと身を縮こませた刀、その大柄な身体を納めた布団はまさに白鞘のようであった。だが、刀が真価を発揮するのは鞘から抜かれた時である。揺すり続けても埒が明かないので、勢いよく布団を剥いだ。
     布団の下にあったのは、同じ天下五剣の太刀であり、今日の馬当番でもある大典太光世の寝顔であった。

    「起きろと言っているだろう」

     掛け布団が剥がれても、なお起きることはない男の肩を揺する。薄暗い部屋の中、布団の上にあるのは、宋磁の肌と唐墨(どうぼく)の髪。肩ではなくそちらに触れてみたい思いも一瞬生じたが、その感情の淵源が不可解だったので、鬼丸は自身の気持ちに素早く蓋をすることにした。
     しばらくすると、揺すり続けた甲斐があったのか、大典太の目がようやく薄っすらと開き始める。そこには冷えた赤銅をうつしとった、いつもの瞳の色があった。大典太は自身の起床を促した相手を、定まらない視線で見つめ出す。鬼丸もその視線を受けとめたので、たっぷり十秒は見つめ合ったのであろうか。お互いの視線が交錯している内に覚醒に至った大典太の眼は、鬼丸の姿をはっきりと捉える。そして、いつもの強張りからは考えられないほどに、柔らかく和やかな顔で微笑んだ。
     
    「鬼丸、あんた寝癖がついているぞ」

     そう言って、大典太は鬼丸の頭へと手を伸ばす。その表情と仕草に、鬼丸の時は止まった。



     その後、二度寝を決め込もうとした相手を鬼丸が叩き起すことによって、他の刀たちが出陣する前には、何とか馬たちの世話と厩の掃除を終えることができた。鬣を梳かすのための櫛を片付ける頃には、厨の方角から白米の炊けた匂いが漂ってくる。それが朝食の準備が出来た合図だということは、既に身に染みていた。
     鬼丸は厩の横にある水場で汚れた手を清める。馬たちの周りを箒で掃いていた大典太も全てを終わらせたらしく、いつの間にか水場の傍にたたずんでいた。
     濡れた手を拭い終えた鬼丸が食堂の方へと歩みを進めると、大典太もその後を追う。いつもは他の刀を待つことはない身勝手な男がとった不可解な行動に、鬼丸は思わず後ろを振り返った。

    「なぜ、付いてくるんだ」
    「なぜって、あんたも朝餐(あさめし)を食べるんだろう」

     鬼丸の問いに大典太は当たり前のように答えて、今度は後ろではなく横に並んで歩き始めた。横目で見たその顔は、微かにだが上機嫌そうである。厩の掃除を始める前から、隣の大典太の言動に少しばかり違和感を覚えるも、鬼丸にはその理由に思い当たる節は無い。己に対して普段、あまり見せない顔を見せる大典太の様子に、鬼丸の心は戸惑うばかりであった。
     天下五剣の太刀二振で並び歩きながら辿り着いた食堂は、今日も多くの刀たちでごった返していた。朝食を受け取るため、鬼丸が盆片手に列に並ぶと、大典太もその後ろに自然とつく。後ろからの刺さる視線に居心地の悪さを多少感じるも列は順調に進んでいき、鬼丸も大典太も問題なく朝食を受け取った。
     今日の朝食は焼き鮭と卵焼きか。そう思いながら、鬼丸は手頃な場所を陣取る。十人掛けの卓の左端の席につくと、つい先程まで後ろに居た大典太も続いて隣の席に盆を置いた。
     
