「約束」「次の回顧祭には帰ってくるから」
そう約束した彼が試験区域で回収されたと知らせを受けてからの記憶は曖昧だ。
「外で、生きている花を見つけたんだ」
嬉しそうに通信してきたその映像が彼との永遠の別れになるなんて。
数日前に荷物が届いたばかりだったのに。
帰ってくるのを心待ちにしていたのに。
帰ってくるって約束したのに。
自暴自棄になっていたのかもしれない。
半ば強制的に療養院へ入れられてメンタルの治療をすることになった。
これ以上悪化すルと強制的に彼に関する記憶を消去すルことにナりまスよ、と白い猫からは勧告を受けた。
近い将来、自分が彼岸へ行っても彼がいないのならそれもいいのかもしれない。
治療の後、自室には戻りたくなくてふらりと足が院内のライブラリへ向く。
そこでふと目に付いたのは花の図録。彼が送ってきた種から咲いたあの花、猫達に焼かれてしまったあの花には名前はついていたのだろうか。
特徴的な形をしていたから覚えている。その項目はすぐ見つけることができた。
花の名前の下に小さく『花言葉:友情』と書かれた単語が目に付く。途端に目から涙が溢れてきた。
友情。
彼は何を思って外へ行ったのだろうか。壁の中は彼にとっては窮屈な世界だったのだろうか。彼は私にも外へ出てきて欲しくてこの花の種を送ってきたのだろうか。
今となっては真意を尋ねることはできないけれども、それならばせめて、私だけでも、私が彼岸へ行くその時まで、彼がこの世界に存在したことを忘れずにいることが彼への供養になるのであれば。
それが私の彼に対する友情なのだと思う。