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    8ruta_op

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    BORDER組の関係性の話 またの名を家族になりたい人たちの話
    #バンスクFA 小説でこのタグ使って良いのかずっとわからん

    #バンスクFA
    banskFa
    #岩咲誉
    honorIwasaki
    #浅海星桜
    asamiStar

    ホリゾン・ブルー リフトのコンビ、というのが定番になりつつある。準備体操くらいならそのときちょうど隣にいたぐらいの理由で適当な相手と組むが(むしろ準備体操で星桜が誉と組むことなどほぼない)、ペアダンスとなると沙鳥先生に指定されたリフトのコンビで行うのがビートラの暗黙の了解になっているのだ。
     星桜としては、不満も大いにあるが、だからといって誉以外とリフトやその他のペアダンスが出来るかと言われると疑問がある。蓮と優一郎は割り込めないものがあるし、草太は暴れそうだし、エルヴィスには振り回されそう。太陽は上手いから星桜に合わせてくれるだろうが、なんだかつまらない。結局誉に体を預けて自分が誉の分まで表現してやって、注目を集めるのが向いているのだ。
     今日だって結局レッスンを誉とこなしている。いつか、太陽を嫌っていたというどこぞの誰かに言ったみたいにリフトだけは完璧で、本当はリフト以外だって完璧なのだ。だって悔しいけど誉は顔が良い。星桜だって努力しているから悪くはない。その二人が揃った時点でたいていの奴らは蹴散らせるし。一番上手い太陽から「浅海くんと岩咲くんのコンビは最近安定して良いね」との講評をもらってレッスンは終了。
     ただ、それだけで終わるわけでもない。
     ひとつ、気持ちが落ちていた。今日も誉の家に行こうか、いやレッスンに来れているなら家に余裕があるな、あまり深入りしない方がいいな、なんて考えていたのだ。星桜の両親は二人とも夜勤の日で、一人の家に帰るのも嫌だなと思っていた。もうひとつ、それを振り払うつもりで「今日は配信でもしよっかなー」と呟いてみたら誉がいつもの調子で「またすぐボロ出すんだからやめときなよクソ短気」と罵ってきたことである。
     これは百、誉が悪い。だからひでえと一度だけ言い返して無視するのが一番。そうわかっていても、こんなのは理屈の話で、実際に出た言葉は「ハァ? 表出ろや」だった。こうなったら完全に悪いのはどちらとも、喧嘩両成敗の域である。
     それに、誉と星桜がこうして喧嘩するのは日常茶飯事なのでビートラのメンバーは誰もとめてくれない。太陽なんかは苦笑して「ほんとに仲が悪いというか良いというか」と遠巻きに見ている。
    「仲良くねーし!」
     誉にガンを飛ばしている最中ではあるが、それだけはきっちり訂正しておかねばならない。すると太陽のそばで首を傾げているエルヴィスが見えた。
    「ケンカするほど仲が良い、ってことなら、友達だヨネ」
    「なんでそんなことわざだけ知ってんの? 友達じゃねーし!」
     これにも訂正を入れる。誉は黙ったまま帰宅の準備を進めている。星桜に異論があれば絶対につっかかってくるのに、こういうところがまた気に食わない。
     エルヴィスは傾げた首をさらに傾げて「友達じゃないなら、何なの?」と星桜をまっすぐに見つめ返してくる。
    「う、それはだなあ……それは……おい誉ちゃん! 俺を置いて逃げんじゃねえ!」
    「うるさい。うっとうしい。僕急ぐから」
     星桜が振り返ると誉はもうバッグを背負って帰るところだった。じゃあ、と言ってスタジオを出ていく。レッスン後だというのにどこか小走りなのは本当に急いでいるのだろう。どうせ理由は早く家族に会いたいからとかだろうが、誉の家族愛については星桜のみが知るところなので黙るしかない。話題の人が片方いなくなればもう話すこともない。その場はなんとなく白けてお開きになり、星桜は一人の帰り道を辿った。
     ダンスの息は合う。一緒に飯を食う仲でもある。話す時間も多い。けど、友達ではない。
     そこまで考えて、星桜は道中転がっていた小石を蹴り飛ばした。


