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    序盤がR-15くらい?
    相変わらず兄様の出番が少なくてすまない…

    玲紗で一紗誕最近、一紗がよく歌っている。
    シチュエーション的には、所謂事後の、ベッドの上で。
    玲司の知らない曲ではあったが、いつも同じメロディーを聞かされるうちに、自然と覚えた。

    「それ、何? 洋楽とか?」
    「……なんでも良いだろ」

    一度だけ訊いてみたら、そっけない返事とともに背中を向けられてしまった。
    少しの沈黙のあとに聞こえてきたのは、すっかりお馴染みとなった旋律だ。
    機嫌が悪ければこうはいかないはずだと、玲司は考えを巡らせた。これは熱情がもたらす体の飢え、心の渇きを満たしてやれた証なのだと思うと、いっそう愛おしく聞こえるようになった。

    ***

    「……で、聞きたいことってなんだよ」

    SolidSの大が向かいに掛けた。
    出された紅茶と引き換えにするかのように、玲司はケーキの箱を差し出しながら言った。

    「俺が耳コピした曲があるから、知ってたら教えてほしいんだ。知らなかったら、どういうジャンルか考えてくれ。この通りだから」
    「……この店、都内には郊外に一軒しかねーとこか。そこから持ってきたのか? しかも初夏の新作で、すぐ売り切れるメロンケーキ。玲司が本気なのは解った」
    「話が早くて助かる」
    「でもなんで俺だったんだ? 俺よりもっと気軽に訊ける、マニアックな曲知ってそうなヤツなんて他にもいるだろ。それこそ玲司が付き合ってる一紗、とか」
    「その一紗が教えてくれなかった曲を知りてーなって」
    「あー」

    ケーキをつつく手を止め、大が気付きたくなかったとでも言いたげに頭をかいた。
    玲司が畳み掛ける。

    「プラス、口が固そうなヤツってなるともうお前にしか頼めねーんだよ」
    「解った、もう食い……終わってるな。その曲って?」

    早速玲司が歌ってみせると、大の表情がたちどころに凍りついた。

    「……ちなみにそれ、どう聴いたんだ? 部屋でよく流してるとか、動画見てたとか……まさか実際に歌ってたわけじゃねーよな?」
    「えーっと、ベッドで機嫌良さげに歌っ「あーーー理解した把握したみなまで言わなくていい、訊いた俺が悪かった」
    「て、ことはなんの曲かは判ったってことか」
    「……今メッセでリンク送るから、それ開いて確認してくれ」

    言われた通りにすると、ページにはフランス語と日本語の対訳が書かれていた。
    日本語訳の内容に目を白黒させている玲司に、大がため息交じりに言った。

    「シャンソンの《喜びに涙して》。確かに、俺に訊いた玲司は正しかった。他のヤツだったら、どんだけ冷やかされたか……」
    「……こんな意味の歌詞だったなんて知らなかった。俺、愛されてる?」
    「そんな自信満々に聞かれてもな……。まあ実際、そうじゃないヤツの前でこれ歌おうなんて思わねーだろ」
    「いやあ照れるな……、にしても、ピンポイントでよく知ってたな」
    「『身内』に縁のあるヤツがいるからな。……直接は関係ねーけど」
    「あー……」
    「これ、他のヤツには言うなよ」
    「わあってるって。……てかこれの音源って……、レコードもあんのか」
    「もしかして、誕生日プレゼント?」
    「候補には考えてた」
    「あのなあ……、教えてやらなかったってことは、知られたくなかったってことじゃねーのか」
    「一紗だったら、そういうときにわざわざ俺の目の前で歌ったりしねーって」
    「……玲司がそう言うなら止めねーけど。ああちなみに、状態が良いレコード買いたかったら古書店のサイトで調べた方が良い。写真ねーことも多いけどな」
    「マジで助かった、サンキューな、大」

    ***

    待ち侘びた七月二十三日、玲司はVAZZYのコミュニケーションルームで開かれていた一紗の誕生日会のタイミングに合わせ、彼の部屋に合鍵を使って入った。

    しばらく待っていたら、鍵の回る音がした。

    「おかえり、一紗。誕生日おめでとうな」
    「……いると思った。で、玲司は何がプレゼントなんだよ」
    「気が早いな。……これだ」
    「薄くてデカい正方形。レコードか?」
    「正解。開けてみ?」
    「ハッ、アレか。よく調べたな」
    「隠されたら知りたくなるのが、ニンゲンってもんだろー。一紗の愛に俺も応えられるように、また一年、よろしくな」
    「ああ……で」
    「ん?」
    「どうやったら聴けるんだ、これ。ここにレコードの再生機器がないことくらい、お前なら当然、知ってるだろ」
    「……、来年のプレゼントに決めてあるんだ」
    「言ってろ」

    一紗は小さく笑いながらレコードをテーブルの上に置き、指先を玲司の頸の後ろで組んだ。

    ──こいつには、愛のメロディーを閉じ込めたままで、一年の時を過ごしてもらおう。

    少しだけ視線をテーブルの方に遣り、玲司は向かい合う腰を抱き寄せた。
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