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    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

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    かわい

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    成長する転生ア×不老不死デ。

    黄昏時のタイムラプス 5―05――05―

    今世のアキは、見る見る間に成長していった。
    子供から、少年へ。少年から、青年へ。
    徐々に、デンジの覚えている前の『アキ』へと近づいていく。
    その美しい海の瞳は輝きを失わないまま、すっと背が伸び、頬のラインがシャープになり、知性と落ち着きを醸し出すようになった。月並みな言葉で表現すれば、アキはどんどん――格好良くなっていった。

    アキはデンジのところにすっかり入り浸っていた。だからデンジは、前の『アキ』と過ごした時間よりもずっと多くの時間を、今のアキと過ごすことになった。

    ココアを飲みながら、たわいもない話をする時。
    二人で唸りながら、小さなテーブルで宿題を片付ける時。
    夕方になって門限が近づいて、アキが名残惜しそうに「またな」と手を振る時。

    どれもがデンジにとって、大切な時間だった。
    今のアキとの思い出は、どんどん積み重なっていった。

    二人で息切れするまで雪合戦をすることもあったし、キャッチボールをすることもあった。デンジはそういう遊びをするのは初めてだったから、夢中になった。

    アキの身長が伸びるたびに、柱に印をつけた。ひょいと簡単に身長を追い越された時は、悔しくて地団駄を踏んだけれど、二人で小さなケーキを食べてお祝いをした。

    デンジが怪我を負って帰ってくると、アキは目に涙を浮かべながらデンジを叱った。弱々しく胸を叩く拳は、初め丸くて小さかったのに、成長に伴って骨ばった硬いものに変わっていった。

    アキが13歳で声変わりをした頃からは特に、前世の『アキ』の面影を感じる時が増えた。デンジはそのたび、動揺するようになった。
    ふとした時の、目線の動かし方。落ち着いた低い声で紡がれる、言葉のトーン。デンジを叱る時の、眉のかたち。
    そういう面影を目撃するたび、デンジは大声で泣き出したくなる衝動を堪えねばならなかった。

    だって、デンジはずっとずっと――かつての『アキ』のことが好きだったから。
    『アキ』が亡くなってからもう15年以上経っているが、その気持ちは全然、色褪せることがなかったのだ。

    デンジは間近で成長するアキを見守るうち、自分の感情が段々と変化するのを自覚していった。家族のような親愛の情だったものが、間違いなく別の感情に変わりつつあったのだ。デンジはそれを認めたくなくて、いつもなるべく目を逸らし続けていた。
    しかし、やがて限界は訪れる。デンジにはもう、前の『アキ』と今のアキとの区別すら、ぐちゃぐちゃになってきていたのだ。だってどちらもデンジにとっては、本物の"アキ"だったのだから。

    必死に蓋を閉めた容器から感情が溢れ出す時は、ある日不意にやって来た。

    その日デンジは、ハンモックでうたた寝をして、悪夢にうなされていた。それは、最悪の夢だった。魔人になったアキを、殺す夢である。

    あの時の、アキの重み。生温い血の匂い。失われていく体温。腐っていく世界と、迫り上がる嘔気。全てが鮮明に蘇り、まるで今起こっているリアルのようにデンジを苛んだ。
    どうして辛い記憶ほど、こんなにはっきりと覚えているのだろう。
    デンジはうなされながら、涙を零していた。夢なのはわかっているのに、身体が動かない。逃げられない。苦しい。悲しい……。

    ――誰か、助けてくれよ。誰か。…………アキ。

    その瞬間。

    そっと、デンジの涙が拭われた。
    目覚める取っ掛かりを得たデンジは、ひどい悪夢から解放されて瞼を開く。
    15歳のアキが、そっと頬を撫でてくれていたのである。

    「デンジ。大丈夫か?」

    深い海の水面のような瞳はゆらめいて、柔らかに細められていた。とても、とても綺麗だった。
    その瞳を真正面から見て――――デンジは、自分がもうひとたび恋に落ちたことを悟った。

    デンジはその時改めて、今のアキを明確に好きになってしまったのだ。
    いくら後悔しても、もう遅かった。

    一方的な想いならば、まだ良かった。

    しかし、もしかするとアキもデンジに好意があるのではないかと感じることが、次第に増えていった。前の『アキ』がデンジに示してくれた好意のしるしと、時折重なるものがあったのだ。

    デンジはアキの幸せのために、早く離れなければいけないと焦った。
    だって自分みたいな『人間もどき』が、アキの人生を台無しにするわけにはいかない。自分は、身を引かなければならない。
    アキはきっと、可愛い女の子と恋愛をして、いつか結婚する。前みたいに寿命を削らず、復讐に生きず、子供だって残せるのだ。今のアキにはちゃんと、未来があった。そこに寄り添う相手に、デンジは相応しくない。

