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    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

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    かわい

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    アキデン転生オメガバパロです。

    消えない痕を残したい 1 (アキデン転生オメガバパロ)「こいつはお前のじゃない」

    その言葉には、苛烈な怒りが込められていた。声の大きさはそれほどでもなかったが、静かな殺気にも似たそれは、空気をビリビリと震わせていた。

    しかし、アキから放たれた殺気を直に受けても、吉田ヒロフミは一切の動揺を見せなかった。

    吉田は独特のミステリアスな雰囲気を漂わせたまま、薄ら笑っていた。目に落ちかかった、さらりとした黒髪に色気が満ちている。こんな男にデンジを奪われるところだったと思うと、アキの腑は煮え繰り返った。

    ――――こいつは、どんな風に、デンジを。
    俺の、デンジを。
    抱こうとしていたって、言うのか。

    アキの静かに燃えるような青い目に睨みつけられて、吉田はその視線を面白がるようなものに変え、歌うように挑発してきた。

    「おかしいですね。だって、デンジ君から誘ってきたんですよ?僕が責められる謂れはあるんでしょうか?」

    アキの瞳孔が拡がる。
    殺気を抑えながら、左手にギリリと力を込めた。男にしては細すぎる、デンジの腕を掴んでいる左手だ。

    「いてぇって!アキ!!」
    「いいから来い」

    アキの声には、有無を言わせぬ圧力があった。

    俺が、今まで何のためにずっと我慢してたと思ってる。
    誰のためにモデルなんか似合わねぇことやって、必死に働いてきたと思ってる。
    デンジ。
    他の男に奪われるくらいなら――俺が、無理やり奪ってやる。


    ――――だって、俺たちは運命の番なんだ、デンジ。

    それも、前世からの運命だ。


    アキはそのまま、黙り込んだデンジを連れ去って行った。


    ♦︎♢♦︎


    前世、アキとデンジは恋人であった。しかし二人に、身体の関係はなかった。
    恋人であった期間だって、アキが亡くなる前のたった数ヶ月間のことだ。
    あの時アキは大人で、保護者のような立場だった。デンジはまだ16歳で、教育もろくに受けていなかった。
    だから――アキは大人として、関係を持つわけにはいかなかった。

    本当は、滅茶苦茶に犯したくて仕方がなかった。
    デンジの全身に口付けて、印をつけて、自分のものだと叫びたかった。
    けれど、もうすぐ死にゆく自分が無責任にそれをすることはできないと、アキは諦観していたのだ。

    今となっては、もう遠い出来事だが。
    アキがデンジを好きだと気づいたのは、凍えるくらい寒い晩のことであった。
    だから今世でも、冷え込む夜にはこの恋の始まりを思い出す。

    その日デンジは、寒さと悪夢で震えてうなされていた。自分の部屋で眠れずに居間に出て、床で滝のような汗をかき、うなされていたのを見つけた時には驚いた。だってデンジは、永遠の悪魔に閉じ込められた時でさえ熟睡していたのだから。

    「ポチタ……ポチタ……!!」

    うずくまって震えるデンジは、小さな子供のようだった。
    その姿を見てアキは、亡くなってしまった弟のタイヨウのことを思い出した。だからなのだろう。今でも信じられないが、デンジを自分のベッドに迎え入れたのだ。「相手がお前の大嫌いな男でも、こんな夜は人と寝た方がマシだろう」と言って。
    デンジは眠たかったらしく、思いの外素直にベッドに入ってきた。そのことに、さらに驚いた。
    しかも、ベッドの端と端で寝るものと思っていたのに、彼はアキの懐に入って擦り寄ってきた。デンジの指先が雪にでも浸かったように冷え切っていて、落ち着かずうまく眠れなくなったのを覚えている。

    そして、翌朝。デンジは目覚めたアキの目の前で、へらりと笑って言ったのだ。

    「ありがとな……アキ」

    朝焼けに暁の瞳がきらめいて、それが弧を描いているのが――――とても、可愛かった。
    麦穂色の髪が枕に広がっているのも。不器用に微笑んだ口の形も。
    何もかもが、可愛かった。

    それだけでアキは、恋に落ちてしまった。

    それからというもの、凍えるような寒い晩はデンジがふらりとやってきて、一緒に眠るようになった。
    アキは仕方がないという態度を取りながらも、その晩を心待ちにしたものだ。
    どうやらデンジはアキの寝顔を観察していたようで、目覚めるといつも目の前にいて起きていた。そしてあの、へらりとした可愛い笑みを見せるのだった。

    泥沼に落ちて身じろぎもできなくなるような、不自由な恋だった。

    アキは、自分の寿命が長くないととっくに知っていた。死ぬための身辺整理をしていた時、心残りを残したくないと、ふと思いついたのだ。デンジに告白をしてしまおうと。
    自分は男で、デンジの好きな『面のいい女』じゃないことは百も承知していたので……木っ端微塵にフラれて、すっきりしようと思ったのだった。
    ――――まさかその行動が、前世最大の心残りを作る結果になるなんて、微塵も思っていなかったのである。

    アキは軽い調子で、デンジに言った。

    「俺、お前のこと好きなんだ」

    これからその気持ちを全否定されると思ったら、指先が少し震えてしまったのを覚えている。
    しかし、デンジの反応は……予測したものと、全くの逆だった。
    デンジはしばらく口を開けて呆けた後、突然耳から首までを林檎みたいに真っ赤にして、俯いた。それは、アキが初めて見る顔だった。
    そして、消え入りそうな声で言ったのだ。

    「俺も、すき……」

    わけがわからなかった。アキは動揺して、自分の瞼がピクピク震えるのを他人事のように感じていた。そして混乱状態のまま、余計なことを言った。

    「お前、マキマさんが好きなんじゃないのか」

    今思えば、人のことを全く言えない台詞だ。しかしデンジは、何でもないことのように軽く返してきた。

    「いや、俺惚れっぽいからァー……好きな人は、何人かいる」
    「どういう、ことだ……?わけが、わからない」
    「でもよォ……」

    デンジは、あのへらりとした可愛い笑顔を浮かべた。キラキラ光る暁の瞳。

    「アキは、特別なんだぜ?」

    アキは堪らなくなって、すぐさまデンジに噛み付くように口付けた。
    告白したことを後悔しても、もう遅い。後戻りなんて、できるわけがない。

    泥沼の恋は、さらに悪化の一途を辿った。

    短い恋人期間。
    アキは、デンジに何も残してやることはできなかった。

    ぬるま湯のような幸せにひと時だけ浸かって、でも完全に諦観しながら。ただ一緒に眠って、キスするのだけを繰り返した。それだけだ。

    結局、アキはただデンジの心に――酷い、大きな傷だけを残して、死んでいくことになった。


    家族になったデンジとパワーに、何もしてやれなかったこと。
    恋人になったデンジを、最悪の形で傷付けて死ぬことになったこと。

    二人の存在は――特に、デンジの存在は――結局、死にゆくアキの大きな心残りとなったのである。
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