Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    スズ🍠

    @Clanker208

    水都百景録の一部だけ(🔥🐟🍠⛪🍶🍖🐿🔔🐉🕯)
    twitterにupした作品以外に落書きラフ進捗過程など。
    たまにカプ物描きますがワンクッション有。合わなかったらそっとしといてね。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍠 🌟 📏 ⛪
    POIPOI 126

    スズ🍠

    ☆quiet follow

    漫画シナリオ沢山書いたけど描き起こす気力がもうなさそうだから、シナリオだけ置いておきます。

    一番楽しかった時の遺産です

    「La porta aperta」(徐光啓・利瑪竇) 登場人物

    ・いつもの二人
    ・アレッサンドロ・ヴァリニャーノ(范礼安)
     イエズス会の巡察師。東アジア伝道業務の監督官でリッチの上司。

    ======

    万暦三十二年(1604)、京師順天府、天主堂。
    チーンと音を立てる自鳴鐘。そわそわしてるリッチ。一方、街を駆けるカット。天主堂に入ってきた徐、進士の額を掲げて得意げに笑む。

    後日。
    「配属は決まりマシタか?」
    「残念ながら、中央勤務からは外れたよ。当面は地方官を歴任して、昇進を目指すしかないな。それか、試験を受けて翰林院に入る手もあるけど……」
    「ハンリンユエン?」
    「詔勅の起草や史書の編纂をする、朝廷付属の研究所だよ。翰林学士ってのは、なんというか……皇帝の秘書みたいなものだな」
    「誰でもなれるのデスカ?」
    「進士で、かつ試験に受かればな」
    「徐サン」
    リッチ、身を乗り出す。
    「翰林院(ハンリンユエン)の試験、受へマショウ!」
    「なっ……」
    「嫌だ嫌だ絶対に嫌だ!あんな腐れ儒者ばっかりの所に行っても鬱憤が溜まるだけだ!大体あいつら、科学も数学も何の役にも立たないとか言って馬鹿にしてくるんだぞ!」
    「デモ、北京(ここ)にいられるデショ?」

    「アナタがここにイテくれると、とても助かるし嬉しいデスヨ」
    「いくら皇帝に居住の許可をもらったトハイエ、宣教師(われわれ)の立場はトテモ不安定デス。そもそも外国人というだけで警戒されてしまいマスし、何が引き金になって、迫害を受けるか分かりマセン。そういう時に頼れる人がいてくれるととても心強い」
    「アト金欠な時トカ、お金がない時トカ、食費が足りない時トカ、お金を貸してもらえるととても助カル……」
    「友達を増やせ!」

    「それにホラ、研究も出来る!」
    (地図、本、機械を写す)
    「……」
    「べつに、地方官でも研究はできる」
    「……それは残念デス」
    寂しそうなリッチ。悪いことしたかなという顔の徐。リッチ、ごそごそ袋を探る。
    「徐サン、これはなんデショウ?」
    「‥‥!それは」
    「ソウ、アナタの大好きな『幾何学原論(エレメントルム)』デスネ」
    「アナタが北京(ペキーノ)に来た時に備えて大事に取っておいたのデスガ……」
    「地方官になるって言うなら仕方ありマゼン。誰かにあげてしまっテモいいし、もしかしたら無くしちゃったりうっかり焼いちゃうかもしれマセンね。ワタシですか?別に全く困りマセン。全部、頭の中ニ入ってマスから」
    「なっ……」
    徐、ショックのあまり立ち上がる。
    「この外道神父!今すぐ『幾何学原論』からその手を放せ!!」
    「教皇の布教命令には絶対服従。目的のためなら手段を選ばない。それが耶蘇會(イエズス会)という組織なのデス」
    「最低だな!」
    (奪おうとするが身長差で届かない)
    「この」
    「くそっ」
    「西洋人デカい」
    徐、力尽きる。

    「わかった、受けるよ!受ければいいんだろ!でも全部君のせいだからな!」
    「構いマセンよ。事実ですし、その方が楽デショウ」
    徐、天主堂を出て北京の街を行く。
    「まったくなんだよもう最悪だ!あんな奴だとは思わなかったよ!」
    「せめて拉丁文(ラテンご)が読めれば、あんな奴に頼らないでも……」
    「……」
    「そうだ」
    「こんな簡単なこと、どうして今まで思いつかなかったんだ」

    数日後。翰林院の試験後。

    「試験はいかがデシタ?」
    「受かったよ。まあ、当然だな」
    「君のせいだぞ」
    「そうデスネ」   
    「おかげでこれから毎日毎日、僕は化石みたいな爺どもと顔つき合わせて史書編纂の憂き目だ」
    「だから、君には責任を取ってもらう。一つ頼みを聞いてもらうぞ」
    「お金ならありマセン」
    「知ってるよ!」
    溜め。
    「『幾何学原論』を漢訳したい」
    「!」
    「当然、力を貸してくれるな?」
    呆然としているリッチ。回想入る。

