ある青年の話 それを見たのは早朝の学園の中庭だった。
自分にしては珍しく、目覚ましが鳴るよりずっと早くに目が醒めた朝。いつもなら早く起きたとしても目覚ましが鳴るまでずっとベッドでゴロゴロするというのに、その日は何故か、たまには良いかもしれないという漠然とした理由で制服に着替え、寮から学園に向かったのだ。そう、本当にただの気まぐれだった。
今思うと、神の導きだったのかもしれない。
渡り廊下を歩き、階段を下りて、中庭に出る。朝日が昇ったばかりの中庭は、見える景色全てが普段より明るく、濃く見える。空気が澄んでいるからなのだろうか。綺麗だ、と素直に思った。
二度寝も気持ちがいいが、早朝の散歩も悪くない、と顔を綻ばせながら青年は中庭の隅々に目をやる。その時だった。誰もいないはずの中庭に人影を見つけたのは。
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