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    スラム街で何でも屋してる子鰐鷹バースのss

    きみの話 太陽を背に、ミホークは飛んだ。風でひるがえる黒のシャツがまるで翼のように広がって、ミホークのまっしろな肌によく似合っていた。これが本物の翼ならきっと雲の上まで優雅に雄々しく飛び上がるのだろうが、残念ながらミホークは人間で、目指すのは地上だ。
     ドスン。重たい衝撃音がひとつ。悲鳴のひとつも聞こえない。どうやら上手くいったらしい。おれは屋上から下を覗き、陽の射さない路地裏を見下ろす。雑然として薄暗いその場所は鮮明には目視できないが、ミホークの姿だけはハッキリと見て取れた。

    「終わったぞクロコダイル。降りてきてくれ」

     まだ声変わりの済んでないボーイソプラノがおれを呼ぶ。足元に転がる肉塊に乗っかって、小さな体で背伸びしている。

    「今行く。そいつ、いくら持ってた」
    「札が二枚と、金貨が四枚」
    「金貨と札を一枚ずつ抜いとけ。あとはそのままだ」

     金をすべて抜いたら誰かに怪しまれる。ほどほどに貰っておくのが得策だ。屋上から垂らしておいたロープを伝い、ミホークのそばへと降りる。おつかれ、と声を掛ければ、いつも通りのへの字口が少しだけ緩んだ。

    「腹減ったし、何か食うか。報告はその後でも大丈夫だろ」
    「……オムライス」
    「おー、いいぜ。表の通りに普通のレストランがあったな……」
    「クロコダイル」
    「ん、」

     先を行こうと背を向ければ、ミホークからぎゅっと手を掴まれ、足を止める。振り返り首をかしげれば、大きな瞳がおれを上目遣いに見た。こんな暗がりだろうとキラキラと光る、綺麗な目だ。

    「表は人が多いから。はぐれたら困る」
    「…そうだな」

     まだ幼さの残る手を握り返せば、またキラリと瞳が輝いて見えた。太陽のようにも、満月のようにも、宝石のようにも見える、金色の瞳。今はつるりとしたまん丸の黄身を連想させて、なんだかほんのちょっぴりおかしくなった。ミホークとわずかに目を合わせていれば、お互いの腹からきゅううと空腹の音が鳴った。思わず、ふたりして吹き出してしまった。

    「ク…、ハハハハッ。よし、早く飯にするか」
    「…うん」

     ミホークはおれの手を握り返し、こくりとうなずく。血なまぐさいこの場には似つかわしくない無垢な横顔に、やっぱり少し、愉快な気持ちになった。
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