チチャーズシャースエベレンズ ① 春。純也は三年生になった。
「はい。今年の三年二組の担任となりました。高橋です。みんなよろしくね。それと、今日から新しい仲間が増えます。入ってきて!」
高橋先生はドアの方を向いて言った。すると、おさげの女の子が入ってきた。
「この子は百合あいなちゃん。じゃあ、自己紹介をお願いします。」
「百合あいなです。三年生からだけど、よろしくお願いします。」
(あいなちゃんか・・・。かわいいな。)
ニコッと笑うあいなちゃんの笑顔は、とても可愛かった。
「うん。じゃあ席は、かおりちゃんの隣、あそこの席ね。では、授業を始めます。」
あいなちゃんは人気者だった。成績も優秀で、おしゃべりも得意。運動もできた。まさに、完全無欠のヒロインだった。
(俺とは真反対だな。)
純也は、勉強はぼちぼちで、あんまり友達はいなくて、運動は全くできなかった。
あいなちゃんは、クラスの一つのグループに入った。クラスは三つのグループに分かれてしまっている。あいなちゃんが入ったグループは、かおりちゃんが主な、女子チーム。かおりちゃんは社長令嬢な上、学級委員長で、賢くて、みんなの憧れだ。そしてもう一つは男子チーム。クラスの男子の半分以上はそのグループに入っている。そして最後はボッチたち。これはグループというか、形的にどのグループにも入っていない人たちだ。純也もボッチだった。男子チームからハブられた人、女子チームに入れてもらえなかった人など、さまざまだ。純也は小学校に入学してから、拓也の一人しか友達がいなかった。しかし、拓也も男子チームの人間だった。拓也とはいえが近く、幼馴染なだけで、拓也がどう思っているかはわからない。
「人生、面白くないなぁ。」
ある日。クラスが騒がしくなった。今日は給食費を持ってくる日。だけど、
「私のお金がない!」
かおりチームの咲希ちゃんの声が響いた。
「ちゃんともらってきたのに・・・。」
咲希ちゃんは泣きそうだった。
「誰よ!咲希の給食費を盗んだやつ!」
かおりちゃんが叫ぶ。教室がシーンとなる。
(はいはい。どうせ女子か男子かのいたずらだろ。かおり一番の取り巻きなんだから。男子チームがやったんじゃないの。)
純也は男子チームの方をチラッと見た。
しかし、怒りの火は純也に移ってきた。
「純也くん、みんながね、あなたがやったんじゃないかと言ってるの。」
「え、どうして俺なんですか。」
「なんでも、純也くんは今日朝早く来て、珍しいからなんだか理由があるのかなって思ったらしいの。純也くん、先生はね、純也くんに嘘はついてほしくないの。」
「俺はやってません!今日はたまたま寝坊せずにこれただけで・・・。」
「でも、みんなが言っているのよ。」
「じゃあ、実際に見た人がいるんですか?」
「いいえ。でもね、先生もあなたではないかと思うの。今日は落ち着きがなかったから。」
(なんで俺・・・?)
