そんな貴方を好きになった 随分前に離婚してから頭に恋愛の二文字はなかった。仕事でそんな余裕がなかったというのも事実だが、何より既に二度失敗を重ねている渡瀬には己の恋人が満足できるほど構ってやれる自信がなかった。
みたび自分を愛してくれた者を傷つけてしまうかもしれないという思いもあって、渡瀬は初めに告白を受けた時にかなり口酸っぱく忠告した。しかし暖簾の腕押しとでもいうように「でしょうね」とだけ返されて終わった。ついでに「ワタクシはそういう貴方に惚れたのでお気になさらなくても結構ですよ」と言われて言葉に詰まった。
結局変わったことといえば連絡先を交換したことぐらいだった。
「はい、お返ししますよ。ありがとうございました」
「……ああ」
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