夜の寒さが身に染みる。
意外にも高い彼のプライドのために、これは自分のためだと言うように体を寄せる。
先程から続いていた震えはようやく止まったようだ。
奉一の得物——三味線の三の糸が標的の首を締め上げたまではよかった。そのまま首の肉を裂き、小雨となって降り注ぐ。一瞬の出来事だった。
その瞬間、奉一の顔は見たことのない恐怖に染まっていた。彦助は咄嗟に奉一の体を引っ張り寄せる。
「おい、大丈夫か!?」
血糊で服が汚れるのも構わずに声を掛ける。
見たことのない様相。彦助の服を掴んだ手に上手く力が入っていない。誰がどう見たって、大丈夫では無かった。
「……分かった。とりあえず息をしろ。そう……ゆっくりだ」
「…………」
人はパニックになると呼吸の仕方から忘れていく。
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