    ====

    「またその話か。もう三度目になるだろう?」
    キャプション:
    イエズス会 東アジア教区巡察師 アレッサンドロ・ヴァリニャーノ

    「何度でも申し上げます。どうか、幾何学原論(エレメントルム)の翻訳を、わがイエズス会の正式な事業としてお認めください」
    ヴァリニャーノ、ため息。
    「しかし君は、何故そうまでして、この本にこだわるのだ」
    「――論理的思考力(ペンシェーロ・ロジコ)」

    「中国(チーナ)の膨大で深遠な知の大系において、それだけが欠けているのです」

    「彼らはすぐれた知性と向上心を持っています。しかし事象の表面のみを見て、事由を考えることをしません。そしてその視野の狭さは、我らの教えを理解する妨げにもなっている」
    「つまり、チーナ伝道を効果的に進めるには、彼らの思考法から改める必要があるということか。……確かに、主張は理解できる。だが、問題は実現の可能性だ」

    「幾何学原論の内容は難解で、異教徒に理解できるとも思えん。それに君は、方針として知識人(レッテラート)への伝道を重視している。彼らはただ学を好むだけでなく、修辞を貴ぶのだろう。彼らが読むに値するような訳文を、我々が仕上げられるとも思えない」
    「……確かに、お言葉の通りです。『士大夫(レッテラート)』の文章表現はきわめて簡潔にして優雅。私ですら、それを習得するのは至難の業です」
    「ですが……もし」
    「もし、それが可能な協力者がいれば」
    「……」

    「パードレ・リッチ。自分でもわかっているのではないかな。それはイエズス会(われわれ)が出来ることの範疇を超えている」
    「…………はい(スィ)」
    「申し訳ないが、我々が支援できることはない」

    リッチ、ため息をつく。手元の幾何学原論を見つめる。
    「……やはり、私一人の力では無理だ。もう諦めるしかないんだろうか」
    「……主よ 貴方は私に、かくも厳しい試練をお与えになる」

    ===

    「……返事をする前に、ひとつ聞かせてクダサイ」
    「アナタは」
    「何故、ソウ思ったのデスカ?」
    「決まってる。これ以上、君にいいように使われるのはごめんだからな」

    「だけど、それだけじゃない」
    「……数学自体は、中華にもある。だがここ数年の衰退はひどくて、たとえば技術の改良をしたいと思っても使い物にならないんだ。それになにより、この本を読んで、中華には決定的に足りないものがあると感じたんだ」
    「それは」
    間。口を開きかけるリッチ。息をのむ
    「……論理的思考」
    「中華に足りないものはこれだ。そしてこれこそが大明の、いやこの世界のすべての人が学ぶべきことだ」

    利、ちょっと涙ぐみ、指で拭う。それを隠すように、顏の前で指を組む。イタリア語で祈りをささげる。
    「――主よ。ああ、我らが父よ。―Dio mio,O,Padre nostro.
     貴方が与えたまいし光に。Ti ringrazio sinceramente
     天啓(みちびき)に。 per avermi dato la luce e la rivelazione
     私は今、心よりの感謝をささげます。 che mi hai dato―」
    「……?今、なんて言ったんだ?」
    無邪気そうに問う徐。間。リッチ、答えない。

    「でもこの子は本当に難しい。ワタシくらいの才能がないと、手におえる相手ジャナイ」
    「知るかそんなの。もしここで背を向けたとしても、問題は消えない。むしろどんどん手遅れになるだけだ。困難なら、いつでも受けて立ってやる。……言っておくけどな、たとえ死んだって、僕は諦めないからな」
    「いいか、必ず完成させるんだ」
    「そのためなら、仕事なんていくらでもサボってやる!!」
    まぶしげ。

    「……」
    「それはチョット、ちがいマスネ」

    幾何原本でしめる。


    ====
    la porta aperta(伊)とは 英語だと「the opened door」
    作品通りの意味ですが、実際に晩年のリッチが「自分の働きによって、キリスト教に対する中国の門は開かれた」と後輩たちを励ます意味で使った語でもあります。

    リッチが思考法を育てるために『幾何学原論』の翻訳を重視していたこと、上長に認められずくすぶっていたというのは事実です。(文人の読み物に足るような翻訳が出来ないから、理由も)

    もちろん、徐光啓が幾何学原論の翻訳を強く希望したということも。『幾何原本』の翻訳は、それぞれにとって最高のめぐりあわせが生んだ奇跡的なことだったんです。

    イタリア語でしゃべってる時の賢そうなリッチ先生を書くのが好き。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works