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    SSで一紗が見た夢とその後の話。玲紗要素有。

    #玲紗

    悪夢は人に話すと良いらしい ステージの上で、眩いライトに照らされながら歌う。
     最後の曲はVAZZROCK唯一の十二人曲だった。練習はみっちりしたから、フォーメーション移動も完璧だった。
     途中で一紗は玲司と、二葉は歩と背中合わせで歌うことになっている。本番での立ち位置は、せり出して造られたステージの上だった。
     一紗はステージの内側を向くことになっていた。視線の先に二葉がいて、頼もしくなった背中を見守りながら歌っていた。
     しかし突然二葉と歩の立つステージが崩れ、二人とも下に放り出された。
     音楽はまだ鳴り止まない。

    「二葉!」

     絶叫しながら駆け出そうとしたら、玲司に羽交い締めにされた。振り解こうとして脛を蹴ったが、びくともしなかった。
     二葉、二葉。止まることのない爆音にかき消されながら叫び続けた。



     気が付くと辺りは暗闇だった。一紗はここが自分のベッドの上で、今まで夢を見ていたのだと悟った。
     本当に叫んでいたらしく、喉がひりつく。記憶が曖昧だが、自らの声が聞こえて目を覚ました気もした。
     時刻を確かめる。起床には程遠い時間だったが、もう一度眠る気にはなれなかった。

     キッチンで水を飲んだら、無性に床にしゃがみ込みたくなった。なんとなしに薄暗い中を見渡すと、玉ねぎと目が合う。
     電気を点けて、まな板と包丁を取り出した。白い塊を無心で切り刻んでいても、いつもなら少しは目が痛くなるはずなのに、気にならなかった。
     それを炒めているうちになんとなくレシピが浮かんだので、キャベツを出して何枚か剥いた。
     冷凍するつもりで少し多めに買っていた挽肉を、チルド室から出して捏ねた。半分は取り分け、もう半分に玉ねぎを入れて手のひらのベタつきも構うことなく混ぜていたら、夢の中でマイクを切っていなかったなと思い至った。
     耐熱容器に挽肉とラザニア生地を交互に敷いていき、レンジをオーブンモードにして入れた。
     玉ねぎを混ぜた方の挽肉をキャベツに包んで、ついでにベーコンも巻いて鍋で煮た。
     余ったキャベツやらベーコンやらを別の鍋に放り込んで、ついでに冷凍しっぱなしにしていた野菜も取り出して入れた。
     頭の中で手順をなぞりながら作業し続けていると、波打つような気分の動きが幾分か凪いだものになっていった。
     付け合わせのサラダを作っているうち二葉が入ってきて、誰もが起き出すような時間になったことを知った。いつものように掃除だのなんだのと世話を焼きに来たに違いなかった。
     にこやかにしている弟を見て、内心だけで胸を撫で下ろした。二葉はできたものを食べるつもりでいるらしい。ヤな夢でも見たかと図星を突かれ、無駄口叩くなら食わせないなどと軽口で誤魔化した。
     せっかく兄さんが起きているなら、と二葉は寝室に入っていってすぐにレースカーテンを抱えて戻ってきて、バスルームに向かった。

     煮込み料理たちに火が通るのを待つ間、何人かにメッセージを送った。まばらに返信が来てそれらに返しているとタイマーが鳴り、火を止める時間であることを知らせた。

     味見をしていると、二葉が戻ってきた。

    「あ、できた? にしてもすごい量だね。仕事の日にお弁当……ってわけにもいかなさそうだし、二、三日で食べ切れるかな? これからは食中毒にも気を付けないといけない時期だし……」
    「心配すんな。今夜、玲司と悠人が来る」
    「ちょうど空いてたんだ、良かったね兄さん。あ、でも二人ともちゃんと何か持ってくるタイプだよね」
    「俺もあいつらがぜってーになんか持ってくると思ったから、寄越すなら日持ちするものにしろって言っておいた」
    「さすが兄さん。俺は夜仕事だから、悠人くんと玲司さんによろしく伝えておいてね」

       ***

    「好きなだけ食え」
    「いただきます」

     悠人が手を合わせて、神社にでも来ているのではと思えるほどに深々と頭を下げた。

    「俺もありがたく頂戴するわ……うっま」

     玲司は笑いながらロールキャベツを一口で平らげるなり、目を輝かせた。



     流石の二人でも食べ切れなかった分を保存容器に移したので、トマト色がこびりついた鍋だのべたついた耐熱容器だのを玲司が洗うことになった。悠人は少し前に帰している。

    「気が向いたときは作るつっても、作りすぎだろ。なんかあった……な」

     一紗が玲司の足元に座ってスマホを見ていると、上から声が降ってきた。

    「……夢で」
    「あっ悪ィ、そこからだと水の音で聞こえなかった」

     渋々立ち上がり、広い背中にもたれた。温かい。
     少しだけ顔を横に向けて、言った。

    「夢、見た。ライブ中にステージが崩れた」
    「……んな夢見たら、凹んで当然だっての」
    「二葉と歩がそこにいて、落ちた」
    「…………」
    「俺は二葉を助けることしか頭になかった。緊急時に人の本性が出るって言うだろ。別に博愛主義なんて気取っちゃいねーけど、さすがにひでえなって」
    「俺は?」
    「……えっ」
    「俺、そばに居なかったのか」
    「……崩れたところに駆け寄ろうとしたら、お前に捕まった」
    「良かった。夢の中の俺、ちゃんと一紗のこと守ったんだな」

     全部洗い終わったらしい玲司が振り返った。

    「大丈夫だって、一紗はひどくない」

     柔らかな声音とともに、抱きしめられた。急いで手を拭いたせいなのか、腰のあたりが少し湿っぽくなっていくのがシャツ越しでもわかる。

    「何かあったら……、ねーのが一番だけど……。一紗の分も俺が歩の心配するから、一紗は俺たち全員分、二葉の心配すれば良い」
    「……そ」

     今夜はよく眠れそうな気がした。



    了.
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