クライナーチャレンジふみ天 踊るための音楽が鳴る中、ふみやは喧騒に耳を塞ぎそうになるのを我慢してソフトドリンクに口をつける。
ドリンクバーの前でキャピキャピとしている金髪と黒髪のテキーラガールの二人組には未成年なことがバレているせいで悪さはできない。
天彦のショーが終わり、セカンドフロアにいるふみやに少しだけ顔を見せたものの、まだ何か用事があるのか放置されている気になる。
「でも、終わったら夜しかやってないケーキ屋行くしな……」
夜営業のケーキ屋があるから帰りに寄りましょうねと笑顔で言われてしまったので暇だが待つしかない。
メインフロアで歓声が上がった。
ふみやが顔を上げると、エナメルのウエイターベストとショートパンツを着て、首元をリボンで飾った天彦がニコニコと笑顔を見せながらフロアの真ん中に歩いてくるのがドリンクバーのモニターから見える。
「あっ」
ふみやが画面を見ていることに気づいた金髪の子が、微妙な顔をしながら声を上げた。
「知らないっぽくない? 言った方が良いんじゃない?」
「あー、見たらビビるよね」
ふたりでコソコソと話したかと思うと彼女たちがドリンクバーに置かれていたラミネートされたメニュー表を持ってふみやの前にやってくると、その一部分をビシィッと指し示した。
「ゲストに、よる、口移しチャレンジ……」
彼女たちは箱に入った手のひらよりももっと小さい瓶をひとつ摘み、持ち上げるとラメのついた睫毛でウインクをしながら可愛らしい笑顔を浮かべて振った。
フロアの真ん中で天彦は摘めるくらいの小さな瓶も持ってきた女性を前に満面の笑顔を見せた。頬を紅潮させ、少しだけ人前で緊張しているのか小瓶を持つ手が震えている。
嗚呼、何という可憐さとセクシーさ。
人の多くいる舞台で天堂天彦と相対する度胸を持ちながらも、反するように緊張する体を持つ。
「さぁ、飲みますか? 飲ませていただけますか? はい、ええ、もちろん! では、少しだけ顔を上げてください」
小さな瓶の蓋を開き、彼女の口に底の方を咥えてもらう。そして、口の方を天彦が吸うように口をつけると女性の肩を支えるようにゆっくりと天彦が身を屈め、彼女にはこちらに瓶を傾けて貰う。ギュッと瞑っていた目がパチリと開き、天彦の瞳と合うと涙がじわりと潤んだ。
中身を飲みきり、二本の指で摘むように小瓶を取り上げて天彦が掲げると客からの歓声が飛んでくる。
「フフッ、ありがとう。よくできました」
声をかけるも天彦のセクシーさにあてられたのかフラフラとしながら舞台から女性が降り、また違う客が同じように高揚と緊張の狭間を抱えながらやってくる。
飲まされたり飲んだりを繰り返し、最後にやってきた彼の姿に天彦は誰にも気づかれないように身震いをした。
不機嫌そうな顔を隠しもしないのでスタッフに不思議そうな顔をされているふみやに天彦は少しだけ微笑む。
こちらに近づいてきたふみやの耳元に天彦は唇を近づけて囁いた。
「では、飲ませてくださいね。ふみやさん」
はぁ、とため息を吐きながらふみやは天彦の肩を掴んでグッと押して片膝をつかせる。
「本当さぁ、イヤなやつ……」
「イヤらしいって言ってくれても良いんですよ?」
ふみやはその場に両足を開くようにしゃがむと小瓶の蓋を開き、天彦の頭を伏せさせ小瓶の口を咥えさせた。
「ん、フフッ……しぇくしーれすね」
「笑うなよ」
ふみやは天彦の両肩に両肘を置くように腕を伸ばすと天彦の頭の後ろで指を組む。
天彦の顔を他の客から遮り、頭を抱き寄せるように。
下から瓶の底をふみやを噛むように唇に挟むと表情を変えることはなく深い紫の目を開けたまま、キスをして押し倒すかのように斜めに顔を傾げながら天彦の口内に瓶の中に入った液体を流し込む。
「ん、んッ……」
漏れた天彦の声にふみやが満足そうな顔をすると小瓶をそのまま咥え、天彦から離れると舞台の正面からひょいっと飛び降りた。上がる歓声にふみやは何も答えずにメインフロアを突っ切るように歩いていくと最後にチラリと天彦に目配せをしてから去って行った。
きっと今自分は最初に口移しチャレンジをした子のようにきっと頬は紅潮して涙で瞳は潤んでいるのだろうと天彦は、喉の奥で笑う。
天彦は顔を整えるように首を振ってから伏せていた顔を上げて大勢の拍手と声を受け入れる。
「さあ、皆々様方、セクシーなひと時をどうもありがとうございます! ワールドセクシーアンバサダー、世界セクシー大使、天堂天彦でした!」