    少しでもアキのそばにいたいという願いと、アキから離れなければならないという焦りの間で、デンジは苦しんだ。
    立ち去る準備は何度もしたし、残す手紙も何度も書き直した。しかしその度に、またあの光のない、永遠に続く真っ暗な生活に戻るのだと思い、心が怯んだ。
    デンジが踏み切れず、尻込みしているうちに、とうとうアキは16歳になってしまった。

    そして、ついにその日が訪れる。

    珍しく、買い出しのため町に出たデンジは、アキが女の子といるのを見かけてしまったのだ。

    相手は小さくて、可愛らしい女の子だった。年頃のアキに似合いの、相応しい相手だった。

    その場から逃げるように駆け出しながら、デンジの心は嗚咽を上げた。

    嫌だ!
    嫌だよ、アキ。
    お前まで俺から、離れてくのかよ。

    醜い自分の心がそう叫ぶのが、嫌で嫌でたまらなかった。

    ――そろそろ、潮時だな。

    デンジはそう悟った。もうこれ以上は、絶対にアキのためにならないと。

    何かに追い立てられるように荷物を片し、家を出ていくための最後の準備をしていると、意外と早くアキがやってきた。
    あの女の子と一緒にいることよりも、自分のところに来ることを選んでくれたと、未練がましい心はまだ喜んでいたが――もう、自分は出ていかなければならない。
    ひどく動揺したデンジは、つい、余計なことを沢山口走ってしまった。その結果、アキに決定的な言葉を言わせてしまうことになる。

    「俺が好きなのはデンジだ!!俺が相応しくなりたいのはデンジだけだ!!」

    アキの告白に、デンジの心の奥底は歓喜していた。
    怒りで燃え盛る青い炎の瞳が美しくて、デンジは涙を堪えた。その怒りが苛烈である分だけ、アキの想いが本気であることが伝わってきたからだ。

    「他の人間なんて要らない!!俺は、デンジだけでいい……!!」

    嬉しい。
    嬉しい。

    アキ、俺も。
    俺も、他の人間なんて要らない。
    アキだけで、いーよ……。

    デンジには、アキのキスを拒むことができなかった。
    されるがままになって、一時だけでもそれに酔いしれた。もっともっと、いくらでも。アキに、求められたかった。
    デンジはもうそのまま、流されて負けてしまいそうだった。
    だってデンジはもともと、アキみたいに意思が強い人間じゃない。

    けれどアキが、見たことがないほど昏く笑っているのを見て――デンジはなんとか、踏みとどまった。

    「…………駄目だ。止めろよ、アキ」

    デンジは自分に言い聞かせるように、静かな声で拒絶した。

    アキ。
    アキ。

    大好きだ。
    大好きなんだ。
    もっと、もっと、触れて欲しかった。

    心はそう叫びながら、血を吐いている。
    それでもデンジは、身を削りながら踏みとどまった。

    「なんで。デンジ…………好きなんだ、こんなに…………」

    アキの声が、絶望に染まっていく。
    本当はデンジだって、好きだと叫んで抱きつきたかった。

    俺も。
    俺も、好きだ。
    ずっと、ずっと、アキだけが。

    「デンジが……俺の前世の『アキ』を好きなのは、わかってるよ…………。なあ。俺じゃ、駄目なのか…………?」

    駄目なわけあるか。
    アキは、アキだ。
    今のアキのことが、俺はこんなに好きなんだ。

    全身が悲しみで戦慄くのを堪えながら、デンジは小さく笑ってみせた。これでも年長者だ。最後の意地だった。


    ――あのな、アキ。

    好きだから。
    こんなに、好きだからさ。

    ――さよならだ。


    「アキはさあ、これからきっと、楽しいことが沢山あるぜぇ。かわい〜彼女作ってさあ、結婚してさあ……子供、作ってさあ。いつか俺にその子供、抱かせてくれよ」

    デンジの言葉はそのまま鋭い刃となって、デンジ自身のことをもズタズタに切り裂いた。もうこれ以上は、耐えられない。この場に留まることは、ひと時もできないと思った。だから、ひどく傷ついて泣き続けるアキを置いて、デンジはすぐに立ち去ることにした。

    ――やっと。
    やっとだ。
    時間かかって、ごめんな。

    「俺んことは嫌ってくれていーぜ。今まで…………あんがとな」

    デンジは崖から飛び降りるように、ふらりとその場を立ち去った。
    立ち去る側の痛みを知ったのは、それが初めてのことだった。


    そうしてもう二度と、思い出の詰まった小さな家に帰ることはなかった。

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