    「あー、さっみ」
     真っ暗な家に帰宅して、第一声はあいさつではなく独り言で。暖房のリモコンを探して、設定温度は高めで電源を入れる。
    「はーあ。パパもママも夜勤かあ」
     こういったことはまれにある。別々のところに勤めているから、調整が難しいのだろうけど。買ってきた夕飯はおにぎりが二つ。好物の鮭と、安いツナマヨだ。余ったお金は小遣いにして今度のアウターを買う資金にするつもりだ。
     おにぎりの包装を破り、かぶりつきながら冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出す。紙コップにお茶を注いで、飲み干すとゴミの包装を紙コップに仕舞う。
    「お、こっちが鮭」
     特に何も見ずに包装を開けたから食べてみてやっと気づく。ぱり、と海苔が渇いた音を出す。
     今頃誉は何を食べているのだろうか。おにぎり、なんかじゃないだろうな。母親がいる様子だったから晩飯は作ってもらうのだろうか。でも誉のことだからきっと手伝いはするだろう。そうすると一品だけじゃなくて二品くらいは出来上がる。米を炊いておいて、おかずがひとつと、味噌汁かスープかがひとつと。
     そういうものを、星桜も食べたことがある。誉と共に。母親が夜勤だという誉と一緒に作って、誉と一緒に食べたものだ。近頃はカレーだけじゃなくてシチューやグラタンも作れるようになってきた。もちろん見栄えだって良くてSNSに上げた写真はどれも(映りこませた誉の顔も含め)好評だった。
     もしかすると、自分で作ってみてもいいのかもしれない。それで両親が喜んでくれて――なんて考えるだけむなしいことはやめよう。両親ふたりとも外食派だ。そもそも家にエプロンもない。
     おにぎりの二個目はなんとなく味気がなかったので無理矢理飲み込み、紙コップにまとめたゴミをそのままゴミ箱へ。風呂に入って髪のセットが崩れる前に配信やるか、とスマホを開くが特にやる気も起こらない。
     結局、今日は配信休むねと投稿してベッドに転がった。
     あーあ、とため息を吐く。あーあ。あーあ。何度もため息を吐く。
     こういうときに話し相手になってくれる人が欲しい、と星桜は思う。SNSは配信休みの投稿にいいねがつくくらいでわざわざコメントしてくれる人は少ない。それに、こういう人たちと話したいかと言われると少し違う気もする。
     じゃあ、どんな存在が欲しいのだろうか?
     ベッドの上で体を丸めて考える。話しやすいやつがいい。キラくんの話とかで盛り上がれるのもいいな。おしゃれなのは当然で、でもかわいい俺を褒めてくれて、毎日一緒にいて、飽きないような。くだらない喧嘩をするのも、たまになら許そう。
    「なんて、めーっちゃタカノゾミじゃんね」
     呟いておきながら、そんな存在が欲しいと思ってしまうのが止められない。あーあ、と最後のため息を吐いて、星桜は風呂に入るべくベッドを出た。


     夜勤明けの両親はだいたい寝ているので、邪魔をしないのが鉄則だ。当然配信をするわけにもいかないので何よりもつまらない日になる。誉の家に寄れれば良い、と思ってダンスレッスンの帰り、足早に帰る誉をわざわざ後ろから呼び止めた。
    「なーなー誉ちゃん。今日はいそがしーの?」
     逃げられないように、と思いながら肩に手を置いて話しかけると、あからさまに嫌そうな顔をしてその手を振り払ってきた。ボディタッチはまだだめ、ということらしい。寒いし結構着こんでいるようなのでいけると思ったが。
     誉は家族以外にガードが固い。それは知っていた。ちょっと見誤ったな、とは思うがまだ軽いジャブのようなものだし、とも思う。どちらにせよ間違ったのは星桜の方なので大人しく手を引く。でも答えを聞かなければ、自分の居場所がない。
    「どーなわけ」
    「ダンスの練習に来てるんだから。わかるでしょ」
     忙しくない、ということだ。じゃあ誉の家には寄れない。
     あーあ。
     何度目かわからないため息を心の中で吐いてみると、遠くから「お兄ちゃん!」と声が聞こえてきた。聞き馴染みのある、女の子の声。
    「あられ! 菫に時雨も……」
     誉が慌てて駆け寄るのを、背中から見守る。あんな兄弟がいるだけでどれほど違ったのだろう。星桜がそう思うのを誰も知らないまま、兄妹たちは会話を繰り広げる。
     どうしてこんなところへ。ママが急にやきんになったの。でもいつもは家で留守番してる約束だろう。ママがあわてていて、あられがさみしくなったみたいで、それで。
     それで? 星桜は思う。それくらいで兄を迎えに行こうって?
     でも彼女たちは本当にそう思ったようだった。母親の急なシフト変更で耐え切れなくって、兄を迎えに行けばその寂しさも紛れると思って。留守番してる約束は、三人そろっていれば許されると信じて。あーあ、と星桜はため息を吐く。俺の知らないことばっかしてるな。そういうところが憎いようで。
     しかしそのまま口に出すのもキャラではない。「おっじゃあ俺……ぼくもおうちに行っていいかなぁ?」と聞いてあげれば、末っ子のあられが真っ先に頷いた。やった、と笑う。あられの許可さえ得られれば残りの妹と誉の許可は得られたも同然だ。当の誉も「仕方ないな」と不機嫌そうにしながらも頷いている。
    「なー誉ちゃん。晩飯どーすんの」
    「時間ないし、チャーハンと野菜炒めかな」
    「材料は?」
    「残り物でどうにか出来ると思う」
    「ふーん。手伝ってやってもいいぜ」
    「一人で食べるのが寂しいだけでしょ」
    「……」
     星桜は遠くを見る。夕焼けがもうそこに迫っていて、「帰宅」時間を突き付けられる。でも、帰りたいわけではなくて。
    「……まーまー、そう言うなって」
     なんとかそう切り返したところで、交差点に姉妹が飛び出そうとしているのが見えた。車道側を歩いていた星桜にしか見えない角度で、車も見える。危ない、と叫ぶより早く体が動いていた。
    「あられちゃん……!」
     細い腕を、力の限り引きとめる。星桜とあられの年齢の差はそれなりにあって、この年齢の差はそれなりに大きくて、勢い余って後ろへとこけてしまったところを車が通りすぎていった。
    ――助けた。
     それだけの感慨が胸を満たした。思うより痛くないのは冬場でアウターを着こんでいたせいかもしれない。
    「あられちゃん、怪我してない?」
     ぱっとそれだけ尋ねると、あられは涙目になりながら頷く。「あさみくんは?」と聞き返されたので大丈夫だと手を振ると、彼女は安心したように少しだけ泣いた。誉はあられに「飛び出したら危ないだろ」とお兄ちゃんらしい台詞をかけながらちらちらとこちらを見てくる。


