きみの話 太陽を背に、ミホークは飛んだ。風でひるがえる黒のシャツがまるで翼のように広がって、ミホークのまっしろな肌によく似合っていた。これが本物の翼ならきっと雲の上まで優雅に雄々しく飛び上がるのだろうが、残念ながらミホークは人間で、目指すのは地上だ。
ドスン。重たい衝撃音がひとつ。悲鳴のひとつも聞こえない。どうやら上手くいったらしい。おれは屋上から下を覗き、陽の射さない路地裏を見下ろす。雑然として薄暗いその場所は鮮明には目視できないが、ミホークの姿だけはハッキリと見て取れた。
「終わったぞクロコダイル。降りてきてくれ」
まだ声変わりの済んでないボーイソプラノがおれを呼ぶ。足元に転がる肉塊に乗っかって、小さな体で背伸びしている。
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