「純也くん、今ここで言うなら、許しはしないけど、怒りはしないわ。ほら、咲希ちゃんのお金を出して?」
「でも、俺、やってないし・・・。」
「はあ。先生は本当に残念です。私のクラスに人のお金を盗んで、嘘をつく子がいるなんて。明日、みんなの前で、「僕がやりました」と言ってね。」
「俺、やってません!」
「いい?これは決定事項です。」
(そんな・・・。いやだ・・・。)
この二人のやり取りに、誰かがいることを、二人は気づきませんでした。
次の日。純也は休もうかと思ったが、今日は大好きな社会の授業があるので、重い足乗りで学校に行った。
「はい。今日は純也くんから、大事なお話があるそうです。純也くん?」
純也がよばれて、純也はみんなの前に立つ。
(言わなきゃ。でも、俺はやってない。)
「咲希の、給食費は、お」
「私がとりましたっ!」
教室に大きな声が響く。あいなちゃんだ。
「あ、あいなちゃん?」
先生は恐る恐る言う。
「と、言えばいいものを、わざわざ人に罪を被せるなんて。人間として、どうかと思いますよ〜。」
あいなちゃんはたち上がってツカツカと前に出る。
「ね、かおりさん。」
あいなちゃんはかおりちゃんの名前を口に出す。かおりちゃんは口が空いて、あんぐりとしている。
「ちょっと、あいなちゃん?かおりちゃんが、どうしたの?」
「むぅ。わかってくせにぃ。かおりさんが犯人なんですよ。咲希さんの給食費を盗んだ、ね。」
「かおりが・・・。」
純也はびっくりして、つぶやく。
「え?でも、純也くんが犯人だと言ったのはかおりちゃんなんだよ?」
「犯人はそういうに決まってるじゃないの。」
「え、私はやってない・・・。」
かおりちゃんは泣き出す。すると、取り巻きたちが声を上げる。
「そうよ、そうよ。」
「かおりちゃんはお金を盗まなくったって、お金持ちなんだから。」
「全くの濡れ衣よ!」
そう言われても、あいなちゃんは顔色ひとつ変えない。
「はあ。将来は女優でも目指したらどうですか。人を洗脳させるなんて、どうかと思いますけどね。いいですか?まず第一に、咲希さんがお金がないと言った時のあなたの反応です。」
『誰よ!咲希のお金を盗んだやつ!』
「普通の人なら、まず事情を聞くでしょうね。お金がない=盗まれた。これは犯人特有の反応の仕方です。まあ、ここではまだかおりさんが犯人とは、確定はできませんねぇ。そしてもう一つ、これは社会的な理由です。かおりさんと咲希さんの会社は、いがみ合ってますよねぇ。しかも、かおりさんの方の会社の方が評価が低い。」
「ちょっと!なんで私が社長令嬢だってしって・・・。」
咲希が割り込む。
「そのくらい調べたら出てきますよ。特殊なやつでね。だからかおりさんはお父さんに言われて給食費を盗んだ。なんと、咲希さんのお金にはいつも、学校への寄付金として、大量のお金が入っているのですから。ちょっとのお金でも、落ちかけているかおりさんの会社にとってはありがたい。しかしこれはかおりさんの問題でもありますが、問題じゃない。社長の問題ですね。ああ。疲れた。」
あいなちゃんは大きなあくびをした。
「でも!ここからが大事なんですよねぇ。これで全て終わるんですよ。今のなんだったのだろう。じゃあ、これを見てくださいよ。」
「チチャーズシャースエベレンズ!!」
あいなちゃんが叫んだ。すると空中に大きな画面のようなものが現れた。
『ザサゴソ。あった、咲希の給食費。』
かおりちゃんが咲希ちゃんのバックの中をあさって、茶色い封筒を出した。それは、給食費の封筒。
「私のっ!」
そこにはしっかりと咲希ちゃんの名前が刻まれていた。すると、映像が変わった。
『先生、咲希の給食費を盗んだのは、純也です、ということにして置いてください。じゃないと、先生の旦那さんの会社が危ないですよ。いいですよね。』
『でも・・・。』
『いいですよ、ね。』
『・・・、わかったわ。』
そこで映像が消え、画面も消えた。
「私・・・、お父様に・・・。」
「うん。社長なら、さっき捕まったよ。他にも色々汚職をしていたからね。」
すると、ガラガラとドアを開けて、警察が入ってきた。
「共犯人として、かおりさんを逮捕します。」
「いやだ・・・!」
「大丈夫。何かあったら、私が来ると思うよ。」
あいなちゃんはニコッと笑った。かおりちゃんは泣き止んだ。そして、警察に連れて行かれた。
「なあ、お前さぁ、何者なんだ。さっきだって、チチャーとか、あれ、何?」
「そうですね。私はー」
ジリリリリリリリリリリリリ!ベルが鳴った。
「あら、時間切れです。ではまあ会える日を!」
あいなちゃんはそう言って、どこかに消えていった。
「おいっ!」
彼女が何者なのか、それはまだわかりません。
ー終わりーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読んでくださり、ありがとうございます。
漫画書いてくださる方、募集してます!
詳細は、私の自己紹介欄に記載しています。
気軽に言ってください。