儚さは、僕だけが知っている「あのさ」
穏やかな沈黙を割いて彼が放ったのは、明らかなる語り始めの文句であった。
「うん、」
ゆったりと微笑んで彼の瞳に視線を移し、その緊張した口が想いをきちんと伝えられることを祈る。
彼は目が合うと一瞬、困ったように瞳を左右に泳がせた。
そうして3秒すると、決意を固めた彼と視線がまた絡まった。
「桜を見に行かないか」
唇の端から笑みが溢れる。
なんて、なんて愛しい提案だろう。
「もちろん、いいよ」
にっこりと笑ってそう告げると、ほっとしたような息をして撫で肩に戻った彼は今度こそいつも通り意気揚々とした様子で僕の手を引いた。
「行こう!家の裏の公園の桜が、今ちょうど満開なんだ!」
その変わりっぷりを可笑しく思って笑いながらも、ひかれるがままに体を動かす。
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