    「なぜ、隣に座る」
    「隣に座ってはいけないのか」

     普段ならば、大典太は前田家の刀たちや同派の刀であるソハヤノツルキと生活を共にすることが多い。だが、今朝は何故か鬼丸の隣の席に座りこんだ上に、隣に座ることが当たり前だとばかりに返答した男に対して、鬼丸の頭は理解が追いつかない。そんな呆気に取られている相手の様子も気にかけず、大典太は味噌汁に手をつけ始めたので、鬼丸もぎこちなく箸を手に取った。
     同じ卓を囲む刀たちが和やかに談笑して食事を取る中、隣同士で座る二振の間には沈黙しかなかった。鬼丸の右耳から聞こえるのは、相手の箸使いの音のみである。
     やはり、何かがおかしい。しかしながら、何がおかしいかが分からない上に、考えれば考える程にどんどん分からなくなっていく。そう思案しながらも咀嚼を続ける鬼丸は、ただただ困惑の渦中にあり、好物の内に入る卵焼きの味も、もはや分からなくなりつつあった。
     そんな二振の間に流れる場の空気を壊したのは、またもや鬼丸の隣に座る男であった。

    「あんた、卵焼きが好きだったよな」

     そう思い出したかのように唐突に呟いた大典太は、自身の皿の上にある卵焼きに箸をつけ、半分に割る。そして、一口大の卵焼きを自身のではなく、鬼丸の顔の前に持ってくると、当たり前かのように言い放った。

    「ほら、あんた。口を開けろ」

     あーん、と大典太の声が辺りに響き渡る。今度は鬼丸だけでなく、周りにいた刀たちの時もまた止まった。



     全くもって理解不能であった。
     あれから急いで朝飯をかき込んだ鬼丸は、走り去るかのように食堂を後にした。取り急ぎ、食堂から一番遠い離れまで辿り着くと、疲労の頂点を感じて傍にあった縁側に座り込んだ。まだ正午にもなっていないのに、一週間分の体力のみならず精神力まで持っていかれた気分である。それもこれも全て、大典太の奇行のせいであった。
     いきなり頭を撫でる。一緒に居たがる。好物を食べさせようとしてくる。あの男の、数々の不可解な行為。それが、ただの気まぐれなのか。それとも、己が過去に何か仕出かしたことに対する意趣返しなのか、全く理解できなかった。大典太に何か仕出かしたという可能性を考えて、共にした呑み会の数々を振り返るが、考えれば考える程に思いつくことなど鬼丸にはサッパリと無いのであった。
     正直なことを言えば、だ。大典太にこのような態度を取られることに、嫌という気持ちは湧かない。それどころか、朝方に起きた頭を撫でられるという行為は、どことなく感情の高揚すらあった。だが、唐突すぎる言動には困惑しか覚えず、大典太の意図を測りかねているというのが鬼丸の現状の思いであった。
     あれこれと鬼丸が縁側でしばらく考えあぐねていると、砂利の上を歩く足音が段々と近づいてくる。そして、離れの角からは人影が射した。

    「ここにいたのか」

     噂をすれば影。刀を談ずれば刀至る。現在進行形で鬼丸の思考をかき乱している相手、大典太が目の前に姿を再び現した。鬼丸は相手の姿を認めると、思わず口をへの字に曲げた。

    「どうして、ここが分かった」
    「乱に教えてもらった」

     そういえば、離れまで移動している間に、洗濯籠を抱えた乱藤四郎に声をかけられたような憶えがある。普段は有り難いが今ばかりは勘弁願いたい乱の気の利かせ方に、鬼丸の首はがくっと項垂れる。そんな様子を気にしてか、肩を落とした男の目の前で大典太は心配そうにしゃがみ込んだ。

    「少し隣りに座ってもいいか」

     今度は許しを請う形で、目線を合わせた大典太は問いかけてくる。目の前の相手の真意を汲み取れない鬼丸はまた戸惑うが、その深い眼差しで見つめられると、断るという選択肢は無くなってしまう。顔を僅かに強張らせつつも、ぎこちない動作で頷く。その肯首を受けた大典太は、食堂の時のように鬼丸の右隣に座り込んだ。
     沈黙が再び場を支配する。大典太の雰囲気は弛緩しているが、鬼丸の身体は完全に緊張で硬直していた。次に何を仕掛けてくるか分からない相手の言動に身構え続けるも、大典太は己の横で冬の雲ひとつない空をただ眺めているだけであった。
     今までの行為に他意は無かったのではないか。隣の男の悠悠閑閑とした態度に、段々と鬼丸はそう思い始める。大典太は至って普段通りであり、自分が考え過ぎだったのではないか。そう思案しつつ、横目でその顔を一瞥する。そう思って見れば、横に座る大典太はいつも通りに見えるし、先程までの不可解な行動の数々が嘘のようであった。
     ようやく体の緊張がほぐれた鬼丸も大典太と同じく、空を見上げた。澄みきった青空の下、二振して縁側に座りながら長閑(のどか)な景色を眺める。その時間は何とも芳醇で、鬼斬りという使命を持つ己自身にとっては、些か贅沢な時のようにも思えた。

