グレビリDW参加作品 お題「お茶会」【お茶会】
ショッピングモールのインテリアショップは、既に装いが冬仕様。暖かい飲み物にどうぞと、マグやスープマグなどといった食器がずらっと並べられている。色とりどりの食器を眺めているだけで、買う気はないはずなのになんとなく自分に合うのはどれだろうと選んでしまいそうになる。それは皆同じで、好きな色や柄を手に取っている人はたくさんいた。
そんな中に一人、紺のコートに身を包んだグレイが他のお客さんと同じようにひとつのマグを手に取ってまじまじと眺めている。
その背中に近寄るもう一人は、オレンジ色の髪色にゴーグルをした人物。ビリーである。忍足で近寄る様は、まさに今から驚かそうとしている光景だ。案の定、肩口を軽く叩くとぴくりと跳ねた身体。手に持っていたマグを落とさないようにぐっと込められた腕の力がふっと抜け息を吐くと、背後を振り返った。
「び、ビリーくん……」
「ワオ、そんなに驚いたの? 顔が真っ青だけど」
「も、持ってたマグ落とすかと思って……」
「あ、ごめんね。持ってるのは気付かなかったや」
「ううん。大丈夫……」
「買うの?」
「見てただけだよ、使えるのは、あるから」
「今持ってるのって、実家から持ってきた物だよね? 大分使い込んでる感じしたけど」
「あ、うん。子供の頃から使ってて……確かお父さんが買ってくれた、物で」
「そっか! 大事に使ってるんだね」
「嬉しくて小さい時はそればっかり使ってたんだ。それからは買い換えるのも面倒になっちゃってそのまま……」
「あは、グレイらしいね」
今グレイの手元にあるそのマグは、柄も特にない色だけが付いているマットな物。グレイのイメージカラーになっているグリーンの色を、そのまま塗ったようなマグだった。ビリーにいつのまにかじっと見られていることにグレイは居た堪れず元の場所へと戻す。
「そ、そろそろ行こっか、」
移動しようとすると、腕を掴まれ自然と足が止まった。
「俺っちもちょっとだけ見てもいい?」
「も、もちろん良いよ」
グレイの言葉にビリーは嬉しそうにそのまま腕を引っ張って歩き始めた。
突然のことで驚きながらも、グレイはされるがまま足がもつれない様に引っ張れられていく。そのまま連れていかれた場所は、店内奥の棚の前。店の入り口には置いていなかったマグが、そこには並べられていた。
「わあ、ここにも沢山あるんだね」
「んふふ♪ じ・つ・はー。ちょっと目につけてた物があってね?」
「うん?」
ビリーは「少し待っててね」と移動すると、両手にマグを持って戻ってきた。
その手にある片方を、グレイへと手渡す。なんてことはない白地のマグ。その飲み口と本体にラインが入っている。上がオレンジで下はグリーン。それは淡い色合いで。
「ね、グレイこの色、オイラ達の色なんだよ」
「そ、そうだね……確かに僕たちのイメージカラーだ……」
「でしょでしょ? しかもスタッキングマグだから邪魔になり難い優れもの! ね、グレイ。オイラとお揃いで買う気ない?」
「——お、おそ、ろい?」
「うん! これなら重ねて棚に収納できるからアッシュパイセンだって怒らないだろうし、いいでしょ?」
「えっと……僕は嬉しいけど、いいの?」
「もっちろん! 俺っちから言い出したんだから、グレイが嫌じゃないならお揃いで買お♪」
「う、うん……!」
二人は手に持ったまま早速レジへと向かい、お会計を済ます。クリスマスが近いこともあってか、お店の袋はクリスマス仕様になっていてそれだけでもなんだか特別な物を購入したような気持ちになり、気分上々に二人は次の店へと歩いていく。
「ビリーくん、お腹空いてない? 折角の休日だったのに、僕が半日潰れてたからご飯の時間過ぎちゃって……」
「それは、昨日の仕事の疲れでしょ? むしろグレイこそ、無理して来たんじゃないよね?」
「む、無理だなんてそんな……! 前から、今日はお出かけしようって約束、してたから」
「うーん、約束を覚えてくれてるのは嬉しいけど……あ、じゃあこうしよう? 美味しいカップケーキでも買って今日はゆっくり過ごそう〜!」
「え、えっと……」
「折角だし、今日買ったこのマグで美味しい紅茶を淹れて、二人でお茶会するってのはどう?」
「お茶会……」
「うん! 今日は天気も良いし、なんならエリオスタワーの屋上とかでのんびりする?」
「あ、だったら……あの、僕の家、はどうかな……? バディにも会いたいし……」
「いいの?」
「うん、うんいいよ。ビリーくんならいつでも歓迎だから、」
「やった! オイラもバディパイセンにご挨拶しなくちゃだね」
ビリーはわざわざ“ご挨拶”と言葉にした。それにはグレイも首を傾げる。そこまで改まった挨拶をするほど前に会いに行ってから時間は経っていないのに。
不思議そうにしている視線に気付いたビリーは、グレイに耳打ちした。
『グレイとお付き合い始めましたって、報告♪』
「!」
気付けば赤くなった頬。それはビリーも同じだった。照れ臭そうに笑う彼は、「じゃあ美味しい紅茶も買って帰ろ?」とグレイの手を引いて歩いていく。
「あ、バディパイセンにも特別なお菓子とか買っていこうかな?」
楽しそうに口にするビリーを見て、自然と笑顔になっていたグレイ。
いつの間にか隣に並んでいた彼に「ありがとう」と言葉にした。
「こちらこそ、ありがとうだよ」
見上げてそう言うビリーの表情に、グレイは息が詰まりそうだった。
優しく見上げるその瞳は、以前も見たことがあったから。
「そんなに見つめられると、オイラも恥ずかしいな、」
「あ、えっと……その、か、可愛くって……」
「可愛い?」
「うんかわ……ってごめんね!?ぼ、僕に可愛いだなんて言われてもそんな嬉しく、ないよね……」
「どうして? 嬉しいよ、ありがと」
よく見れば、ビリーの耳が赤くなっていた。気付いたグレイはいつもより少しだけ強引に、言葉を紡ぐ。
「うん。可愛い。実はビリーくんって結構照れてくれるの、僕凄く好き、だよ」
「! グレイ〜? オイラのこと揶揄ってるでしょ!」
「ふふ、ちょっとだけ、意地悪したくなっちゃって……」
「も〜〜!」
年相応にいじけるビリーを見て、またくすりと笑う。
ゆっくりと歩みを進めながら、残りの買うべき物を買ってショッピングモールを後にした二人であった。