     まずは飯だな、とキッチンに向かおうとすると誉がその腕を掴んだ。
    「手洗って」
    「あーはいはいわかった」
    「あと、服。アウター汚した」
     そこで言葉が止まるかと思ったが、続く。
    「ごめん」
     そう言われてはこちらとしては返す言葉がない。なんとか茶化すようなものを探して「なんでお前が謝るわけ」と笑ってみると、誉は余計にばつが悪そうな顔をして俯いた。
    「弁償とか、できないし」
    「いーんだよ。それより見た? 俺の身を挺した救出劇」
     けらけらと笑ってみるが、誉は「でも」と納得しない。これはそれなりに本腰を入れてやらないとこっちまで困るやつだな、と思って、先にあたりを見渡す。
     妹たちは先に風呂に入るよう言い含めてある。幼いと言えど星桜とは性別が違うので一応三人でまとまって入るようにしてもらい、裸を見ない配慮はしてある。誉もそうなのだろう、長女の時雨とアイコンタクトを交わしただけで星桜のそばについた。だから、このキッチンにはふたりきりだ。
     ふたりきり、ということは星桜の言葉を聞く者も誉しかいない。星桜がどれほど誉や妹たちをうらやんでも、誉しか、星桜の醜い部分を知らない。
     そう思えばいろんな言葉が浮かぶような気がした。
     一人の家が寂しいこと。
     岩咲家の食卓に混ぜてもらえることが嬉しいこと。
     料理くらいできるようになったんだと、両親がまだ知らないこと。
     憎いほど、誉がうらやましいこと。
    「……姉妹とか兄弟とか、いいなって俺思うんだよね」
     なんとかまとめてみて、言葉になったのはこれだった。それは端的で、あたりまえで、でも星桜には切実なものだった。
    「俺一人っ子だからさー、やっぱ誉ちゃんたちとのことで疑似体験させてもらってるっていうか?」
    「僕の妹たちを勝手に使わないで」
    「はは、わりぃわりぃ」
     アウターを脱ぐ。肘や背中の部分がひどく汚れている。勲章だと思えるのが兄で、そう思えないのが一人っ子の差だと言うのなら星桜はどうしようもなく一人っ子だった。けれど同時に兄と言える部分も存在した。
     こんな二律背反な感情を人に話すのは憚られる。誉を見ると星桜の言葉を待っているようだった。そうだ、こいつはどうしようもなく、兄なのだった。だからどんなことを言っても受け入れられるだろうという予感がある。だったら、良いか。言ってしまっても。
    「兄弟とか、うっとうしいのかもしんないけど、やっぱ、いいじゃん」
    「そうだね」
     誉は静かに笑った。お兄ちゃん、の笑みだった。
    「少し前に、藤井に僕たちが友達かって聞かれたことあったでしょ」
    「ああ、あれ。友達じゃねえっつったやつ」
    「そう。友達にしては僕らは近すぎて、でも親友って感じでもないでしょ。じゃあなんなのかなってずっと考えてたんだけど、浅海はわかる?」
     頷くだけの答えが、星桜にはあった。けれどあえて「それ答えた方がいいやつ?」と笑ってみると、誉も笑って「別にいいよ」と返した。
    「いいよ。言っても言わなくても」
    「そう?」
    「むしろ言われたらちょっと怒るかも。僕にとっての家族は母さんと妹たちだけだから」
    「自分で言ってるし……」
    「でも、家族『みたい』なら許してやる」
    「なにそれ」
     けらけらと笑う。それを誉は心地よさそうに聞いている。
    「晩ご飯、一緒に作る?」
    「よろしく頼むぜ、『お兄ちゃん』」
     誕生日の早さからして、これで間違いないはずだ。誉も満足げに頷いた。


    「浅海くんと岩咲くん、リフトの完成度がまた上がったね」
     レッスン終了間際、太陽からまた講評をもらう。
    「鬼島くん瀬名くんみたいな信頼感があって、より一層お互いの体を預ける、預かることに抵抗がなくなってる。ふたりとも相手の呼吸をしっかり読んでるね」
     太陽はダンスが一番上手いだけあって講評もしっかりしている。大人顔負けのコメントを受け、星桜は誉と顔を見合わせた。
    「まあ、な」
    「まあ、ね」
     星桜が笑って、誉が頷く。それを見たエルヴィスが「仲良いね」と茶化した。
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