    「なあ、あんた」

     そう声が発せられると共に、己の右手は暖かさに触れる。体温を感じる感触に、己の手が大典太の手のひらによって包み込まれたことを鬼丸は瞬時に察知したが、時既に遅し。横を向けば、大典太はその口元を柔らかに綻ばせた。

     酒はなくとも。

    「今夜、あんたの部屋に行っても良いか」

     明らかに、大典太の様子がおかしい。
       


    「それで、俺のところまで来たってわけか」

     医務室常駐の短刀、薬研がそう応える。いくつもの奇行から頭でも強く打ったのではないかと思い、大典太を医務室に連れてくるまでは良かった。だが、同じ刀派の短刀は大典太の頭まわりを軽く触診すると、ケロッとした顔で鬼丸相手に言い放った。

    「まぁ、いつものことだな」
    「何がだ」
    「何って、この本丸では良くあることさ。鬼丸さん、あんただって…いや、何でもない」

     何か気になることを言い淀みながらも、薬研は言葉を続ける。妙に大人びた短刀いわく、この本丸は審神者が少しでも体調不良になると、稀に刀たちにもその影響が出てくるらしい。それも傷や病ではなく摩訶不思議な現象に襲われる、ということだ。続く寒さで昨日から大将も少し体調を崩し気味だったからな、と薬研は最後に付け足した。

    「この手の症状だったら、前にも他の刀でいくつか事例を見たことある。いわゆる"刷り込み"みたいなものだ」
    「すりこみ」
    「生まれたばかりの雛が卵から孵(かえ)って、初めて見たものを親だと思う、鳥の本能だよ」

     机に向かって記録を取り始めた薬研は、相変わらずの調子で淡々と、鬼丸相手に今までの状況の聞き取りをしていく。そういえば、大典太にとって今日始めて目にした刀は己であったな、と目の前の短刀の質問で鬼丸は思い出した。確か、今朝の馬当番に来なかったので、自分が部屋まで起こしにいったのだ。言われてみれば、大典太の様子がおかしかったのは今朝方からだった。目が覚めてからというもの、大典太は己の横にずっと居続けるし、その傍を一向に離れようとしない。果てには、あの酒好きの刀が酒が無くとも己と一緒に居たいなどと言い出す始末だ。今も横にいる大典太の奇行は続いており、薬研の話に対して訳が分からないといった顔をしながらも、己の右手をずっと握っているし、隙を見せれば腕同士を絡めかねない勢いがあった。自分自身に対して行われる、大典太の数々の奇奇怪怪な言動を鬼丸としてはただ、どうにかして早く解決したい一心であった。
     鬼丸からの聴取をあらかた書き終えた薬研は、机から顔を上げる。そして、椅子ごと鬼丸たちの方向に向き直ると、この状況に至った事実をはっきりと伝えた。

     つまりさ。

    「大典太さんは、鬼丸さんのことを"恋刀(こいびと)"だと思っているんだ」
     
    【続くかも】
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺☺🐓🐤☺⚖⚖👏👏👏👏👏😍😍😍🐣🐓🐤💕💕🐓🐤💞💞🐣🐣🐣🐓🐤🐓🐤😍😍😍🐕🐣🐤🐓🐤🐥🐣👏💖🐓💖🐥💖💕🐣🐤🐓🐣🐣🐣😊😊😊
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works