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    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

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    かわい

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    アキデン連載。2話目。
    タイムスリップしたアがショタデを幸せにして、ショタデが寿命のアを看取る話。二人の出会いと別れと再会。ハピエン。
    ※n番煎じです。

    テセウスの船が行き着く先は 2「早川アキだ。デンジ、お前の…………遠縁、だ」
    「とおえん?」
    「遠い、親戚。迎えに来るのが遅くなって、ごめんな」

    熱から回復したデンジに、謎の男はそう名乗った。
    高身長だけれど、威圧感はなかった。精悍な顔つきに、知性的な青い瞳が揺らめいてるのが印象的だった。
    デンジが今まで接していた大人達と、種類が違う。だからデンジは、どんな風にこの男に接したら良いのかわからなかった。

    朦朧としていた間の記憶はあまりないが、優しく看病してもらったことだけは覚えている。
    何度も汗を拭ってくれたタオルの感触。熱を測るために撫でられた額の感触。氷が溶ける前に何度も変えられた、冷たい枕の感触。
    そういうものを覚えているから、デンジは目の前の知らない男への対応に迷った。
    とにかくデンジは今まで、誰かに優しくしてもらったことなんてほとんどなかったから、びっくりしてしまったのだ。

    ――あんなにあったかくて、安心すんの、初めてだった。

    「何で……俺に、こんなことしてくれんの?」
    「お前に縁があるから。できれば家に迎えて、一緒に暮らしたい。ポチタも勿論一緒だ。だが、無理にとは言わない」

    ――そんな、うまい話があるかよ。

    デンジは毛を逆立てる野良猫のように、警戒を強めた。下にいるポチタは男の横で心配そうにデンジを見つめている。すっかり懐いたようで、警戒心の強いポチタらしくない。それにもまた、デンジは腹が立った。

    「それで?俺は何をすればいいわけ?」
    「何を……?」
    「見返り。いるだろ。金か?身体か?」
    「……!」

    男の青い瞳は、途端に深く傷ついた色を宿した。その変わりように、デンジの方が驚いてしまう。
    アキと名乗った男は、そっとデンジの両肩に手を置いて、ゆっくり言い聞かせるように言った。

    「デンジ。お前は見返りなんて払う必要はない。お前はまだ子どもだ。それに……俺は、お前にただ、幸せに生きて欲しいと思ってる」
    「……!?」

    デンジはたじろいだ。
    幸せに生きて欲しい?
    それで目の前の男に、一体何の得があると言うのだろう。

    「は……それで、お兄さんに何の得があんの?」
    「得は……そうだな。そしたら、俺は幸せになるから」

    そうして細められた青い目には、優しさしかなかったので、デンジは更に困惑してしまった。

    変な奴。
    変な奴すぎる。
    でも……嫌な感じは、しねえ。

    「……わかった。タダ飯くれるってんなら、ここにいてやってもいい」
    「!そうか」
    「でも、少しでも信用できねーと思ったら、出ていくかんな!!」
    「それで良い。ちゃんと警戒して、偉いな」

    男はデンジの頭にふわっと手を置いた。親指だけ動かして、前髪を掻き分けるようにして額を撫でる。

    ――くすぐってえ。ほわほわする。何だよ、これ……。

    戸惑うことばかりで、わけがわからない。デンジは男の手を、ぱしっと振り払うことしかできなかった。

    このように、怪しい男に一生懸命毛を逆立てていたデンジではあるが。
    数分後、アキの作った卵味噌つきの粥が美味しすぎて、少年はあっさりと陥落した。幼いデンジは、それはそれはチョロかったのである。


    ♦︎♢♦︎


    数ヶ月後。
    アキとデンジとポチタは、マンションの一室に暮らしていた。
    デンジはなんと、小学校に通うようになっていた。
    帰り道は一目散に家に駆け込む。

    「ただいま〰︎!」
    「おかえり、デンジ」

    夕食の準備をしていたアキがこちらにやってきた。今日は帰りが早かったらしい。アキがその大きな腕を広げたら、いつもの合図だ。

    「おいで」

    デンジはアキの胸に、勢いよく飛び込んだ。びくともしない太い首に、縋り付くように抱き着く。そうするとアキは、デンジの細くて小さな身体を包み込むように抱きしめるのだ。デンジはその瞬間が、何よりも大好きだった。

