勘違いした新郎 念願叶った、愛した女との結婚式。男の身を案じて式を上げないと言う女を説得し、何とか漕ぎつけた夢の日だ。最愛の彼女には女の私よりも熱心ね、と揶揄い交じりに呆れられたがそんな事構っちゃいられなかった。何せ男が世界で一番美しいと思っている女のウエディングドレス姿を、男は世界の誰よりも渇望していたからだ。
ドキドキ、ソワソワ。今か今かと新婦の入場を待っていたのだが、待てど暮らせど彼女がやって来ない。
一体どうした事かと男が様子を見に外へ出ようかと思っていると、どうにもドアの外が騒がしい。何かトラブルがあったのかと迷っている内に、バンッ! と大きな音がしてバージンロードのドアが開かれた。男の視界に美しい白が広がり、ホッと息を吐くも男はギョッとした。
「ごめんね! 花嫁が通るよ!」
本日の主役、男の花嫁が謎の白いスーツ姿の男に横抱きにされているのだ!
余りの事にあんぐり口を開く男を余所に、花嫁を抱えた男はドタバタと間抜けな走り方でバージンロードを駆けよって来た。本来花嫁は自分の父親とバージンロードを歩くものだが、花嫁に両親は居なかった。いや父親は生きてはいるのだが今は檻の中だ。だから彼女は一人でこの道を歩く予定で……彼女を抱き上げる、不埒な男など居ない筈で……。
「はい! 花嫁さんのお届けだよ」
男の耳に闖入者の言葉など届く筈も無く。新婦は咄嗟に横抱きから降ろされた花嫁を背に庇い、近くにあった飾り用の花瓶を引っ掴むと男に殴りかかった。痛がる素振りを見せる闖入者を勢いのままドアから追い出し振り返ると、花嫁が唖然とした顔で男を見つめ、それから堪えきれないと言った風に噴き出した。
あぁ、とんだ結婚式になってしまったが、やっぱり自分の花嫁こそが世界一可愛いと男は思った。
「あいたた……。あー……酷い目に合った」
「ご愁傷様〝間男〟。少しは偽善の安売りは止めたらどうだ?」
「仕方が無いだろ! 娘を守る、それが自首の条件だったんだから」
「何でこっちが条件を聞いてやらないといけないんだ」
「あぁもう良いから喧嘩するな」
「相変わらず闘うのか下手なコイツが悪い」
「五月蠅いな! 僕は今日みたいな、誰かを守る方が性に合ってるんだよ!」