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    一紗誕生日おめでとう!!!!!
    ※公式で兄様がピアスを空けた話が既出だったら矛盾するかもしれない
    ※すまん……すけあのSSに出てきたピアスの話をだいぶ引きずっている……

    #築一紗生誕祭2023(玲紗) 一紗がVAZZYのコミュニケーションルームの扉を開けたとき、テレビ画面の前にはすでにふたつの人影があった。
     直助と、QUELLの久我壱流だった。二人ともコントローラーを握っている。
     先に壱流が振り返った。

    「おー一紗、邪魔してるぞ」
    「おう」
    「わー壱流、玉ねぎ四個は入れすぎだって!」
    「うわあああやっちまった!」

     二人は慌てて画面の中に映し出されている鍋の中のバランスを修正しようとしたが、それほど経たないうちにゲームオーバーを知らせる音が鳴り響いた。直助が壱流の肩を叩いて立ち上がると冷蔵庫に向かい、三人分のジュースを注ぎながら言った。

    「なんで一紗はさー」
    「一紗“サン”」
    「おお! ほんとに言うんだ!」

     すぐに壱流が目を輝かせた。

    「……やりづれえ」
    「俺と壱流、同い年じゃん。なんで壱流には呼び捨てにさせてんだよー」
    「歳下でも芸歴的には先輩なんだし、当然だろ」

     こともなげに言い返すや否や、着信音らしき音が鳴った。一紗には身に覚えがなかった。

    「わあっ高月さんだ!」

     直助が慌てふためきながら廊下へと駆け出していった。
     閉められたドアを眺めていると、壱流からの視線を感じた。

    「なー、一紗」
    「なんだよ」
    「一紗ってピアス、どう開けたんだよ」
    「いきなりどうって言われてもな」
    「自分で開けたのか? それとも……、誰かに、開けてもらったのか?」
    「……自分で開けた」
    「全部?」
    「全部。他人に触られんの、好きじゃねーんだよ」

     正確には過去形だが、それは壱流には秘密の話だ。

    「……そっか」

     ややあってから、壱流がまた訊いた。

    「孝明は?」
    「他人のピアス事情なんて興味ねーよ。知りたかったら自分で訊け」
    「そっか」
    「何そんなに気にしてんだよ」
    「うーん」
    「もし開けたいってことなら、やめとけとしか言わねーからな」
    「……おう」

     結局壱流は、最後まで問いかけた理由を明かさなかった。



     七月二十三日の午前零時から始まった誕生日会が解散した深夜、一紗はひっそりとひとつ上のフロアへと続く階段を上がっていた。
     手の中に隠してあった鍵を回して部屋の中に入る。リビングのソファに座っていた玲司が勢いよく立ち上がって出迎えた。

    「ぜってー来るって思ってた。おめでとう、一紗」
    「ん」

     一紗は渡された小さな紙袋を受け取りながら短く答えた。

    「開けてみ」

     促されて紙袋の口を留めていたテープを破ると、中には小箱が入っていた。遂に玲司も血迷ったのかと苦い顔になりながら開けると、現れたのがフープタイプのピアスだったために拍子抜けしたことが腹立たしかった。

    「この前二葉がお前へのプレゼントに選んでた服にも合いそうだなって」

     何も知らない玲司の言葉を受けながらピアスを手に取る。フープの本体は他の同タイプのデザインのものよりは太さがあり、全体にカットがかけられていて部屋の中の光を乱反射していた。

    「ありきたりかもしれねーけど……。でも、いつでも一紗といられるものが良かったんだ」
    「……ありがとな」
    「やけに素直じゃん」
    「なぁ玲司」
    「ん?」
    「もし俺がホール増やすからお前が開けろって言ったら、どう思うんだよ」
    「えっ⁉︎」
    「なんだよそのリアクション」
    「仮定の話だとしても、嬉しいなって」
    「やっぱそうなるのか……」
    「いきなりどうしたんだよ」
    「壱流に言われた。全部自分で開けたのかって」
    「あー……」
    「お前なんか知ってんのか?」
    「まあ……心当たりが……若干…………」
    「そ。要するに柊羽の話で、お前は孝明あたりから聞いてたってわけか」
    「一紗の察しが良すぎて怖ぇよ」
    「大体読めた。俺は……、そういうの、わからねーよ」
    「そ、か……」
    「目に見える証なんかなくたって充分お前は…………、……チッ。やっぱなんでもねえ。おい玲司、これ今着けろ」

     一紗は手の中のピアスを差し出した。

    「……良いのか?」
    「特別だ、せいぜい尽くせ」
    「はいはい」

     玲司は自分が開けていないにしては手早くひとつ外すのも消毒も済ませ、ポストを一紗の耳朶に通してキャッチを嵌めた。
     一紗は渡された鏡の中を見た。新しいピアスは今までずっと使ってきたアイテムかのように、一紗の佇まいに馴染んでいた。それでいて、なにか特別な主張をしているようにも見える。
     まるで玲司みたいだと思ったが、一紗がそれを口にすることはなかった。



    了.
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