舞台のあなたに恋をして。舞台で自由に踊る天彦は、いつもと違う彼だった。
その姿が艶やかで、美しく、愛らしさも兼ね備えていることに、ふみやは驚いた。衣装は、裸に近しいようなエロティックなものなのに、不思議と下品には見えない。彼は、エロくても上品なエロさを醸し出しているのだ。他のダンサーなんて、霞んでしまうくらい、誰しも舞台の天彦に夢中だった。
危険な笑みを浮かべながら、くるくると器用にポールダンスを踊る彼は、本当に自分が知っているあの天堂天彦なのだろうか。
だって、あんな天彦を今の今まで俺は知らない。
ーーーもう駄目だ。ふみやは、彼の存在から目を離せなかった。好き勝手に踊るあの男を目で追うことしか出来ない。
「最後は、せーの……エクスタシー!」
彼が、笑顔で決めポーズを決めると、観客は湧いて拍手の嵐だったが、ふみやは呆然と見つめることしか出来なかった。
※
「ふみやさーん!来てくれたんですね!いかがでした?」
「お前、誰だよ。お前、本当に天彦なの?」
「はい?」
「だって、今の天彦、舞台と全然違うじゃん。別人だよ。狡い。詐欺だよ。反則だ」
「え?ええっ?何が狡くて反則なんですか?」
「……もういい」
いつもの天彦を見て、ふみやは本人を前に明らかに落胆してしまう。ぷいっと彼に背を向けて、歩き出すと後ろから慌てた彼の声が聞こえた。
「ふみやさんっ待って下さい!もう少しで片付け終わるので、一緒に帰りましょう?ね?」
「……次のショーは、いつなの?」
「え?ええっと…金曜日の21時スタートですが」
「観に行くからチケット、絶対くれる?」
「ええ、まだ余っていますから良いですが…」
「じゃあ、待ってる。早くして」
不思議そうに首を傾げながら、天彦は「わかりました」と返事をして関係者以外立ち入り禁止の札がかかっている扉の向こうへと消えていった。
「……あの舞台の天彦に、また会えるんだな」
ふふ、と笑って、ふみやは今日のチケットの半券にキスをすると大切に財布の中へとしまった。