「ん……あぇ、おれ、寝てた…?」
寝起き特有の舌足らずな声が彦助の耳をくすぐる。明日の休みのために色々と頑張っていたのは知っている。ソファでうたた寝をしていた奉一を見て、愛おしさと同時に、最初から一緒についていけないことに悔しさが込み上げてくる。
同じ事務所の仲間たちと一緒に海に行こうと決まったのが数週間前。人はたくさんいたほうが楽しいだろうから、自分たちのことを知っている近しい友人も連れてきていいよ、ということを伝えられて彦助がスケジュール帳を確認すればその日は朝からどうしても外せない仕事が入っていた。
それに気付いたときの彦助の荒れ具合といったら。同じスタイリスト仲間に代わってもらえば…だとか、果ては仕事をキャンセルするだの、今後の仕事の信頼に関わるようなことを言い出すので奉一は全力で止めた。
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