    デンジは生まれて初めて、溢れかえるほどの幸福に包まれていた。
    明日食べるものや寝る場所の心配をしなくて良い。手作りの温かいご飯が三食出てくるし、夜は凍えずに柔らかな布団で眠ることができる。しかも着るものにも困らず、学校にまで通っている。以前からすると信じられないような生活だ。
    でも、デンジがこんなに幸せなのには、別の理由があった。

    デンジが幸せなのは、アキが抱きしめてくれるからだった。
    「おいで」と言って迎えてくれる大きな身体。思い切り縋りついても、びくともしない力強い腕。温かくて良い匂いのする、一番安心できる場所。

    デンジが幸せなのは、アキが頭を撫でてくれるからだった。
    包み込むように置かれる優しい手。前髪を掻き分けて額を撫でる、くすぐったい親指。撫でながら細められる、世界一綺麗な青い瞳。

    デンジが幸せなのは、アキがデンジを愛してくれるからだった。

    まるで初めからこんなに幸せな生活をしていたみたいに――デンジはすっかり、アキとの生活に馴染んでしまったのである。

    アキは日中、凄腕のデビルハンターとして活躍している。厄介な悪魔の情報が、アキの元に自然と集まってくるほどなのだ。強くて格好良いアキに、デンジはいつも尊敬の念を抱いていた。
    なお、能力が高すぎて公安からもスカウトが来たようだが、アキはすげなく断った。理由を聞いたら、「お前と一緒にいる時間がとれなくなるだろ」と言われて、デンジは嬉しくてはにかんでしまった。
    アキは毎日遅くならないうちに帰ってきて、エプロンをつけて夕飯の支度をする。今日のように、デンジより先に帰っている日もあった。
    アキが夕飯を準備する横で、デンジはちゃぶ台で学校の宿題をやる。わからないところが多くて初めはついていけなかったが、アキに根気よく教えられるうちに、理解できる部分が増えてきた。デンジはこの時間が、とても楽しかった。ポチタは宿題をするデンジの膝の上に座って、いつも嬉しそうにそれを眺めていた。
    美味しい夕飯を食べたら、デンジとポチタが先にお風呂に入る。デンジが上がると、アキはいつもバスタオルを持って準備していて、デンジの髪をわしゃわしゃと拭くのだ。これも、デンジの楽しいことのうちの一つだった。大きな手で撫でながらドライヤーをかけてもらうと眠気が襲ってきて、いつもうつらうつらとしてしまうのだ。
    アキがお風呂から上がったら、寝る前には必ず絵本を読んでもらう。「色んな話を知っておくのは良いことだし、文字の勉強にもなるだろ」とアキは言っていたが、デンジは単純にアキの声で物語を聞くのが好きだった。アキがベッドに座って、デンジとポチタは両脇からそれを覗き込み、ドキドキしたりワクワクしたりするのである。
    そして夜になると、二人と一匹は毎日一緒に眠った。デンジがポチタを抱き締めたその上から、アキがポチタごとデンジを包み込む。こうして眠れば、凍える日なんて一日もない。何の心配事もなく安心して眠って、気がつけばすぐに朝がやってくるのだった。


    ある晩、デンジはアキに抱き締められながら、彼に話しかけた。今までずっと言いたくて、でもうまく言えなかった言葉を伝えようと思ったのだ。

    「アキ、俺なぁ、俺な……すげ〰︎幸せだよ」
    「そうか。何か、困ってることはないか?」
    「ねぇよ!それでな、アキ。あのな。俺…………アキが、大好き……」
    「……!」

    アキはその海みたいな青い目を見開いて固まった後、それを柔らかく細めて答えた。

    「ありがとう。おれも、デンジが大好きだよ……」

    彼の低い声は幸せそうだったけれど、まるで泣くのを堪えるみたいな色を宿していた。

    どうして、アキは少し辛そうなのかな。
    考えても、デンジには何もわからない。
    だけれど大好きだと返されて、小さなデンジの心は喜びに包まれていた。そのまま、幸せでふわふわとしながら言う。

    「アキ、大好き。ずっと一緒にいて…………」

    ぎゅう、と強く抱き締められる。こうされると、心の底からほっとする。
    そうしてアキの返事を聞く間もないまま、デンジは眠りの世界に落ちていった。


    デンジにとっての幸せは、アキのかたちをしていた。

    幸せは一年続いても変わることなく、デンジはすっかり安心しきって、子供らしい日々を送るようになっていた。


    底なしの幸福は、ある秋の日まで続いた。
    まるで楽しい夢の終わりのように、アキの身体に異変が起こる――――その日まで。
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