双子コーデ「おはよー利三」
「あぁ、おはようございます。さまのす…け……?」
とある気持ちの良い朝。
光秀様へ朝食をお運びし、今日一日のスケジュールを頭の中で思い浮かべながら廊下を歩いていると、後ろから左馬之助に声をかけられた。
朝の挨拶を返して振り返った先。左馬之助の姿を見て、私は思わず呆然と立ち尽くしてしまった。
「あれ?どーしたの利三?そんな鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔しちゃってぇ」
「だ、誰が鳩ですか…!いえ、そうではなくて……」
思わず返事をしてしまったが、私が聞きたいのはそんな事では無いのである。驚いて言葉を失ってしまったが、私が聞きたいのは——。
「あ、貴方、その髪型はいったいどうしたんです!?」
「んーー?イメチェン♡」
「いや、イメチェンって…な、なんでそんな……」
左馬之助の髪色は前日とは全く異なるものになっていた。それだけなら別に良いのである。誰だって気分で髪色は変えるもの。
しかし、その色は……。
「何故、私と同じような髪色に!?」
そう。その髪色は私と瓜二つだったのである。
しかも髪型まで鏡写しの様に、そっくりそのまま。髪質の違いで私の様なストレートでは無いが、分け目からまとめたポニーテールまで同じとなると流石に異様だ。
「良いでしょ?俺も丁度髪色変えたくなっちゃってさ。この間利光にしてあげたやつが良かったから、俺も同じのにしちゃった」
「しちゃったって……そもそも私の髪色だって貴方が『光秀様の桔梗をイメージした色を入れたくない?』と言い出して無理やり……」
「えーー?無理やりだなんて人聞きの悪い。利三だって恐れ多いとか言いながらも乗り気だったじゃない」
確かに思いましたとも!恐れ多くはありますが、あの方と同じ色を纏ってあの方の隣に立つ。想像するだけで心が震え、思わず左馬之助にされるがまま髪を染めてしまいました。
綺麗に染め上げられた髪に満足して、そのまま気付いたらヘアセットまでされるがまま……。
悪くない出来栄えに少し満足していると、左馬之助に強引に連れられ光秀様に見てもらうことになって——
「似合ってるよ、利三…」
あぁ!!あのお言葉!!
もう二度とこの髪型から変えはすまいと誓いましたのに…!
「ハッ!もしや、光秀様に褒められたこの髪型を羨んで、同じ髪型に変えたのですか!?」
「え?」
確かにそれならば納得出来ます。
私だって、もしそんな場面を見たら……そいつを殺してしまうかも知れませんね。
褒められたのが左馬之助ならば……まぁ、同じ髪型にしてしまうかも…?
「あー、んーー、ちょっと違うんだけどねぇ」
「それ以外に一体どんな理由で私と同じ髪型にしようだなんて思うんです?」
「えー?単純に利三とお揃いにしたかっただけだけど?」
「……は?」
オソロイ……?
おそろい……お揃い!?
「私と…お揃いに?……なぜです?」
「なんでって、これから一緒に光秀様のお側でお仕えするんだからさ、お揃いにしたら見栄えすると思わない?この髪型で光秀様の両脇に立つの、想像してみてよ?良い感じじゃない?」
言われて想像してみる。
艶やかな烏の塗れ羽色の髪がお美しい光秀様。その両脇に並び立つ左馬之助と私。
光秀様とは対照的な色素の薄い金髪に、光秀様を象徴する桔梗をイメージした紅桔梗色が覗く髪型。
想像して……夢想して……
「……良い…かもしれませんね」
「でしょー?絶対映えるよ?ってことで、良いよね?この髪型」
「うっ……ま、まぁ…良いでしょう。しかし、貴方がこんなことを言い出すのは意外でしたね」
「形から入るのもアリかなーってね。ふふ。光秀様の為に、これから二人で頑張ろうね、利三」
――そう。これからは利三と二人、光秀様にお仕えするんだもの。2人仲良く「おいたわしや”ごっこ”」しようね、利三。